海外ドラマ『レクティファイ 再生』死刑囚として暮らすより現実世界はもっと厳しい !? 

ド派手なハリウッド映画もいいけど、時にはシンプルなインディーズ・ムービーとかフランス映画を鑑賞したくなること、ありませんか? 同様に、大画面&大音量で見たい迫力あるドラマが主流な現在でも、たまには静かでゆったりとした気分でドラマを鑑賞したい時もありますよね。そんな時にオススメなのが、今回紹介するドラマ『レクティファイ 再生』。ハラハラドキドキ興奮はしないけど、静かに心に波を打つ異色の作品です。

 

『レクティファイ 再生』とは?

主人公のダニエル・ホールデン(アデン・ヤング)は、当時の恋人ハンナを強姦および殺人した罪に問われ、死刑囚として約20年間を独房で暮らしていました。しかし、新たなDNA証拠によって死刑判決が無効となり、彼が晴れて自由の身となるところからドラマが始まります。18才から19年間を独房でただ死を待って生きていたダニエルが、どのように普通の生活に戻っていくのか、というのがストーリーの軸となり、ダニエルの人生の軌道修正と彼を取り巻く周囲の生活の変化を、南部の自然豊かな美しい背景と共に淡々と描写するヒューマンドラマ。さらには未解決の殺人事件のミステリー要素もちょうどいいスパイスとなっています。

事件から年月が経ってやっと平穏な暮らしを送っていた家族も、久しぶりに会うダニエルにどう接していいのかわからず、戸惑いが隠せません。そして、いまだに彼の有罪を信じる被害者の家族や街の人々にとっても、彼が釈放されたことで忘れかけていた事件の衝撃が掘り起こされて次第に波紋が広がります。田舎の乾いて澄んだ青空や朝焼けにキラキラ光る草原の風景と、人々の暗く重たい心情のコントラストの著しさが際立ちます。

そして、誰よりも戸惑っているのは当人のダニエル自身。すべてを諦めて静かな最期を迎えるための準備が整った時に、やっぱり普通に生きてくださいと言われた。でも、社会の一員としてどう行動すればいいのか、全く検討もつかない。それが、ダニエルの心境です。

窓のない牢獄で長い期間を過ごしたダニエルは、取り戻すことのできない失われた時間と、ただそこにある非現実のような現実と、曖昧な未来との狭間でふわふわと宙に浮いているような感覚のまま新しい生活を強いられます。普通にベッドで睡眠をとることさえも彼にとっては難題。一緒に暮らしていたことさえもうろ覚えの家族との関係より、フラッシュバックで鮮明に思い出す独房での日々の方が、彼にとっては現実味があるのです。

服役前には普及していなかったケータイやノートPCといったテクノロジーに驚き、青春を取り返すかのように高校生の義弟とスケートボードや自転車で遊び、物置から80年代に流行ったTVゲーム機やウォークマンを使用するダニエル。私自身も含めて彼と同世代の視聴者には、彼が失った時間の重みが痛いほど感じられ、胸がざわざわして仕方ありません。

このドラマはとにかく静寂でスローなテンポが独特。そして、アメリカのドラマでありがちな説明的セリフが少ないのも特徴のひとつです。沈黙の中で物語が語られ、自然の風景の中に人物が溶け込んで絵画のような美しいシーンに思わずため息がでることも。主役を演じるアデン・ヤングを始め、ダニエルの無実を信じて周囲と戦う妹アマンサ役のアビゲイル・スペンサーや、ダニエルの唯一の理解者となる義妹トーニーを演じるアデレイド・クレメンスら俳優陣の表現力の高さも格別です。

この作品のクリエーターであるレイ・マッキンノンは、俳優でありながらも、ライター&ディレクターとして『The accountant』で短編フィルム部門アカデミー賞を獲得した多才な人物。また、製作クレジットには昨今のドラマでも高い評価を受けている『ブレイキング・バッド』出身の敏腕プロデューサーの名が連なります。こういった背景や作風からも、作品を放映するケーブル局が、アーティなインディペンデント映画や質の高いドキュメンタリーを専門とするSundance Channnelなのも納得ですね。

2013年4月末から始まったこのドラマは、シーズン1は計6回と少ないエピソードですが、初回から批評家たちの評判も高く、第一回放映直後に同局はシーズン2の続行を決定しています。

物理的には不自由ではあったけど、信念や社会の概念から解放されて得られる精神的自由があった刑務所での暮らし。自由の実になれたはずなのに、不安定な人間関係、あやふやな道義、欲求を感じることの不自由さに身動きしにくい新しい日常。ダニエルにとって、どちらの世界が幸せなのでしょうか? そして、彼は一度は捨てた生きることに対する意義を見いだせるのでしょうか?

未解決なままの殺人事件の謎と人間心理のディープな部分が絡み合い、さらには宗教や哲学的テーマ、アメリカ南部の文化も堪能できる奥深いドラマ『レクティファイ 再生』。同時に、ひとつの美しい映像アート作品として感覚で味わえる芸術性の高さも魅力です。

(海外ドラマNAVI)

Photo:『レクティファイ 再生』© SUNDANCE FILM HOLDINGS LLC. All Rights Reserved 2013