地上波やCS・BS放送では現在、多くの海外ドラマが放送されている。字幕版のみ、吹替版のみ、字幕・吹替版同時など放送形態はさまざま。どちらのバージョンを見るかは好みが分かれるが、両者に共通するのは日本語の翻訳があること。翻訳には字幕と吹替の2種類があるのだ。
海外ドラマを楽しむツールといえる字幕翻訳と吹替翻訳。今回は両者の違いや楽しみ方のポイントを紹介しよう。
●それぞれのルールと特徴:
ドラマの翻訳(映像翻訳)には原則として字幕翻訳と吹替翻訳の2種類があり、独自のルールと特徴がある。
★字幕
【翻訳のルール】
※字数制限が厳しい。
・原則1秒4文字。
・使用できる漢字は常用漢字。それ以外はルビを振る。
・放送局によってはルビは使用不可。
・一瞬で目に飛び込む、わかりやすい字面が基本。
【特徴】
・原音が聞こえる(=オリジナルの俳優の演技が楽しめる)
・ただし、原文の情報量が大幅に失われる。字幕で表せる情報量は「原文の6割前後」という意見も。
★吹替
【翻訳のルール】
※原音の長さに合わせる。
・原則、原音の長さに合わせる。
・原音の口の形と、そこに当てる日本語の口の形をなるべく合わせる。
・耳に馴染む話し言葉が基本。
・放送局や媒体によって使用できない、または使用を自主規制することばがある。
【特徴】
・字幕に比べると情報量が圧倒的に多い。「原文の8割(もしくはそれ以上)」という意見も。
・ただし、オリジナルの俳優の声は完全に消える。
●字幕版/吹替版のここを楽しもう!
処理の方法が大きく異なるのがおわかりいただけただろうか? だが泣けるシーンでは泣けるように、笑えるシーンでは笑えるように作るのは字幕版・日本語版も同じだ。
ではここで日本でも大人気のドラマ『LOST』の記念すべき第1話を例に、実際の字幕版/日本語吹替版を交えながら注目ポイントをみていこう。
※以下台詞は『LOST』シーズン1 第1話より引用
【注目ポイントその1】 二人称の処理:
オープニングから間もない墜落現場のシーン。この緊迫した場面の字幕版と吹替版の二人称を比較すると、すべて一致しているわけではない。字幕版では「君」など見てわかりやすい漢字1字の表現に、吹替版では「あんた」などといった話し言葉が使われている。
【注目ポイントその2】 意図は同じ&異なる表現:
字幕は文字数の制限内に、吹替は原文の長さや息継ぎのポイントを考慮し、キャラクターの性格や心情を的確に表現している。
A)冒頭、ハーリーが妊婦のクレアに付き添うように指示され、たじろくシーン。
※字幕版:マジかよ
※吹替版:ウソ、冗談だろ
B)中盤、ジャックが初めての外科手術で感じた恐怖を語るシーン。
※字幕版:恐怖に身を任せることにした
※吹替版:恐怖を受け入れ思うがままにさせた
【注目ポイントその3】 かけことばの処理:
ドラマの中盤、死体の処理を巡り"Body(死体/身体)"という単語のかけことばが登場する。ハーリーは未成年のウォルトを気遣い「身体」を意味する"B-O-D-Y-S"という表現を使うが、ウォルトはすかさず「死体」を意味する"B-O-D-I-E-S"に訂正する。この場面の字幕版は原音を活かした処理に、日本語版は耳に馴染む処理がなされている。
※字幕版:死体(の上にルビで"BODYS")/"B-O-D-I-E-S"
※吹替版:あそこのなかのほら.../死体のことでしょ?
【注目ポイントその4】 繰り返しのことばの処理:
冒頭の墜落現場から機長が襲われるラストまで"字幕はないが日本語版の音声は入っている"というシーンがある。もちろんこれは字幕が抜け落ちているのではなく、意図した処理だ。
名前を連呼したり、助けを呼ぶ表現がずっと続く場合など、原文どおりに字幕を入れるとかえって映像の邪魔になったり、ドラマの緊迫感が薄れたりする場合がある。このようなときは、前後のバランスや内容から適宜、字幕が挿入される。
多チャンネル時代が到来して十余年。見応えのある海外ドラマが、毎日のように各局で放送されている。番組改編の秋を迎えた今は終了する作品、新シーズンが始まる作品、再放送される作品など、海外ドラマの世界はさらなる盛り上がりを見せている。
秋の夜長、お気に入りの海外ドラマを字幕版と日本語版の比較という別の視点で楽しんでみてはいかがだろう?
『LOST』
字幕翻訳:風間綾平
吹替翻訳:小寺陽子
「LOST」シーズン5 AXNで放送中!
【字幕版】毎週日曜21:55~22:50 ほか
【吹替版(二カ国語)】毎週木曜23:00~23:55 ほか
※特別CatchUP!放送
すでに放送済の第87話~96話を10話連続放送!
【字幕版】10月10日(日)20:00~深夜5:30
© ABC Studios