『ヴァイキング~海の覇者たち~』脚本・製作総指揮のマイケル・ハーストに直撃インタビュー!

いよいよ日本でも放送が始まるヒストリーチャンネル初のドラマシリーズ超大作『ヴァイキング~海の覇者たち~』。既にアメリカ、ヨーロッパでは大ヒットを記録し、旬の人気ドラマシリーズとして幅広い視聴者層を獲得しています。海外ドラマファンとしてはこの歴史スペクタクルドラマを見逃すわけにはいきません! 映画、ドラマの歴史エンターテイメント作品の巨匠であり、本作で脚本・製作総指揮をつとめるマイケル・ハーストの貴重なインタビューをこの機会にぜひご覧ください。

 

――なぜ「ヴァイキング」を題材にしようと思ったのですか?

今まで扱ったものとは全く異なった世界だったからだよ。『THE TUDORS~背徳の王冠~』のプロジェクトには何年間か携わっていたから、今度はそれとは異なった題材を、と思って探していたんだ。

――本作において、最もこだわったこと、大変だったことは何でしたか?

何よりもリサーチが大変だった。そして歴史ドラマを作るにはとてもお金がかかるんだ。だから4,000万ドル以上の製作費を使ったよ。特にセットや船、衣装。それから大勢の役者の起用といった世界観作りにはたくさん使うね。船(ロング・シップ)は腕のいい大工に当時の作り方と同じように造ってもらって、衣装は実際にデザイナーがスカンディナヴィア地域を訪れて、どのように作られているかを間近で見てきた。セリフにおいても、当時のヴァイキングたちは古ノルド語を使っていたから、専門家や学者の力を借りて、作中でも古ノルド語を使うようにした。全てにおいて出来る限り現実感が出せるように努力したんだ。

 

そして一番重要だったのは、これをドキュメンタリー作品ではなく、ドラマ作品にしなければいけなかったというところだ。僕は作品を作る上で膨大な量の参考文献を読んでリサーチをする。そういうリサーチの中で、自然とキャラクターたちやストーリーのアイデアが思い浮かんできたよ。

―今までほとんど明かされることのなかったヴァイキングの文化について教えてください。

ヴァイキングのリサーチを進める中で初めて知ったことがたくさんあるよ。まず、ヴァイキング社会の人々はとても民主主義的だったということ。彼らは集会の場で民衆と一緒に物事を決めていたんだ。当時のアングロサクソン人やフランス人よりも彼らの方が文明的に進んでいたなんて非常に驚いたね。それから、ヴァイキング社会では女性が財産を所有することも、夫と離婚することも許されていたんだ。女性が戦いに参加することもできたし、部族の首長になることさえもできた。また、彼らの持つ非常に高度な航海技術と造船技術を改めて知った。実はコロンブスが北アメリカ大陸を発見する500年も前に、ヴァイキングたちはアメリカにたどり着いていたんだ。

 

―ヴァイキングが人類の歴史の中で、世界的に果たした役割とはどんなものだったのでしょうか?

ヨーロッパの歴史や文化において、彼らはとても重要な存在だった。彼らの影響はロシアからイギリス、そしてフランスへと広がっていったんだ。例えば、フランス人たちはヴァイキングが襲来した時、パリを襲撃しないように、ロロという名前のヴァイキングに膨大な土地を明け渡した。それが今のノルマンディ地方で、"ノルマンディ(Normandie)"という土地名は"Land of the North Man(North Manの土地)"が語源になっているんだ。また"ロシア(Russia)"の"Rus"は、ヴァイキングのルーシ族が基だと言われている。彼らは長期間、イギリスの大部分を占領してきたから、英語の言語にも大きな影響を及ぼしている。

貿易商人としても、旅人しても優れていた彼らは数多くの文明と接触があった。中国やロシアに残っている古い文献の中にも彼らの存在の記述がある。いろんな形で彼らの形跡が残されているんだ。

―撮影現場での印象深いエピソードなどはありましたか?

撮影は美しい自然が広がるアイルランドで行われた。撮影に関わったクルー・キャストはみんな素晴らしい人たちばかりだったよ。全員が一生懸命に頑張って仕事を果たしてくれた。みんなで一つの作品を作り上げたんだ。

夏の朝早く、ヴァイキングの船・ロングシップ3艘を着水させて、とても美しい大自然をバックに船が進むシーンを撮影していた。それを川のこちらから見ていたとき、美しいと思うのと同時に恐怖感を覚えた。ぼくが「ヴァイキングと初めて遭遇した人々が目にしたであろう光景だ」と言うと、クルーのみんなも手を止めて、その船が川の向こうから近づいて来る様子を見ていたよ。

 

もう一つとても記憶に残る出来事があった。第8話に登場する寺院を建てていた時のことだ。美しくて静かな森の中で木を切ったり、叩いたり、大きな音を響かせながら造っていたところに、森の奥から大きな角を持った雄ジカが突然現れた。クルーのみんなが手を止めてその野生の鹿を眺めていると、そのまま寺院の中に歩いて入っていったんだ。その鹿は人間のことを少しも怖がっていなくて、そのまま寺院の中を2分くらい歩き回ったあと、また森の中に消えていったということがあった。ヴァイキングは、「神々は姿を変えることができて、動物にさえもなれる」と信じている。それを知っている僕を含めたクルー全員がその時、鹿ではなく、ヴァイキングの神に出会ったと思ったんだ。

―トラヴィス・フィメルを主人公ラグナルに起用した決め手は?

僕はヴァイキングに対する固定観念を取り払うことに挑戦したかったんだ。だから一般的に描かれているヴァイキングとは違ったイメージの、寡黙で人としての深みを持ち、内省的で思慮深いタイプを主人公にする必要があった。だから適材と出会うのにすごく時間がかかったよ。撮影まであと2週間に迫り、かなり焦っていた時に、トラヴィスのサンプル映像が送られてきた。彼がオーストラリアにある自宅のキッチンで、ラグナルの台詞を言っている映像だったんだけど、それを見た時にその場にいた全員が「ラグナルはトラヴィスしかいない」と感じたんだ。

 

―たくさんの登場人物が出てきますが、お気に入りのキャラクターはいますか?

どのキャラクターも大好きだよ。ラグナルとラゲルサはもちろん大好きさ。作品の中で非常に重要な役だ。ほかにも、親近感を覚えた大好きなキャラクターが2人いる。1人は修道士のアセルスタン。彼は現代社会に生きる視聴者がヴァイキングの世界に連れて行かれたらどうなるかというのを実際に体現している役なんだ。そしてもう1人は船造りのフロキだね。彼は作中でも道化師的な存在で、とてもクレイジーで楽しいキャラクターだ。書いていて楽しい。僕は脚本を執筆しながら、彼らのことをずっと考えているわけだから、本当に存在している人物のように思えてくるよ。キャラクターとの付き合いが長くなるにつれて愛着がどんどん湧いてくるんだ。

―どのような方に視聴してほしいですか?

できるだけ多くの視聴者に観て欲しいのはもちろんだけど、特に若者に観てもらい、ヴァイキングという存在に興味を持ってもらいたいね。ヴァイキングは世界的にもあまりイメージが良くないからね。いつの時代も女性に暴力を振るったり、略奪したりという「悪者」として描かれ続けてきたから。その印象を少しでも変えられればと思っているよ。

―日本の視聴者に向けてのメッセージを!

ヴァイキングたちの略奪の方法や戦い方を理解するにつれ、黒澤明の映画の中で描かれた侍たちの戦い方や儀式を見たときに感じた衝撃と感銘を思い出したんだ。僕は、黒澤明の映画に多大な影響を受けた1人。彼の作品の素晴らしいアクションは、僕の作品の中にも生きている。娯楽作品として視聴者のみんなを楽しませる作品になるよう心がけて製作した。見る人にもその気持ちが伝わればうれしいね。

 

マイケル・ハースト/脚本・製作総指揮
1952年9月21日生まれイギリス・ブラッドフォード出身。アカデミー賞受賞作『エリザベス』(脚本)、エミー賞受賞作『THE TUDORS~背徳の王冠~』(脚本/製作総指揮)など数々の歴史エンタメ作品を手掛けた、歴史脚本家の第一人者。

『ヴァイキング~海の覇者たち~』は、2月22日(日)21時~ヒストリーチャンネルにて放送スタート!(※初回は第1・2話連続放送)

Photo:
マイケル・ハースト
『ヴァイキング~海の覇者たち~』劇中スチール
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