アカデミー賞候補の映画『アメリカン・スナイパー』、クリス・カイルの子供に対する脚本家の配慮とは

2月21日(土)より日本でも公開となった、オスカー監督クリント・イーストウッドと人気俳優のブラッドリー・クーパーがタッグを組んだ映画『アメリカン・スナイパー』。米軍最強と言われた伝説の狙撃手クリス・カイルの栄光と苦悩を描いた本作で、脚本家がクリスの二人の子供に配慮をし、結末のある部分を排除したとコメントしている。

(以下、映画『アメリカン・スナイパー』の内容について触れていますのでご注意ください)

これは先月、映画のプロモーションで脚本家のジェイソン・ホールが米Peopleのインタビューで明かしたもの。退役後、元海軍兵を支援する活動を行っていたクリスは、元兵士とともにたびたび訪れていた射撃場で、2013年に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたとされる元兵士に至近距離から撃たれて亡くなった。ホールはクリスの死を描いたシーンを、二人の子供に配慮して除外したとしている。

「大勢の人に聞かれるんだ。『なぜクリスが殺されるシーンを描かなかったのか』とね。当然の質問だと思う。でもこれはクリスの人生を描いた映画で、彼の子供も関わっているんだ」と話したホール。

とはいえ、当初はホール自身とイーストウッド監督、さらに主演と製作を兼任するブラッドリーも、映画にはクリスが殺されるシーンを含めること考えていたという。ホールは米New York Daily Newsに対し、「我々は映画にそのシーンを加えようとしていた。話し合いを重ねて5通りのパターンで執筆し、どうやって撮影しようかも話していた」と明かした。

しかし、ホールがクリスの妻であるタヤと、クリスの葬儀の数日後に話した時に、彼女は「映画を作るなら、きちんと作ってほしい。いい部分も悪い部分も、映画は子供たちにとって、父の記憶として残るから」と伝えている。

ホールがクリスと会ったのは、2012年にベストセラーとなったクリスの自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』の映画化に向けた作業のため。この時、ホールは彼とともに多くの時間を過ごしていた。そして2013年の2月2日、脚本の初稿を提出した翌日、ホールに訃報が届いたのだった。

当然、編集の決定権はイーストウッド監督にあったわけだが、自身も二人の子供の父親であるホールは、クリスの死を描くシーンが彼の子供たちにどんな影響を与えるかを考えながら、最終段階の脚本を執筆したという。「彼の子供たちの記憶に、この映画が恐怖として一生残るのは避けたかった」と話す。

映画ではシエナ・ミラー演じるタヤが、のちにクリスを射殺することになるエディー・レイ・ルース容疑者とともに外出するクリスを、少し心配そうに見送るシーンで幕を閉じている。

この映画の締めくくりについて、ホールはイーストウッド監督の手腕を称賛した。「そのあとに惨事が起こることをまったく感じさせないシーンだ。この映画はタヤとクリスの二つの視点から描かれている。タヤにとっては普段と同じ一日だったはずが、クリスはもう家に帰ることはなかった」

『アメリカン・スナイパー』は、今年度の第87回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、脚色賞を含む6部門でノミネートを果たしている。本授賞式は日本で23日(月)9:00よりWOWOWプライムにて生中継される。(海外ドラマNAVI)

Photo:『アメリカン・スナイパー』
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