14世紀のイタリアはヴェローナを舞台にしたシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は、敵対するモンタギュー家とキャピュレット家が熾烈な争いから生まれた悲劇を描いていたが、これはあくまでもフィクション。だが19世紀のアメリカで、このフィクションを地で行く血生臭い抗争を繰り広げていた一家があった。それがハットフィールド家とマッコイ家だ。
タグ・フォーク川を挟んでウエストバージニア州側に暮らすハットフィールド家と、ケンタッキー州側に住んでいたマッコイ家。それぞれの一族を率いるアンス・ハットフィールドとランドール・マッコイは、南北戦争の時には共に戦地で戦った仲であり、決して不仲ではなかった。その関係が一変したのが、戦争終了後の1865年、ランドールの兄弟であるハーモンが何者かに殺害された事件だった。南北戦争に北軍として参加したハーモンは、そのせいでアンスの叔父ジム・ヴァンスらに嫌われていた。マッコイ一族はジムらの犯行を疑うが、証拠は見つからず、この事件はマッコイ一族に深い遺恨となる。そして1878年、ついに両家の間で血で血を洗う抗争の始まりとなる事件が起こる。それはなんと一匹の豚を巡る所有権争いだった。
たかが豚と侮るなかれ。「うちの豚だ」「いや、俺のもんだ」というささいな所有権争いに思えたこの事件は、結局裁判にまで発展し、両家の親族にあたるビル・ステイトンの証言が決め手となり、マッコイ家が敗訴。それに怒ったマッコイ家の兄弟によって殺害されてしまう。だが彼らは正当防衛を理由に釈放され、今後はハットフィールド一族が激怒し、両家の対立はさらに深まっていく。そんな中、アンスの長男ジョンシーが、ランドールの娘ロザンナと恋に落ちるというまさに『ロミオとジュリエット』な出来事が、両家の抗争をさらに激化させ、1882年に起こったアンスの兄弟エリソンを、ランドールの息子たちが殺害した事で争いは頂点に達した。
まさにボタンの掛け違い。ちょっとした誤解や猜疑心がこれほど大きな争いに発展するとは、しかもこれがすべて実話ということに驚かされる。どこかの時点でどちらかが思いとどまればこれほど対立が深まる事もなかっただろうに、憎悪が憎悪を呼び、激化する抗争は全米中の話題に。マッコイはハットフィールド一族に賞金をかけ、全米中から賞金稼ぎが大挙してケンタッキーに押し寄せ、ついには州兵まで招集する事態にまで発展。争いは1891年に終結したが、現在でも激しい争いをする二者を指して「ハットフィールドとマッコイのようだ」と言われるほど、アメリカでは超有名な一族になり、人気シリーズ『BONES』シーズン7でも、両家をモデルにしたエピソードが製作されている他、文学のモチーフやゲームにまでなっている。
この有名すぎる一族の争いを本格的にドラマ化しようと乗り出したのが、アカデミー賞2冠の名優ケヴィン・コスナーだ。自ら主演と制作を兼ね、米ヒストリー・チャンネル制作のミニ・シリーズとして放送された『ハットフィールド&マッコイ:実在した一族vs一族の物語』は、放送されるなりたちまち評判を呼び、当時の全米ケーブル局史上最高視聴率を樹立。第64回エミー賞ミニ・シリーズ/TV映画部門でケヴィン・コスナーの主演男優賞を筆頭に5冠に輝き、第70回ゴールデン・グローブ賞でもコスナーは主演男優賞を受賞。コスナーは授賞式のスピーチで「この作品に出会わなければ失業していた」と語る程、この作品で入魂の演技を披露。悪魔と呼ばれるハットフィールド一族の長、アンスを風格たっぷりに演じている。かつて『ダンス・ウィズ・ウルブス』でキャリアの頂点を極めた彼だけに、この時代の歴史ものとは相性も良く、際立った存在感を見せるが、一方では英雄、もう一方では悪魔というまったく正反対のキャラクターを演じているので、両作品を見比べてみるのも面白い。
彼と対立するランドール・マッコイを演じるビル・パクストンや、アンスの叔父ジム・ヴァンスを演じるトム・ベレンジャーなど、実力派俳優たちとのアンサンブルも見応えバッチリで、ヒストリー・チャンネル制作だけに時代考証もしっかりしており、非常にリアルでダイナミックな人間ドラマが展開されていく。
この『ハットフィールド&マッコイ』の成功によって、ヒストリー・チャンネルはドラマ制作においても注目を集める局になった。今年の3月に放送した『The Bible』は連日高視聴率を挙げ、初のシリーズ・ドラマとなる『Viking』も好評。そのすべての出発点となったのが『ハットフィールド&マッコイ』なのだ。もはやアメリカのみならず"世界でも有名な一族"となったハットフィールド家とマッコイ家。その勢いは留まる事を知らず、米NBCではシリーズ化の動きも。ちなみに現実には実質的な抗争終了から100年以上後の2003年、両家の末裔によって、正式に停戦協定が結ばれている。(海外ドラマNAVI)
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【初回生産限定仕様】『ハットフィールド&マッコイ 実在した一族vs一族の物語』
2013年4月24日発売
価格5,980 円(税込)
発売&販売元 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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