「バンディの事件によって犯罪がエンターテイメントになった」『テッド・バンディ』ジョー・バリンジャー監督インタビュー

シリアルキラーの語源になったと言われる、アメリカを代表する連続殺人犯テッド・バンディ。ハンサムで人好きのするインテリでありながら、1970年代に若い女性たち30人以上を殺したとされる彼は、裁判が米国で初めてTV中継されるほどの注目を集めた。そんな殺人鬼の物語を、彼に殺されなかった長年の恋人リズの視点から描く映画『テッド・バンディ』ジョー・バリンジャー監督を直撃。アカデミー賞にもノミネートされたドキュメンタリーの名手として知られる彼に、この殺人鬼のストーリーを描いた理由や、サイコパスは人を愛せるかといった疑問をぶつけてみた。

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――あなたはテッド・バンディのドキュメンタリー(『殺人鬼の対話:テッド・バンディの場合』)をそもそも監督していて、それをエージェントに話したら本作の脚本が送られてきたそうですね。そもそもなぜ今のタイミングでバンディを取り上げることにしたのですか?

きっかけは、(ドキュメンタリーに登場している)著者のスティーヴン・ミショーから話があったことだ。彼は私の仕事ぶりを気に入ったそうで、25年前に出した自分の本と取材テープを元にしたバンディのドキュメンタリーを作らないかと言われた。正直なところ、私の第一印象は微妙だった。バンディといえば何度も映像化されて語り尽くされた印象で、ハードルが高い題材だったからね。でも、数カ月にわたってバンディ本人に取材したという音声テープを聴いて、背筋がゾクゾクした。そして、これなら殺人者の頭の中を描く上でそれまでになかった新しいアプローチができるかもしれないと思ったんだ。

でも確信はなかった。そこで、私には24歳と20歳の娘がいるんだが、二人に「テッド・バンディって誰か知ってるかい?」と聞いてみると、「知らない」という答えだった。娘たちの友達にも同じ質問をしてもらったが、若い世代は誰もバンディのことを知らなかった。だから、彼らへ警鐘を鳴らす上でも作るべきだと思ったんだ。世の中には普通の人間のように振舞っていても邪悪な存在もいると伝えるためにね。そこでドキュメンタリーに着手し、ちょっとした偶然から映画にも関わることになったんだよ。

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――アメリカでは若い世代にも知られた存在かと思っていました。1961年生まれの監督は1979年のバンディの裁判中継も覚えていらっしゃるのでしょうか?

よく覚えているよ。裁判がTV中継された時、私は十代だったからね。そういうものがTVで流れたのは初めてだったのでとても印象的だったんだ。その記憶があったからこそ、バンディのことを取り上げたくなったとも言える。私が思うに、バンディの裁判がTV中継されたことはある種の"ビッグバン"だった。あれをきっかけに、人々の実録犯罪に対する関心が高まり、アメリカのお茶の間にとって犯罪がエンターテイメントになった。それは良かったとも悪かったとも言えるのだが。

――バンディには、ハンサムでカリスマ的で知的でショーマンでありながらも残忍な殺人鬼といった風に様々な要素があります。そんなバンディの特にどの要素を、同役を演じるザック・エフロンに表してほしかったのですか?

全部だよ。なぜなら、シリアルキラーを主人公にした映画の多くは、その人物がどんなに卑劣で凶悪だとしても、映画の大部分のシーンではそうした顔を隠して周りの人を欺いているからだ。だから、ザックにもバンディのあらゆる面を表してほしかった。

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――ドキュメンタリーと映画の2種類でバンディの物語を描くことで、それぞれの作品に相乗効果が起きたりしましたか?

いい質問だね。両作を作ったことは想像しなかったほど大きな助けになった。第一に、それぞれのプロジェクトで何を描くかが非常に明確になった。ドキュメンタリーでは事件の全貌を伝えるとともに、殺人者の頭の中に迫っていった。彼がどうやって、どういう理由でそういうことを実行したのかを描いていったんだ。そして映画では、被害者の一人であるリズの視点から物語を再構成した。

第二の利点は、先にドキュメンタリーの大部分を撮り終わって、それを編集しながら映画の方に手を付けたんだが、ドキュメンタリーを作ったことで私はいわばバンディの"スペシャリスト"になっていたことだ。そのため、映画は非常にタイトなスケジュールで作ったんだが、自分の知識が映画のスタッフやキャストの助けになった。例えば、実際の裁判はどんな様子だったかをスタッフに伝えるためにドキュメンタリーの資料を渡したり、キャストに全貌を理解してもらうために配信前のドキュメンタリーを見せたりした。また、映画の中に挿入する事件や裁判の映像にドキュメンタリーで使わなかったものを利用することで、新たに撮影する手間やお金を節約することもできた。自分が両方を作っているからこそ、そうした裏技が使えたんだ。

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――本作はリズの回想録を元にしていますが、リズとバンディが最後に顔を合わせたり、存在しないキャラクターがいたり、判事のアクセントや外見が変わったりと事実と反する描写もありますね。普段ドキュメンタリーを撮ってきたあなたにとって、ドキュメンタリーではできないような映画ならではの表現方法はいかがでしたか?

いい質問だね。ドキュメンタリーは事実に沿うものでないといけないので、破れないルールがいくつかある。一方で映画では、オーディエンスに対して忠実でさえあれば多少のルール破りは許される。君が言うようにリズとバンディは最後にもう一度顔を合わせるのではなく実際は電話で話をしたんだが、それだと見た目に地味になってしまう。それに、「#MeToo」運動を受けて、リズには殺人者と面と向かい合って彼に事実を認めるよう詰め寄ってほしかった。テッドが口に出さずにガラスに書くという答え方もルールを曲げた例の一つだ。でも、ほとんどの場面は事実に忠実に描いているよ。

――本作製作にあたってあなたとリズ役のリリー・コリンズはリズ本人と会ったそうですが、それによってバンディの新たな一面を発見したりされましたか?

リズとの対面はとてもドラマティックで素晴らしい経験だった。リリーはそれまで実在の人物を演じたことがなかったので、モデルとなった人に会えることに興奮していた。リズは最初ちょっとよそよそしかったが、リリーとは会ってすぐに馬が合ったようで意気投合していたよ。おかげで我々を徐々に信頼してくれるようになり、本来は見せるつもりでなかった家族のアルバムも見せてくれた。その中にはスキー旅行やキャンプ、誕生日を楽しんでいる幸せそうな3人家族の写真がたくさんあった。どこにでもあるような風景だったが、ただ一つ普通でなかったのは、そこに写っている男性がテッド・バンディだったことだ。

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それらの写真を見ながら、自分たちは正しい道筋を進んでいるのだと確信した。バンディは、恐ろしい犯罪を重ねる一方で、生涯を通して普通の家族の一員として過ごしてきた。普通の家庭に生まれて両親や兄弟がおり、成人してからは恋人とその娘と一緒に何年も暮らしていた。彼を血の通った実在の人間として考えることが重要だったんだ。もちろん、それは彼がしたことを認めるという意味ではない。彼がやったことは筆舌に尽くしがたいほど酷い行為だ。大事なのは、自分の恋人や家族、知っている誰かが、とても恐ろしいことをするかもしれないということだ。それこそが我々がバンディの事件を受けて伝えていくべき教訓なんだよ。

――本作はリズのバンディへの愛を描いたストーリーとも言えるかと思いますが、対してバンディが彼女に執着したのはシリアルキラー特有のエゴなのか、本当にリズを愛していたのか、どちらだと思われますか?

いい質問だね。多くの人は、サイコパスは愛することができないと考えている。私自身はよく分からない。だが、愛をどう定義するかにもよるだろうね。愛がいわゆる、自分を犠牲にしてでも相手のためを思うものであれば、バンディはリズを愛していたとは言えないだろう。ただし、利己的な愛も存在する。そういう意味では、バンディはリズを愛していたと言えるかもしれないからね。

バンディは、自分の行為について殺しをそそのかす"声"が聞こえたと語っている。そう考えると、リズに対しては守りたいと思う何かを感じていたんだろう。でなければ、他の被害者のように彼女のことも殺していただろうからね。

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――『Paradise Lost(原題)』シリーズによって殺人罪で死刑・終身刑を受けていた人々を不当な判決だとして釈放へ導いたこともあるあなたですが、映像作品にはどのような力があると考えていらっしゃいますか?

私はwikipediaで「実録犯罪の先駆者」という風に紹介されているが、それを見ると複雑な気分になる。「先駆者」という部分は誇らしいが、「実録犯罪」というのは誰かがその犯罪によって傷ついていることを意味するわけだからね。だが我々の世界に犯罪が存在する以上、それを再構成して伝えることには意味があると思う。例えばテッド・バンディの物語は、インターネットなどを通して人々が実際の自分ではない姿を簡単に装うことができるようになった現代では特に大きな意味を持つだろう。

ストーリーには、何かに光を当て、違いを生み出す力があると信じている。だから、冤罪に苦しむ人などの題材を探しているんだ。良いストーリーには力がある。『Paradise Lost』のようにね。

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――バンディのほかにも「冷血」で描かれたクラッター一家の惨殺やTVシリーズの『ホミサイド/殺人捜査課』など様々な殺人事件を手掛けていらっしゃいますよね。今後取り上げたい犯罪者なり犯罪はおありですか?

友人に冗談交じりに言うんだ。私の仕事は「音楽」と「殺人」の2種類に分けられるってね(笑) 殺人にまつわる作品をいくつか作ると、次は音楽関連の仕事に取り掛かる、の繰り返しというわけだ。現在は『Wrong Man(原題)』という自分が犯していない罪で有罪になった人々の事件を再捜査するTVシリーズを手掛けているよ。あとは、Netflixで別の犯罪シリーズに取り掛かっている。それが今私の住んでいる世界と言えるね(笑)

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『テッド・バンディ』(配給:ファントム・フィルム)は、12月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー。

監督:ジョー・バリンジャー
原作:エリザベス・クレプファー『The Phantom Prince: My Life With Ted Bundy』
脚本:マイケル・ワーウィー
出演:ザック・エフロン リリー・コリンズ カヤ・スコデラーリオ/ジョン・マルコヴィッチ
原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile
提供:ファントム・フィルム ポニーキャニオン
配給:ファントム・フィルム R15+

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ジョー・バリンジャー監督
『テッド・バンディ』
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