コロナ禍の影響により、ステイホームでお正月を迎えられている方も多いと思いますが、年末から引き続きの自粛生活、そろそろテレビの特番も飽きてくるころじゃありませんか。そこでおすすめしたいのが、配信で観れるとっておきの新作映画5作品(2020年公開)。いずれもオスカー候補、または受賞者が携わった良作ばかりです。肌が合う、合わないは、もしかするとあるかもしれませんが、そこはご容赦いただき、お時間ある方はぜひご賞味を!
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『シカゴ7裁判』(Netflix)
悪徳判事の理不尽な裁判劇に怒り爆発!主人公7人と共に戦う気分が味わえる
『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞脚色賞受賞の名手アーロン・ソーキンがメガホンを執ったNetflixオリジナル映画『シカゴ7裁判』は、ベトナム戦争の抗議運動で強制的に逮捕・起訴されたキーマン7人(エディ・レッドメインらが熱演)の裁判の顛末を描く実録ドラマ。
ニュース映像を挟みながら、「彼らは本当に暴力の首謀者なのか」を徹底的に追求していく。特に裁判シーンは、偏見に満ちたホフマン判事(フランク・ランジェラ)が7人に対して猛威を振るう最大の山場。何かと言えば大声で威圧し、少しでも反抗すれば法廷侮辱罪で黙らせる、その目に余る独裁者ぶりに視聴者も被告の7人同様、頭から煙が出るくらい怒りに震え、「ホフマン判事に負けるな!」とばかりに拳を握りしめる自分がいる(はず)。オリバー・ストーン監督の『JFK』にも勝るとも劣らないスピード感あふれる演出も実に痛快。2時間10分、もうアドレナリン出っ放し。個人的にはアカデミー賞大本命の傑作だ。
『オン・ザ・ロック』(Apple TV+)
浮気疑惑でギクシャクする大人のラブコメをオヤジ目線で楽しむ快感
『ロスト・イン・トランスレーション』『ヴァージン・スーサイズ』などガーリー・カルチャー・ムービーの先駆者ソフィア・コッポラ監督が、ニューヨークを舞台に大人のラブ・コメディに挑んだ最新作『オン・ザ・ロック』。
Apple TV+で独占配信中の本作は、夫の浮気を疑うアラフォー妻のローラ(ラシダ・ジョーンズ)が、プレイボーイで鳴らした父フェリックス(ビル・マーレイ)に相談を持ちかけたことから、予想もしなかったドタバタ尾行劇が展開する。コッポラ監督はインタビューで、「ブレイク・エドワーズ(『ティファニーで朝食を』『テン』などの監督)のようなコメディを作りたかった」と語っているが、ほぼ狙い通り?"夫の浮気疑惑"をネタに暴走する父娘の奮闘をなんとも愛おしい悲喜劇に昇華させている。ちなみに娘を持つ筆者は、どうしても親目線で観てしまうのだが、結婚生活を疑うローラの苦悩に同情しつつも、娘を嫁がせた父フェリックスの切ない気持ちに共感せずにはいられない。娘を悩ます浮気疑惑の夫に対して沸き起こる"復讐心"と、ここぞとばかりに「ほら、やっぱりパパがいいだろ?」とばかりに娘をあちこち連れ出し探偵ごっこを楽しむ"親心"...。生歌や口笛を披露しながら、束の間、娘との夢の時間をかみしめるビル・マーレイの表情がそこはかとなく優しく、そして癒される。
『Mank/マンク』(Netflix)
不朽の名作『市民ケーン』誕生の裏側に隠された真実を脚本家の視点から活写する
『ゴーン・ガール』のデビッド・フィンチャー監督と『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』のオスカー俳優ゲイリー・オールドマンがタッグを組んだNetflixオリジナル映画『Mank/マンク』。フィンチャー監督の父ジャック・フィンチャーの遺稿をもとに、不朽の名作『市民ケーン』の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツ(ゲイリー)の劇的半生を活写する。
砂漠の別荘に缶詰にされながら『市民ケーン』の仕上げに追われる"現在"のハーマンと、何者にも屈しない売れっ子脚本家として躍動する"過去"のハーマンが入り乱れる独特の構成や、パンフォーカスを多用した奥深いモノクロームの映像など、『市民ケーン』で使われた手法にオマージュを捧げた演出が実に秀逸。ハリウッド黄金期の光と影を背景にしながら、名作誕生の壮絶な戦いを怒涛の展開であぶり出していく。中でも、泥酔したハーマンが自分をないがしろにする映画会社の宴席に乗り込んで、『市民ケーン』のモデルとなった新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストにドン・キホーテ論をぶちまけるシーンは、同作執筆の布石となった出来事として見逃せない名シーンだ。
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(Amazon Prime Video)
"大空"という大自然に囲まれた逃げ場のない壮大なる密室劇
『博士と彼女のセオリー』に続き再共演を果たしたフェリシティ・ジョーンズとエディ・レッドメインが、気球で前人未到の高度世界記録に挑んだ最強コンビを熱演するアドベンチャー・ドラマ。
舞台は1862年、ビクトリア朝時代のロンドン。資金提供を断たれた血気盛んな気象学者ジェームズ(エディ)は天気予測の可能性を証明するため、引きこもり生活を送る気球操縦士アメリア(フェリシティ)を口説き落とし、気球を飛ばすことに。二人は口論しながらも、より踏み込んだ調査を実現するため高度7,000メートルを超える飛行に挑むが、予想外に吹き荒れる嵐、低酸素症による脳へのダメージ、トラウマに苦しむアメリアのパニック発作、さらには想像を絶する寒さが襲いかかり、絶体絶命に!
気球の狭いスペースに二人きり。"大空"という大自然に囲まれながらも、逃げ場のない壮大な密室劇は、思わず声を上げてしまうほどの恐怖が迫りくる。役者の力量はもとより、気球トラブルを巧みに利用したアクション描写がとにかく見事。腕力だけで気球の上によじ登るシーンなど、高所恐怖症の方には酷な映像がふんだんに盛り込まれているが、危険度が高まれば高まるほど、二人の距離が縮まるプラトニックな恋も胸アツだ。
『ミッドナイト・スカイ』(Netflix)
滅亡寸前の地球と広大な宇宙を背景に描く深遠なるモノローグドラマ
ジョージ・クルーニーが製作・監督・主演を務めたNetflixオリジナル映画『ミッドナイト・スカイ』は、米作家リリー・ブルックス=ダルトンの小説『世界の終わりの天文台』を映像化したSFドラマ。
滅亡寸前の地球と広大な宇宙の狭間で人生を見つめ直す、孤独な科学者オーガスティン(ジョージ)のモノローグ的な作品だ。余計な説明は一切なく、視聴者は主人公の行動やリアクション、そして時折インサートされる若き日の暮らしぶりから、物語の背景や事の成り行きを推察しなければならない。ここを退屈に思う方もいると思うが、筆者は大いに探究心をそそられた。雪原が無限に広がる北極基地、主人公の体を蝕む末期ガン、謎の少女アイリスの出現、そして宇宙船アイテルの乗組員サリー(フェリシティ・ジョーンズ)との"運命"の交信...なぜオーガスティンは頑なに地球にとどまったのか。
『ゼロ・グラビティ』を彷彿させる迫力の宇宙描写(美術が素晴らしい!)や『レヴェナント 蘇えりし者』ばりのサバイバル描写も効果的に盛り込まれているが、スペクタクル映像に頼らず、一人の人間の深遠なる心の旅を丹念に描き切った潔さは評価に値する。御大クリント・イーストウッドに比べれば、監督7作目とまだまだ寡作だが、好不調を重ねながら、ジョージは名監督への道をしっかりと歩んでいる...本作を観てそう確信した。
(文/坂田正樹)
Photo:
Netflix『シカゴ7裁判』『Mank/マンク』『ミッドナイト・スカイ』/『オン・ザ・ロック』(c) 2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple/『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(c) 2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.