『TOUCK』でキーファー・サザーランド演じるマーティンの息子ジェイク役を担当する竹内順子さん。ドラマの前後に挿入されるモノローグを別にして、無言症のジェイクは劇中全く言葉を発しない。「セリフがない分、作品の世界をじっくり見る事が出来る」と言う彼女に、この難役とどう向き合っているのか直撃した。セリフがないからこそ見えてきたものとは――。
―― 今回竹内さんが演じるジェイクは言葉を発しないキャラクターですよね。吹き替えのお仕事で言葉を発しないキャラクターを演じるというのは役作りとしても難しい気がするのですが、実際のところどうなんでしょう?
そうですね。私はあんまり外画の経験がないので、セリフがあってもなくても分からない事だらけなので、一人で勝手にあんまりそこは深く考えなくてもいいんだって思ってるんです。でもジェイクが動いているところはよく見てますね。彼が何を見ているのかな、とか。
―― ジェイクは数字に関しては天才的な能力を持っているわけですが、竹内さんから見てジェイクはどんな人物だと思いますか?
なるべく普通に、ありのままの彼を見るようにしてますね。彼が天才かどうかは本人にとっては関係ない事だと思うんです。彼は言葉は話さないけど、数字を使って人々の心の痛みをなくそうとしている。傍から見たら彼は天才に見えるかもしれないけど、ジェイクはただ自分と周りの心の痛みをなくしたいだけで、そこは全くブレてないんですよね。とても純粋な気持ちなんだろうなって思ってます。天才だからどうだ、と言われても私は天才の気持ちは分からないし、やっぱり凡人の考え方で攻めるしかないんですけど(笑) どちらかと言うと最初と最後のナレーションの方が難しいです。
―― 物語の始めと終わりではトーンも微妙に変化が必要な時も出てきそうですよね。
世界の話だったり、数字をめぐるストーリーをきれいにまとめちゃったりするんですよね、ジェイクは。ここで彼の天才が立ちはだかるんですけど、ジェイクが何を言っているのか、私さっぱり分からないんです(笑)彼は何が言いたいんだろうっていつも思います。でも天才だから、彼の中では理路整然としているんですよね。ただ、その声を吹き替える場合、おそらく天才でない普通の感性の方が大多数であろう視聴者に向けて、どこまで突き進んでいいんだろうって、本当に悩みますね。
―― 恐らく98~99%は普通の人ですよね(笑)
ですよね(笑) やってる私もそうだし、見ている人もそうだろうし、だとすれば何を話しているのかさっぱり分からない事を羅列するより、何かしらの意味があるという事を見ている方たちに気付いてもらいたいと思うのは、私が凡人だからなのか、「ジェイク、どうなのよ?」って毎回悩んでます。
―― これが大人のキャラクターだとまた違うのかもしれないですが、ジェイクは子供じゃないですか。そうすると子供らしさというのはどこまで出せばいいのかとか、そういう微妙な兼ね合いもあるのかと思ったのですが、その辺りはどうなんでしょう?
感覚的にはジェイク君が積み木を積んでいるというイメージなんですよね。これ、例え話になってないかもしれないですけど。大人の私から見たら「いや、これは先に四角で土台を作った方がいいって」って思うところを、三角とか丸だけで上手い具合に塔を作ってるという風に思うんです。それが多分子供の感覚なのかなって。安全を狙うのではなく、感性のままに積み上げていく。まぁ、これが子供だからなのか、ジェイクだからなのかは定かではないんですが(笑) なのでなるべくジェイクが生み出してきた言葉を、あんまり手垢を付けずに表現するのが、一番子供らしさが出るんじゃないかなと思ってます。
―― 素人目で見ると、大人の声を演じるより子どもの声の方が難しく思えてしまうのですが、その辺はどうなんでしょう?
あ、それはきっと、私は大人の声を当てても子どもっぽいって言われるので大丈夫だと思います(笑) きっと私の資質が子どもなんだと思います!(笑)
―― そういう子どもの心をキープしているという感じなんですかね(笑)
どこの子どもをキープしているのかは定かではないんですけど(笑)、多分いたずらなところはキープしてるんじゃないかな、と。あ、でもそれってジェイクにはいらないですよね(笑)
―― 竹内さんから見て『TOUCH』の魅力とはどんなところなんでしょう?
ミステリーの割にはヒューマン・ドラマだっていうところですね。普通の人々の普通の会話が織り成す中で最後はその人たちが繋がっていくところが面白いと思うんですけど、最初はこのドラマの見方が分かるまで、ドラマの面白さも分からないんじゃないかって、ちょっと思っちゃいました(笑) きっとこれを見て面白いと感じる方は、細かい描写とか繊細なものを感じ取る感受性が強くて受け止めてくれる方なのかなって思います。
―― このドラマでは『24』のキーファー・サザーランドがジャック・バウアーとは全く違うキャラクターを演じてるところも見どころのひとつだと思うんですが、『24』のキーファーとの違いで竹内さんが印象に残ったのはどんな点ですか?
振り回されている相手が子どもってところでしょうか。今まではやっぱり俺について来い! っていうイメージが強かったので、オロオロしながら「お父さんに教えてくれ!」と泣き言にも聞こえるようなセリフを言うのは新鮮でした。でも子どものために汗水たらして働いていて、すごく身近に感じられるお父さん像は見ていても楽しいですね。そういえば1話目でマーティンが倒されるシーンがあるんですけど、力也さんがやっぱりまだちょっと『24』の残り香があって、「ちょっと強すぎるからヘタレでやって」って言われているのを見て、そうなんだよな、今回は強くないんだよな、ってしみじみ思いました(笑)
―― 小山さんも『24』の時とは違う演技を要求されるわけですもんね。やっぱりそこは苦労もありそうですが、竹内さんから見て小山さんの様子はどうなんでしょう?
うーん、どうなんでしょうね。なんかいつも飄々としてるんですよね、力也さん。汗かきながら扇子パタパタさせている姿しか浮かばない(笑)
―― 竹内さんのお気に入りのシーンはどこなんでしょう?
お気に入りというか、心に残るシーンはいくつもあるんですが、やっぱりジェイクの叫びはかなり印象に残ってます。とにかく長いんですけど、長さだけではなくって、ジェイクの心の叫びがあそこに集約されてるんですよね。あの悲鳴の中に全世界の全人類に想いを届けたいという彼の気持ちを考えると、ただ声を延ばせばいいってものでもないし、同時に「こんなに延ばすんじゃないよ~」って思ってました(笑)
―― でもやりきってましたよね。それもすごいと思うんですが、ちゃんとジェイクの想いが伝わってくるのが本当にすごいと思いました。
あのエピソードではジェイクの叫びがあった分、私の中でも彼の心が少し見えたような気がしたんですよね。でも掴んだと思ったらあの後またいなくなったんですけど(笑) で、「うぉ! さすが天才、もういない!」っていうのが未だに続いてます(笑) でも掴みどころのなかったジェイクのしっぽが見えたかも! と思えたのがそのエピソードだったので、私の中ではやっぱりジェイクの叫びはすごく印象に残ってます。今は逃げられてますけど!(笑)
―― でも分かります。ただドラマを見ているだけでも、ちょっとジェイクの心が見えたかな、と思うとあっさりかわされて、本当に翻弄されますよね。
もうあわわわわ...って感じですよね(笑) まぁジェイクの心がすべて分かるわけではないんですけど、少しでも知りたいっていう興味は沸きますよね。
―― やっぱりジェイクはこれまで演じてきたものとは違う難しさというのはあるんですか?
もともと私は外画の経験があんまりないので、比べるものが少ないんですけど、ジェイクはとにかく無表情なんですよね。でもその無表情にもきっと意味があるわけで。ひとつの表情を取っても、あれは意味があるのかもしれない、ないのかもしれないって翻弄され続けているんですけど、でも逆に彼が話さない分、資料である映像をじっくりと見ることができるので、それは私にとってはかえってプラスになっていると思います。外画に慣れてない分、しゃべることになったら、セリフを言うだけで精一杯になってしまいそうなので。セリフがないからこそドラマの世界をじっくり見られるし、それで気付く事が多いんです。
―― そういう意味では竹内さんが一番ドラマの世界観に没頭できるかもしれないですね。そこで気付いた事というのは何だったんですか?
1話目だったんですけど、ジェイクって正義のヒーローのつもりでやってるんじゃないかって思ったんですよね。彼の動きをじっくりと見ていて、彼の作品の中での役割が見えたのが1話目でした。ナレーションではそのエピソードの出来事を、別の視点から語っているのかな、とも思います。ただ、役作りという点では完成はしてないんですけどね。なにせ逃げられ続けているので(笑) 私もこの作品の中で何かを表現したい! とは思ってるんですけど、ジェイクは本当に逃げるのが上手いから。なので他の人のシーンをじっくり見たり、セリフを練習してたりします。まぁ、これは個人的な事ですけど(笑) ある意味贅沢な経験をさせてもらっています。
―― ちなみに竹内さん的に今後こんな展開になってくれたらいいな~という希望はありますか?
ありますよ! 仲間が欲しい!! もしジェイクみたいな仲間が出来たらモノローグ同士で会話しそうじゃないですか。せめて会話がしたいんです! あと、人との接触に慣れてもらいたい(笑) ちょっと触れられるだけでギャーってなるので、その声がだんだん小さくなったらいいなって思います(笑)