TVドラマの成功を左右するキャスティングの妙!

 

なぜ、この国の映像産業は次々と魅力的な作品を生み出せるのか?

アメリカの地で俳優として活動する視点から、ハリウッドを支える"底力"を様々な角度から浮き彫りにしていきたい。
映画やTVシリーズ作品の成否は、"脚本と配役で決まる!"とアメリカの業界では誰もが認識している。
深く、鋭く練りに練られたプロット(構想)がまずあって、そこにピタリとハマる主役や助演が選ばれていく。
今回は、<配役に注ぐエネルギー>について。

きらびやかなハリウッドの世界は、"スター依存"の印象が強いが、実際は違う。スターばかりを揃える配役は逆に稀だ。むしろ日本の方が、誰もが知っている人気タレントをズラリと看板に揃える傾向が露骨である。アメリカでは、"人気者を使えば、即視聴率獲得!"の方程式は通用しない。

たとえば、人気TVシリーズ『24-TWENTY FOUR-』。
この番組の主演を務めるのはキーファー・サザーランド。彼の芸歴は長い。数々の映画でシブい脇役俳優として活躍してきたが、押しも押されぬ"ハリウッドスター"というポジションはこの『24』で獲得したのだ。この番組が彼を再注目させ、主役級に押し上げたといっていい。
しかし、世界的に有名となった"ジャック・バウアー"役の元々の設定は、キーファーよりもっと若い年齢だったそうだ。この企画が"キーファー頼み"では決してなかったことが伺える。
助演に目を向けてみよう。
すでにシーズン7が製作に入っている長寿番組だが、物語の中心となるCTU(テロ対策組織)のメンバーたちの中で、元々"著名な俳優" であったのはキーファー・サザーランドだけだ。彼の周りに配された多くの俳優たちは、視聴者にとってほとんどが未知の才能だった。

では大方が新鮮な顔ぶれとなるのは何故か?
それは端役に至るまで、オーディションで選抜するという土台がハリウッドにはあるからだ。役に合う人を探す。そこに時間をかけ、徹底して選び抜く。
たった1行のセリフの役にさえ、最低でも数十人の俳優が挑みに来るのだから、最後まで勝ち残った者は役柄のイメージに合い、そして演技も巧い。
オーディションを行うためには、そのための会場と、ビデオ撮影の機材と、キャスティング担当者と撮影アシスタントの人件費が製作予算に組まれていなければならない。
しかも1日、2日で終わる作業ではない。

ここに当然のように時間とお金を費やす余裕が、この業界の強みだと言える。

2006年に僕がキャストされた『硫黄島からの手紙』では、米国でのオーディションが前年の12月から大々的に始まり、1月に東京でも主役級のオーディションを実施した。細かな役のオーディションは撮影真っ直中の3月頃になってもまだ続いていた。映画はクリント・イーストウッド流の早撮りで、わずか32日間で撮影終了したが、その配役選考のプロセスには実に4倍の時間を費やしたことになる。

アメリカのTVドラマシリーズは今、映画と同様に世界市場で売れている。そして"スター人気"だけに番組の運命を委ねることなく、国内はおろか外国の視聴者まで釘付けにするという至難の業を、ハリウッドの業界はやってのける。

その最もわかりやすい例が、現在日本でも人気が上昇しているドラマ『HEROES/ヒーローズ』だ。
超人的な力を持った世界各地の登場人物たちの運命が、複雑に絡み合い、やがて人類破滅の危機を救うという、壮大なプロットが支持されている。この番組の第1シーズンはゴールデン・グローブ賞やエミー賞といった多くの賞のドラマ部門で軒並みノミネートを受けた。
「ヤッター!!」の日本語セリフで好評を博したヒロ・ナカムラ役は文化的アイコンとさえなった。しかし振り返れば、今や大ヒット作品となった『HEROES』には、放送開始時からレギュラーキャストに "スター" など1人もいなかった。
主要キャストを演じる全員がほぼ無名。しかしこれから伸びてくるであろう斬新な顔ぶれだった。

僕はシーズン2でカイト・ナカムラ役(1977年のシーン)を演じた。この登場回は昨年の10月上旬に撮影された。1エピソードは大体8日間のスケジュールで撮り上げるという、これも驚くべき早業なのだが、出演オファーの打診は2カ月以上前の7月にすでにエージェントを通して入っていた。
「少し先になるかもしれないが、彼に合った役があるかもしれない」と。
それだけ早い段階から、ストーリー展開に基づき、キャスティング担当は動いている。
僕のケースは渡米のためのビザが発給されるかどうか?という問題があったので、かなり早い段階で製作サイドから連絡があったのだと思うが、他のどんな役でも撮影前に1カ月程を費やして選抜されているようだ。
もちろん主役級の選抜にはもっと長い時間をかける。端役なら1次、2次テストで即決まるが、主要なキャラクターともなれば5次、6次、7次オーディションなどということもざらだ。数百~千人単位の俳優を吟味し、見極めていくには当然時間がかかるのだ。

アメリカには国民性として<フロンティア精神>が根付いている。"開拓する"気迫に満ちているということだ。
既存の人気スターをキャスティングする(できる)ことはもちろん、褒められることなのかもしれないが、プロデューサー、監督、キャスティングディレクターたちには
「あいつ(新人スター)を発掘したのは私なんだ!」
という誇りがあり、常に"開拓"する眼を備えている。
日本から渡ったばかりの、僕のような俳優が積極的に起用されたのも、ひとえに "有名人" に頼らないクリエーター達の哲学のおかげだ。
キャラクター設定やストーリー展開に惹き付けられる視聴者は依然多く、『HEROES』はシーズン3に突入する。何シーズン、何年にもわたって人気を維持しているドラマシリーズがこの国には多い。

「配役が絶妙、そしてプロットが緻密でスリリングであれば、必ずヒットする!!」
製作者たちの自信に溢れた声が聞こえてくるようだ。