映画『アベンジャーズ』シリーズ、さらにはマーベル・スタジオ製作のDisney+(ディズニープラス)によるドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で注目のセバスチャン・スタンが初主演を務め、名優ピーター・フォンダ、クリストファー・プラマー(今年2月に急逝)の遺作となった戦争大作『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』がいよいよ3月5日(金)より劇場公開される。次代のスター、セバスチャンとレジェンド級の俳優陣が織りなす感動のコラボレーション...、回想シーンで描かれる壮絶な戦闘バトルもさることながら、生死を分けた"真の勇気"が観る者の胸を締めつける。【映画レビュー】
1966年、熾烈を極めるベトナム戦争最中、米空軍落下傘救助隊の医療兵として60人以上の兵士の命を救い戦死した、実在の英雄ウィリアム・H・ピッツェンバーガー。彼の活躍は、兵士にとって最高の栄誉である「名誉勲章」に値するとして推薦されるが、なぜか政府に却下されてしまう。この真相を調査するため国防省のエリート職員スコット・ハフマン(セバスチャン)が派遣されるが、出世にしか興味がない彼はどうにも気合いが入らない。ところが、30年以上にわたり名誉勲章授与を求め続けた戦友たちの"心の叫び"を聴取するうちに、スコットの心の中で眠っていた"正義"が次第に覚醒し始める。
本作には二つの"疑問"がある。一つは「なぜ、勲章を授与されなかったのか」。この問いかけは映画的に言えばベトナム戦争の水面下で、政府が様々な思惑・隠蔽を交錯させる"ポリティカル・サスペンス"の側面を大いに煽る。もう一つの疑問は、「なぜ、戦友たちは勲章授与のために30年以上も戦い続けるのか」という点。命を救ってくれた感謝の気持ち、彼を巻き添いにしてしまった後悔の念...、ピッツェンバーガーの"勇気ある行動"に対して様々な思いを抱き、傷つき、苦悶する戦友たちの"心の奥"に踏み込むドラマとして感情を激しく揺さぶられる。
そして、その戦友たち(=帰還兵)を演じるのが、ハリウッドのレジェンド俳優たちだ。ピーター・フォンダ(『イージー・ライダー』)、ウィリアム・ハート(『蜘蛛女のキス』)、サミュエル・L・ジャクソン(『ジャッキー・ブラウン』)、エド・ハリス(『ウエスト・ワールド』)、ジョン・サヴェージ(『ディア・ハンター』)、そしてピッツェンバーガーを誇りに思う父親役で登場するクリストファー・プラマー(『人生はビギナーズ』)と、名前を挙げるだけで40代以上の映画ファンは歓喜するビッグネームばかり。特にピーターとクリストファーはスクリーン最後の勇姿。苦しみを乗り越えようともがき苦しむ男の"重い"涙が胸に沁みる。
さらに、帰還兵たちの本音を聞くうちに、出世欲の塊だったセバスチャン演じるスコットの心が徐々に変化していくところも本作の大きなポイント。これまで国家権力を敵に回すなど考えたこともなかった小心者が帰還兵の思いを背負いながら正義に目覚めていく過程は、この映画の推進力にもなっている。「(名誉勲章授与は)帰還兵の心を一つにしてくれる」...彼らの勇気に涙しながら、命の尊さ、戦争の愚かさを改めて考えさせられる本作は、反戦映画の新たな傑作と言えるだろう。
映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』は、3月5日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー。
(文/坂田正樹)
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『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』© 2019 LFM DISTRIBUTION, LLC
配給:彩プロ