映画『キャプテン・フィリップス』(2013)に続き、トム・ハンクスとポール・グリーングラス監督が再びタッグを組んだNetflixオリジナル映画『この茫漠たる荒野で』が、本日2月10日(水)より配信スタート。ハリウッド黄金期(1930〜40年代)を彷彿とさせるいぶし銀のタイトルが目を引くこの作品、その名に違わぬ重厚な人間ドラマを軸にしながら、息もつかせぬスリリングな冒険活劇が視聴者を胸熱&釘付けにする。本年度ゴールデン・グローブ賞2部門(助演女優賞・作曲賞)ノミネート。これは間違いなく、今年のベストフィルムの1本だ。【映画レビュー】
南北戦争終戦後のアメリカ、世界の様々なニュースを読み伝えながら旅する退役軍人キッド(トム・ハンクス)は、ある日、森を彷徨う10歳の少女ジョハンナ(ヘレナ・ゼンゲル)を保護する。彼女は6年前、ネイティブ・アメリカンに連れ去られ、その家族に育てられたことから、英語が話せず、見知らぬ世界に困惑。引き取り手もない彼女を見かねたキッドは、共に旅することを決意するが、自然の猛威やならず者の襲撃が二人の行く手を阻む。
構造的には、『レオン』『パーフェクト ワールド』『グロリア』など傑作映画が多い"見知らぬ子どもとの逃亡劇"に類するが、本作を唯一無二なものにしているのは、やはり二人の役者の見事な演技に他ならない。正義感の強い少し枯れた初老の元軍人キッドを演じたトムはもはや名演だの、憑依だのという言葉では表現できない"佇まい"を見せる。過大に良い人ぶることなく、人生への疲労感、人助けへの躊躇、徐々に温めていく少女への想いが、体中から自然に溢れて出ているのだ。
それに対して、ドイツ出身の子役ヘレナは、最初は警戒心から猫パンチ的な牽制で距離を置くが、キッドの人柄を恐々と確かめながら徐々に懐に入っていく心模様を完璧に掴んでいた。ネイティブ・アメリカンに襲われ、そして育てられた、という複雑な生い立ちをジョハンナというキャラクターの中に(表情、言葉、振る舞いなどで)しっかり植え付けているところも只者じゃない。まさに助演女優賞も納得の演技だが、キッドと徐々に心を通わせ、別れ難き絆で結ばれていく様は、もう涙なしでは観られない。
さらにもう一つ、本作を平凡な感動ドラマに収めなかったグリーングラス監督の一皮剥けた演出も秀逸だった。『ボーン』シリーズや『ユナイテッド93』など、これまで細かいカット割と手持ちカメラによるスピード感溢れるアクション描写で観客を圧倒しまくってきた鬼才が、全編のトーンをあえて減速し、二人の心の動きに耳を澄ました"静"の演出で新境地を拓いている。もちろん、ならず者に追われたり、砂嵐に襲われたり、息を呑むアクションシーンもふんだんに盛り込まれているが、いつもの船酔いしそうなほどの目まぐるしさは鳴りを潜め、成熟した大人の"壮大なる人間ドラマ"として綴られているところも特筆しておきたい。
『この茫漠たる荒野で』は本日よりNetflixにて配信スタート。
(文/坂田正樹)
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Netflix映画『この茫漠たる荒野で』