減少するロサンゼルス撮影の新ドラマ 今シーズンのパイロット版はわずか3分の1

 

以前、海外ドラマNAVIでコスチューム・デザイナーのメアリー・ローズさんにインタビューした際、メアリーさんが「最近、TVや映画の撮影がロサンゼルス以外の場所で行われることが多くて、(裏方さんたちは)困っている」と話していたことをよく覚えています。コスチューム・デザイナーの組合リーダーであるメアリーさんは、ロサンゼルスに住む組合員たちの仕事が減っているのを嘆いているのです。コスチューム・デザイナー当人の移動は仕事ですから仕方ないにしても、ではその助手は、その家族は? 夢の仕事とはいえ、生活の基盤が不安定では楽しみも半分です。

そんな裏方さんの嘆きにもかかわらず、TVドラマ撮影のロサンゼルス離れは続いています。ついに今シーズンの新ドラマ・パイロット版で、ロサンゼルスで撮影されたのは、全体のわずか3分の1。あとは、全て他州やカナダで行われました。

なぜこんなことが起きているかといえば、もうご存知の方も多いでしょう。各州やカナダの撮影に対する税制面での優遇措置です。今、撮影で最もにぎわっているのは、意外にもデトロイトのあるミシガン州。同州ではTVや映画の撮影の際に発生する税金のうち、最大で42%もカットするというのですから、プロデューサーにとっては願ってもない話です。現在TVの連続シリーズのうち、ABC『Detroit 1-8-7』、HBO『Hung』が、ここミシガンでの撮影。映画だと『スクリーム4』や『トランスフォーマー』シリーズが撮影されました。TV・映画の撮影によって昨年ミシガン州に落とされたお金は推定2億2400万ドル(約180億円)にも達したとか。2007年には200万ドル(約1.6億円)だったそうですから、その増えっぷりたるや。プロデューサーたちは、競って撮影をミシガンに移しているのかもしれません。

アメリカ東部のニューヨーク州やフロリダ州も大胆な税金優遇を行っていますが、南部の州も人気が上昇しています。ルイジアナ州は『トゥルー・ブラッド/True Blood』や『Memphis Beat』、ジョージア州では『The Vampire Diaries』をそれぞれ撮影しています。

けれど、こうしてTVや映画に税制優遇を与えることは、その州にとって無料の観光PRになるのかもしれませんが、実際どれだけその州の経済に役立つのでしょう? これについては、先のミシガン州でも議論となっているようです。ロサンゼルスに住む俳優や裏方たちがこぞってやってきて、撮影が終わったら「ハイ、サヨナラ」では、州民の雇用にもつながらないのでは期待はずれでしょう。多額の税制優遇をカバーするほど、州民にメリットがあるのかも分からない。そんな疑問が浮かんでくると、撮影隊に税金を優遇することの是非が問われることになります。俳優やプロデューサーは、それでガッポリ稼ぐのに?

手っ取り早く制作費が減らせるという理由でロサンゼルス以外での新ドラマ撮影が増えている、けどその一方で「これがロサンゼルス撮影なの?」という人気ドラマもあります。『CSI』シリーズは、3本とも主にロサンゼルス(エリア)で撮影されています。シアトルが舞台ですが、スタジオ撮影の多い『グレイズ・アナトミー』も同じ。『キャッスル~ミステリー作家は事件がお好き』もニューヨークではなくてロサンゼルスで撮影されています。意外にも『デクスター/Dexter』もフロリダとロサンゼルスでの撮影を混ぜているようです。

ロサンゼルス撮影が嬉しいのは裏方さんだけではないのです。『ザ・シールド』のクリエーターとして知られるショーン・ライアンが米Variety紙の取材に、グチをこぼしています。ライアンは今シーズン用にFOXで新ドラマ『Ride-Along』を製作していますが、その『Ride-Along』の舞台はシカゴ。キャスティングの際には、シカゴでの撮影がネックになったそうです。なぜなら、何人もの人気俳優に断られてしまった。特にお子さんがいる俳優にとっては難しい選択なのだとか。パイロット版を他州で撮影して、本シリーズをロサンゼルスで撮影するのが理想なのでしょうが、結局ロサンゼルスの撮影には地方より費用がかさむわけですから、製作費削減のためにはそうもいかないのです。

ただ、いち視聴者として言わせてもらえれば、俳優や裏方さんの不便は申し訳ないですが、アメリカは広大なのだから、似たような場所ばかりで撮影されるよりも、もっといろんな州で撮影してほしいと思います。そして、舞台となる土地の文化、方言や住民の考え方(州民性)もちゃんとTVドラマの中に表現してほしい。そこまで作りこむのが"芸術"だと思うし、それでこそ"税制優遇"に値するのではないでしょうかね?