スウェーデン・ミステリードラマ『靄(もや)の旋律』 原作者アルネ・ダール氏に突撃インタビュー

"個人主義が進む社会に伝えたいメッセージがある"―スウェーデンの批評家、編集者として活躍する一方で、大ヒットミステリーシリーズの作者でもあるアルネ・ダールが作品にこめた思いとは? 新たなスウェーデン・ミステリーの傑作『靄の旋律』に迫る!

アルネ・ダールが描き出した。10作続く人気シリーズの第1弾『靄の旋律 国家刑事警察 特別捜査班』が2012年9月に集英社から出版され、小説を映像化したドラマも、1月にAXNミステリーで日本独占初放送が決定した。本作の、そして日本でじわじわ人気をよぶ北欧ミステリーの魅力をダールさん聞いた。

――最近日本でもじわじわ人気を呼んでいる"スウェーデン・ミステリー"。イギリスやアメリカなどにもミステリー作品は多くありますが、それらとの違いを教えていただけますか?

本作含め、スウェーデンミステリー全般にいえることですが、登場人物や環境、起こりうる状況が、、非常にリアリスティックかつシビアに描かれています。登場人物が現実的で、いい意味で自己批判的。彼らは自分に対してだけでなく他人に対しても皮肉たっぷりですね。本作でも警官チームメンバー同士でよく皮肉を交えたジョークを言っています。
また、移民問題や経済問題など、社会情勢を題材として扱っているのも特徴です。「靄の旋律」では、バブル崩壊後のスウェーデンが舞台になっており、スウェーデンの経済成長期を背景に描いています。
スウェーデンでは、労働者階級に差があっても、皆、平等の権利を与えられ、差別もありません。『靄の旋律』内でも警察を特別な地位ではなく、市民と平等な存在として描いています。自己批判的、現実的、社会構造が平等であることなどがスウェーデンミステリーの根底にあると思います。

――なるほど、たしかに『靄の旋律』の特別捜査班のメンバーの皮肉たっぷりのジョークは独特ですよね。「批判的」といえば、ダールさんはご自身も批評家でいらっしゃいますが、作品への書評などはやはり気になりますか?

気になりますね。人間なので、いい評価は素直にうれしいし、悪い評価はやっぱり落ち込みます(笑)。でもいいもの、悪いもの含めすべてに目は通していますよ。全般的にスウェーデン国内では、ミステリー小説に対して否定的なんです。多くのミステリー作品、ミステリードラマがすでに世に出回っているので、読み手サイドからすると「もういいんじゃない?」と思ってしまう。

――ダールさんは、スウェーデン推理作家アカデミーより「推理小説ジャンルの活性化と発展に寄与した」と特別賞をいただいたり、ヨーロッパ諸国でも賞や嬉しい評価が殺到していますね。

はい、とてもありがたいことです。まだ読者から受け入れられているほうかもしれませんね。(笑)
――スウェーデンではミステリー作品に対する読者の目が肥えているんでしょうね。そんな中、なぜ、あなたはあえてハードルの高いミステリー作品を執筆しようと思ったのですか?

一言で言うと、ミステリー小説を書くことで、社会に伝えたいメッセージがあったからですね。昔はもう少し他人とのコミュニティ、団結があったのですが、今のスウェーデン社会はどんどん個人主義になってきました。それ自体は決して悪いことではないのですが、「個人主義」が進むことでどんどん「私」「私」となってきて、個人の欲が強くなってきている気がするのです。だから、『靄の旋律』では7人の刑事が"チーム"となって活躍するストーリーにしたんです。今までのスウェーデン・ミステリーで多かった、いわゆる"孤独で酒好き"の1人の刑事が主人公でなく、チームの人間模様を小説の軸にしたかった。そういった社会に対する批判と、人を思いやる気持ちの大切さを、ミステリーを通して伝えたくて書きました。

――そういう「個人の欲深さへの警告」、「思いやりの気持ちの大切さ」というメッセージは、『靄の旋律』の特別捜査班のチームワークのよさに表れている気がします。

そうですね。特別捜査班のチームワーク、人間関係には非常に思い入れがあります。ラテンアメリカからの移民や、スウェーデン系フィンランド人など、様々な背景を背負った個性的メンバーたちは、はじめは衝突しますが、事件を一緒に追うことで、やがて理解しあい助けあう様子を描きました。彼ら7人の刑事たちのチームワークは、本シリーズ最大の魅力の一つです。また、ドラマでチームメンバーを演じてくれたキャストの皆さんも同じく団結していました。撮影現場はとても温かい雰囲気で、プライベートでも交流があるなど、魅力的なキャストの皆さんにお願いできて良かったと思っています。

――最後に、2012年ももうすぐ終わりということで、ご自身の2012年の反省と2013年の目標を聞かせてください!

2012年の反省は、「仕事を減らして人生を楽しむべきだった」と思いますね(笑)。仕事をしすぎてプライベートを充実させきれなかった気がします。2013年の目標は、今回第1弾がドラマ化された『靄の旋律』の国家刑事警察特別捜査班シリーズが終わり、その後に新しく書いているシリーズがあって、それを書き進めることですかね。今度はヨーロッパ全体の犯罪をメインにしているので、全シリーズとはまた違った展開を楽しめるかと思います。

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終始優しい笑顔でとてもクレバーで紳士的だったダールさん。「靄の旋律」はこの温かい笑顔からはとても想像できない、思わず息を飲んでしまうようなミステリーです。ダールさんが描きだした北欧ミステリー独特の世界観は、サスペンス以上の重厚さを求める視聴者には楽しめること間違いなし!


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『靄の旋律』 ミステリー専門チャンネルAXNミステリーにて日本独占初放送
2013年1月12日(土)20:00~23:30

◆靄の旋律とは・・・
2012年9月に集英社より書籍が発売になったばかりの新作スウェーデン・ミステリー。スウェーデン実業界の大物が連続して殺されるなど、国民を震撼させる大事件が勃発。一刻も早く解決するべく国家刑事警察の特別捜査班が編成される。職務規定違反の疑いで内部調査を受けていたポール・イェルムをはじめ、それぞれに事情をかかえる刑事7名により、精力的な捜査が始まった。個性的な7人のメンバーからなる特別捜査班が活躍する大ヒット警察小説の第1弾。

◆作家:アルネ・ダール
1963年生まれ。批評家、編集者としての顔も持つ。新世代のスウェーデンミステリーの担い手として、注目されている。スウェーデンで1999年にスタートしたINTERCRIMEシリーズは、10作続く大人気シリーズに!同シリーズは、スウェーデン推理作家アカデミーから「推理小説ジャンルの活性化と発展に寄与した」として特別賞を授与された。日本では本年9月、シリーズ第1弾として「靄の旋律 国家刑事警察特別捜査班」が刊行された。