おイタがすぎるローマ教皇?『The Borgias』はスリルとロマンス、陰謀とエロに満ち満ちた、あぶない欧米版大河ドラマ!

日本での放送が決まったという『The Borgias』のシーズン1全9話を、Showtimeのオンデマンドで一気に見た。大人買いならぬ、大人見とでもいうべきか。見終えた時にはあらかた日も沈み、少し哀しかったので、大人見はおすすめしないが、『The Borgias』はおすすめできる。ローマ教皇あり暗殺あり戦争あり不倫あり近親愛あり、なんでもアリアリの取扱い要注意な欧米版大河ドラマなのだ。

『The Borgias』は、15世紀の終わりから16世紀初頭にかけて、ローマ・バチカンで暴政をふるった「ボルジア家」の人々の、栄華と抗争を描く愛憎劇。実在した人物ではあるがフィクションの部分もかなりあり、そういう意味では日本の大河ドラマに近いが、龍馬のような英雄ではなく、悪名高きローマ教皇アレクサンデル6世=ロドリーゴ・ボルジアを主人公に据えているところが面白い。

歴史ドラマを作るというのは、意外にムツカシイ。史実に忠実であることを重視しすぎると、ドラマとしての意外性や盛り上がりに欠けて、「だったら最初っからドキュメンタリーを作れば?」って話になるし、逆に面白くしようと話を作り込みすぎると、史実とかけ離れてリアリティがなくなってしまう。その点、『The Borgias』はバランス感覚に優れたドラマだ。毎回、スリルに満ちたドラマチックな展開をみせながら、ギリギリの現実感を失わない。

ニール・ジョーダンそれもそのはず、このドラマをクリエイトしたのはニール・ジョーダン。『クライング・ゲーム』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のような、現実感がヒリヒリする空想世界を作り出す映画監督として知られる彼が、初めて本格的に取り組んだテレビ・シリーズなのだ。そもそもジョーダンは、10年以上も前からボルジア家についての映画を企画していたがなかなか日の目を見ず、かのスピルバーグ監督に「いっそのことドラマにしてみたら」と提案され、企画をShowtimeに持ち込んで実現したのが『The Borgias』。長年温めていただけあって、ジョーダンはシーズン1の全エピソードの脚本を自ら手掛け、最初の2話は監督もこなすという気合いの入りよう。映像もシネマばりの空気感と美しさをたたえており、映画監督の面目躍如といったところだ。

ジェレミー・アイアンズ主人公ロドリーゴ・ボルジアを演じるのは、英国の名優ジェレミー・アイアンズ。かつて映画『ダメージ(1992)』で、息子の恋人(若き日のジュリエット・ビノシュ!)に手を出してしまうエロ政治家をありありと体現してくれたジェレミー。あれから20年たった今も、その好色オヤジっぷりは健在だ。聖職者でありながら子沢山、教会に懺悔にきた美しい人妻を愛人にしてしまうなど、やりたい放題のロドリーゴを演じて、呆れるほど違和感がない。

だがジェレミーは、いやロドリーゴは、ただのエロ親父ではない。教皇の座をゲットするために買収行為に走ったり、自分の息子をバチカンの要職に就けたり、まだ幼い娘や息子を政略結婚させるなど、どこまでも権力に固執する煩悩の塊でありながら、神を畏れる敬虔なキリスト教信者でもある。己の罪深さにおののきながら次々に罪を重ねていくロドリーゴは、実に興味深い。そして、そんな彼を蹴落とそうとするライバルたちとの陰謀・策略合戦は熾烈を極める。

ロドリーゴの息子、チェーザレ・ボルジア(フランソワ・アルノー『マイ・マザー/青春の傷口』)は、父親に輪をかけてタチが悪い。暗殺者を雇い、ボルジア家の政敵を次々に消してゆく。さらには、実の妹ルクレツィア・ボルジア(ホリデイ・グレインジャー『犯罪捜査官 アナ・トラヴィス 模倣犯』)との近親愛の疑惑もあったりして、ボルジア家のスキャンダルはとどまるところを知らない。しかし、それこそがNHKの大河ドラマではあり得ない、『The Borgias』の魅力でもある。歴史好きのみならず、ソープドラマ好きも一緒に楽しめる世界なのだ。

舞台がバチカンということで、男ばかりが活躍するドラマと思われるかもしれないが、実は然にあらず。前述のルクレツィア・ボルジアや、ロドリーゴの愛人ジュリア・ファルネーゼ(ロッテ・ファーベーク『Nothing Personal』)のように、機知に富み、男を手玉にとる女性キャラが登場し、どちらかといえば女性陣の方が魅力的に描かれている。ちなみに、『アントラージュ★オレたちのハリウッド』で、エリックの恋人スローンを演じた女優エマニュエル・シュリーキーも、シーズン1の終盤からセクシーな王女役で登場、ロドリーゴのもうひとりの息子フアン・ボルジア(デヴィッド・オークス『ダークエイジ・ロマン 大聖堂』)とエッチしまくっている。

日本では最近、歴史上の人物にハマっている「歴女」と呼ばれる女子たちがいるとどこかで読んだが、『The Borgias』を観ていると魅力的なキャラが次々に出てきて、自分も「歴男」になってもいいかな、と思えてくる。ジョーダンの思惑どおりにいけば、シーズン4まで続く予定だというから、今後の展開が楽しみだ。