今年の新ドラマは比較的小粒ながらも例年以上に数多し。ピリリと辛いか?数打ちゃ当たるか?
海外ドラマNAVIは、今年も5月下旬にロサンゼルスで開催された「LAスクリーニング」に参加、全米でこの秋(一部は夏)以降に始まる新ドラマのパイロット版を視聴してきた。今年の新ドラマの傾向をまとめてみよう。

と、本文に入る前に、「LAスクリーニング」についておさらいしよう。これまで海外ドラマNAVIでは、3回に渡り、「LAスクリーニング」特集を組んできたので、読んでいただいた方も多いと思うが、ご存知ない方のためにもう一度紹介してみたい(ちなみに、2009年の特集は「これからは映画よりもドラマだ!? 2009LAスクリーニング 今年は"勝手に"NAVI的新ドラ大解剖!」)。「LAスクリーニング」とは、世界各国から集まったTV番組のバイヤーさんに向けた大規模な"試写会"。ハリウッドの各スタジオが主催するもので、毎年5月下旬、ロサンゼルスにて1週間かけて行われる。バイヤーさんとはTV局やオンライン視聴、DVDレンタル・販売などを行う会社のこと。米国内でもまだ放送していないTVドラマ・コメディのパイロット版をバイヤーさんに見てもらい、それぞれ本国での放送権購入をご検討いただくという仕組みだ。
ちなみにこの「LAスクリーニング」の直前に、NYにて「Upfront」なる、米国内の広告クライアントを対象にした発表会も行われる。この「Upfront」に合わせて、各ネットワークがこの秋からの新番組及び新編成の発表を行うのだ。アメリカの両海岸にて行われる「Upfront」と「LAスクリーニング」は、各スタジオ/ネットワークにとって一大イベントなのだ。
さて、今年の新ドラマの傾向をスタジオごとに紹介しよう。

■看板番組『LOST』が終了したディズニー
昨年まで『LOST』に代わる、新しい謎づくし系ドラマを模索してきたが、どうやら最近の全米の視聴者は伏線だらけの複雑なドラマを敬遠する傾向にあるようだ。代わりに、昨年のスクリーニングで見せてくれた、現在放送中のモック・ドキュメンタリーのコメディ『Modern Family』が非常に好調なことが関係しているのか、ドキュメンタリー形式の演出を取り入れたドラマを2本投入している。刑事ドラマの『Detroit 1-8-7』と青春ドラマの『My Generation』で、それぞれ舞台はデトロイトとテキサス。地域の特色を取り入れ、アメリカの多様性も感じさせるドラマとなっている。
【ヒット確実】
ディズニーが自信を持って送り出すのは、珍しいSF系ファミリードラマ『No Ordinary Family』、そして医療ドラマの『Off The Map』。前者はマイケル・チクリス(『ザ・シールド』)、リタ・ベンツ(『デクスター』)が主演、後者は『グレイズ・アナトミー』のションダ・ライムズが製作を手がける。やはり"ビッグネーム"は視聴者にとって魅力的。

■刑事ドラマや法廷ドラマなど一話完結物(プロセジュアル)が得意なCBS スタジオズ・インターナショナル
今年のイチオシも70年代の同名ドラマのリメイクで、犯罪解決物の『Hawaii Five-O』。このドラマを見て一番驚いたのは、すでに番組の冒頭にキャストたちのクレジットが入ったテーマ曲部分が完成していたことだ。これはパイロット版には非常に珍しいことで、いかにヒットする自信を持って世に送り出しているかわかるというもの。
【意外な収穫?】
期待以上に楽しめたのが『Blue Bloods』。ニューヨークを舞台に警察官一家の犯罪解決+ファミリードラマだ。主役に名の知られていない俳優を使い、脇をベテランで固める、安上がりキャスティングが増えているが、このドラマはその逆。トム・セレック、ドニー・ウォールバーグ、ブリジット・モナハンと豪華な顔ぶれを適材適所に使っている。

■最近ドラマが充実しているソニー
自前のネットワーク(放送局)を持っていないのがソニーの弱みだといわれているが、TNT やFX、AMCなど製作スタジオを持たないケーブル局が、ソニーの優れたドラマを放送しているのが躍進の大きな理由だろう。エミー賞にめっぽう強い『Breaking Bad』や『ダメージ』もソニーのドラマである。今年はティモシー・オリファントが連邦マーシャル(保安官のような役割)を演じる『Justified』がソニーのイチオシだが、『ダメージ』等に比べるとちょっぴり地味なのが気になる。
【今年唯一の女性向けドラマ】
今年数少ない女性向けドラマの中で『The Big C』が好評らしい。"C"が何を意味するのかに注目を。"C"とわかってから、生き方を見直す主人公をローラ・リニーが好演している。

■ここ数年大殺界?のような暗黒時代を経験したNBCユニバーサルがついについに復活
今年は全てのスタジオの中でもっとも評判が良かったと聞くNBCユニバーサル。多くのスタジオが当たればデカいが、外せば痛すぎるSFアクション系ドラマに二の足を踏んだ今年、唯一の本格的SFアクションドラマとして登場したのが『The Cape』だ。マント(ケープ)をまとったヒーローが悪と戦う、アメコミ調のドラマ。架空の街は『バットマン』のゴッサムシティを思い出すし、ヒーローをかくまうサーカス団も摩訶不思議なムードをかもし出している。もう一本『The Event』も陰謀ハラハラ系が好きな人にはお勧めか。
女性向け、ラブコメ唯一の60分ドラマが『Love Bites』。いわゆる"恋バナ"をテーマにしたオムニバス作品で、パイロット版を見る限りウィットの富んだ脚本といえるだろう。ちかごろ『バレンタインデー』や『そんな彼なら捨てちゃえば?』など、アンサンブルもしくはオムニバス形式を取り入れた恋愛映画が増えている。その流れを汲んだラブコメ・ドラマだ。
【あっちもこっちもスパイだらけ】
今年の流行の一つが"CIA"。FBIや地方警察が舞台のドラマはどうやら飽きてきたらしく、新ドラマではCIAの国際スパイが大活躍である。中でももっともテンポ良い仕上がりが『Covert Affairs』。放送するNBC系列のUSAネットワーク(『モンク』『バーン・ノーティス』)は、この手の犯罪解決+コメディのドラマを得意としている。

■『Glee』の大ヒットで波に乗る20世紀FOX
たくさんのパイロット版が用意されていたが、今シーズン全部の新ドラマの中でもっとも期待を浴びる作品の一つ『Terra Nova』がまだティーザー程度しかできていなかったのが残念。スティーブン・スピルバーグ監督がプロデューサーに名を連ねる『Terra Nova』は、現代からタイムスリップして先史時代にやって来た一家の物語。映画『ジュラシック・パーク』を思い出すといいだろう。恐竜、原始人など古代ロマンやCG好きにはたまらないドラマとなりそうだ。
【ホワイト・トラッシュが今年の主役?】
FOXの『The Terriers』『Raising Hope』を始め、今年はホワイト・トラッシュ(ダメ白人)が主人公のドラマが多かった。これまでは比較的恵まれた生活を送っていた白人も、長引く不況により"ルーザー"化しているのかもしれない。"勝ち組"よりは"負け組"=ホワイト・トラッシュを描いた方が視聴者の共感を得やすくなっているのだろう。

■全米のTVにもっとも多くの番組を提供しているワーナーブラザース(WB)
今回は、いわゆる豪華スターや大物プロデューサーの作品が多いのが特徴だ。今年のWBは、超大物プロデューサー、J・J・エイブラムスとジェリー・ブラッカイマー、それぞれが製作したドラマに注目したい。J・J自身が「『LOST』以降、久しぶりに監督を手がけたTVのパイロット版」と煽っていた『Undercovers』。元国際スパイの夫婦が主人公のドラマは、『LOST』『Fringe』ファンには少々物足りないかもしれないが、『エイリアス』や映画『M:i:III』で出世の道を切り開いたJ・Jにとって、こっちの路線が本当の彼なのかもしれない。さらにブラッカイマーは犯罪解決型ドラマ『Chase』と、法廷ドラマ『The Whole Truth』の2本送り出してきた。緊迫感あるドラマ作りはさすが。ブラッカイマー、久々のTV会心作だろう。
【シットコムはやっぱりWB!】
WB はシットコム作りが本当にうまい。昔なら『フレンズ』とか、今なら『ビッグバン★セオリー』とか。今年のスクリーニングでも、シットコム界の天才、チャック・ロリー製作のおでぶちゃんコメディ『Mike & Molly』が受けていた(外人に...)。3世代カップルのシットコム『Better Together』は、ありがちなネタをうまく拾って楽しいコメディに仕上げている。

今年は、例年以上にたくさんの新ドラマを「LAスクリーニング」で見ることができた。しかし、本数は多いが、全体的に小粒というのが正直な感想だ。ここ数年、派手なドラマを見続けてきただけに、ちょっぴり寂しい気がしないわけでもない。何本かは何シーズンも続くだろうが、『24』や『Glee』など TVドラマの歴史に残るような作品はあるのだろうか? これから脚本の完成度は上がっていくはず、パイロット版以降の成長を見守りたいと思う。