
アメリカでは映画界のみならず、TV界でもリメイク流行りが続いている。なかでもイギリスのヒット番組がリメイクされることは多々あり、人気シットコム『The Office』やウィリアム・H・メイシー主演のドラマ『Shameless』、セレブシェフのゴードン・ラムゼイがホストを務めるリアリティショー『Hell"s Kitchen』『MasterChef』など枚挙にいとまがない。リメイクされた番組は、徹底したマーケティングのもとにアメリカナイズされるので、オリジナルのシリーズとは大分雰囲気が変わったものになりがちだが、この夏ちょっと毛色の違うリメイクが出てきた。
イライジャ・ウッドと犬のおっさん
イライジャ・ウッド(『ロード・オブ・ザ・リング』『エターナル・サンシャイン』)が主演することで話題を呼んだシットコム『Wilfred』。6月23日にケーブル局FXで始まり、先週エピソード2が放映されたこの30分(正味22分)のコメディは、オーストラリアでヒットした同名の番組をアメリカ版にリメイクしたもの。オリジナルのシリーズでタイトルロールのウィルフレッドを演じた、同シリーズの製作者でもあるジェイソン・ガンが、今作でも同じ役に扮し、共同製作総指揮と脚本も担当している。その結果、オリジナルシリーズの持つオフビートな感覚やオースラリアなまりの英語がそのまま活かされることになった。
イライジャ・ウッド扮するライアンは、人生がうまくいかず、自殺まで企てるが失敗に終わる。そんなときに隣の家に引っ越してきたペッピンさんのジェナ(フィオナ・グーベルマン『カリフォルニケーション』『クローザー』)と出会い、彼女の飼っている犬ウィルフレッドを預かることに。ウィルフレッドは、薄汚れた犬の着ぐるみを着たオッサンで、落ち込んでいるライアンを翻弄し、傍若無人なふるまいばかりする。マリファナは吸うわ、朝からビール飲むわ、空き巣をけしかけるわ。最初は、困惑して迷惑がっているライアンだったが、ウィルフレッドとすごすことで、自分を見つめこれまでの生き方を変えようと思うように......。
よくある、CGを駆使した言葉を話すリアルな動物が人間と会話をするのとは異なり、ウィルフレッドは主人公のライアンと視聴者には犬の着ぐるみを着たオッサンにしか見えず、ウィルフレッドの飼い主のジェナを始め他の登場人物には普通の犬に見えるというこの設定。
よく言えばシュールな、言葉を選ばずに言えばなんともご都合主義なのだが、ぶっとんでいることは確か。他の登場人物の視点で普通の犬がそこにいることを故意に見せようとしないため、私たち視聴者は常に、主人公のライアンが目にしている世界を見せられている。まるでコントだ。こうなると必然的にライアンのキャラに入り込まざるを得ない。入り込めるか否かで、まずこのシットコムを楽しめるかどうかが分かれるだろう。
そして下ネタけっこう満載のダークな感じにハマれるかどうかも分かれ目。私の場合下ネタに抵抗がないにもかかわらず、パイロット版はそれほど笑えなかった。ジェイソン・ガンの話すオーストラリア英語になじめなかったのもあるが、イライジャとジェイソンのケミストリーがもっと欲しかった。エピソード2で前回よりもライアンと隣人ジェナの絡みが多くなり、ウィルフレッドとライアンの2人だけのシーンよりも笑えた。コメディはこれが始めてだというイライジャ・ウッドはコミカルな演技もイケることがわかった以上、ウィルフレッドのジェイソン・ガンとの今後の絡みに期待したい。
オリジナルのオーストラリア版は、ウィルフレッドの飼い主であるヒロインをめぐって、主人公とウィルフレッドが張り合うという三角関係を描いていたようだが、このアメリカ版では、主人公のライアンとウィルフレッドの間に芽生えた奇妙な友情に焦点を置いたバディものに仕上がっている。ウィルフレッドには、ダメダメだったライアンの生き方や姿勢を荒療治的に変えられるポテンシャルがある。そういう意味では、まるであまり役に立たないポケットなしのドラえもんのようだ。
この番組の共同クリエイターでもあるジェイソン・ガンは、将来的にはチャック・ローリーみたいなプロデューサーになりたいという。パイロット版とエピソード2に関しては視聴率も良く、評判も上々。オージー旋風巻き起こるか。(海外ドラマNAVI)