まさに群像劇のロールモデル?『クロッシング・ライン』は若手&ベテラン捜査官のコンビネーションが秀逸!

物語において「主人公がどんな人物なのか」は最も重要なファクター。
海外ドラマでは現在も、主人公をひとりに絞らず複数の俳優でメインキャラクターを構成する《アンサンブル作品》が主流だが、そうした群像劇でも、バラエティに富んだキャラクターたちの人物設定とバランスが物語の出来を左右する。

欧州諸国の越境犯罪を扱う特別捜査チームの活躍を描く『クロッシング・ライン』。本作の登場人物たちもまた多彩だ。
(やや人種的な偏りはあるが)国籍も母国語も生い立ちも性格も属する組織も異なる男女が、「国境を越えた凶悪犯罪を解決し、犯人に法の裁きを受けさせる」という使命のもとに集い、ヨーロッパの安全を守るため奔走する。

●若手は「各国ステレオタイプ」の宝庫!

オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)が管轄し、フランス国家警察の警視:ルイ・ダニエル率いる特別捜査班は、EU諸国の警察組織から精鋭を集めた「多国籍エリート捜査チーム」。
その若手捜査官を演じるのは、実際にイタリア・アイルランド・イギリス・ドイツ・フランス出身の俳優たち。見た目の雰囲気はもちろん、母国語は(当たり前だが)ペラペラだし、その国訛りの英語もリアリティたっぷり。

それに加え、キャラクター描写は

*イタリア人で組織犯罪に詳しいエヴァ・ヴィットーリアは「面倒見がよく(おせっかい)、親族への思い入れは人一倍。母国の言葉や料理への愛とこだわりが非常に強い」
*北アイルランド警察庁トミー・マッコーネルは「人見知りだが親しい相手に対しては情が深く、家族や仲間の結束を大事にする。気性が荒く、酒とケンカが大好き」
*ロンドン警視庁警部補:シエナ・プライドは、そんなアイルランド人と「仲が悪い」イギリス人で「なんとなく気取っていて、階級社会に生き、出自や伝統とマナーを重視するタイプ」
*ハイテク捜査が得意なベルリン警察セバスチャン・ベルガーは「きっちりしていて手先が器用。マジメで信頼できるが、ジョークが苦手でちょっと冷たい印象」のドイツ人
フランス国家警察の部長刑事:アンヌ=マリー・サンは「ややひねくれ者で、よっぽど親しい相手じゃないとめったに本心を明かさない」フランス人

と、まるで「ステレオタイプの見本市」のよう。
中には思い込みや偏見もあるものの、各国の典型的国民像を具現化した設定で、その国に馴染みが薄い視聴者でも「なんとなくありそう」と思えるはず。劇中にも、キャラクター同士がお互いに先入観たっぷりの見方をするくだりも。

 

ところが、はじめはそういう「あるある」感で共感させておいて、あとでその紋切型イメージを覆す設定が次々と明らかに。

*「家族を心から愛する」はずのイタリア人(エヴァ)は、マフィアだった父を憎んでマフィア対策庁の潜入捜査官になった。
*「一族の繋がりを重んじる」はずのアイルランド人(トミー)は、警察官になったことで、IRAとの繋がりがある父親からは裏切り者扱い。賞金首にされ、漂泊民(流れ者)の身内に命を狙われるハメになり、
*「王室の遠縁にあたる上流階級のお嬢様」であるイギリス人(シエナ)もまた、警官になったがために親との確執が生まれ、孤独を感じている。
*「質素で倹約家」であるはずのドイツ人(セバスチャン)はギャンブル依存症で借金を抱え、
*「自分の考えや希望をしっかり主張する」はずのフランス人(アンヌ=マリー)は、その控えめな性格から、超記憶症候群という特性や能力を存分に生かせていない。

既成概念が裏切られることで、キャラクターの面白味も視聴者の興味もぐっと増す。それぞれの「意外な一面」「弱点」が露わになるにつれ、バラバラだった彼らに職務以外の共通点・繋がりも見えてくる。
国籍も捜査方法も得意分野も異なるメンバーが一緒に事件を捜査・解決していくうち、どのように能力を認め合い、友情を感じ、信頼関係を築いていくのかも見逃せないポイントだ。

 

●ワケあり中高年の葛藤と再生

ICC特別捜査班の《若手捜査官たち》は20~30代で、刑事としても脂が乗ってくる年頃。能力もルックスもフレッシュで粒ぞろいな彼らに対し、《中高年ベテラン陣》の「これでもか」という枯れ具合が素晴らしい。

その顔つきのせいか「ちょっとした権力を持つ悪者」「主人公を追い詰めるイヤな奴」系の役が多い、クセのあるバイプレイヤー:ウィリアム・フィクナー
80年代から歌手として数々のヒット曲を生み、俳優に転向したフランスのスター:マルク・ラヴォワンヌ
俳優としてのキャリアは半世紀超え。まだまだ息子には負けてない、名優:ドナルド・サザーランド
・・・というキャスティングも渋すぎる。

W・フィクナー演じる元ニューヨーク市警のカール・ヒックマンは、並外れた勘の鋭さと捜査能力で誰よりも早く刑事に昇進。NYPDと外国の警察組織の連携強化のため、2年ほどヨーロッパに派遣されていた時期にルイと知り合った。
帰国後、子供の誘拐事件を捜査中、追跡していた容疑者:ジェノヴェーゼに右手を撃ち抜かれてしまう。その上、彼の能力と出世を妬んだ上司にハメられ、辞職を余儀なくされた。
何もかも捨てて移り住んだアムステルダムで遊園地の清掃員として働き、痛みと絶望で地獄のような日々を送っていたところ、ルイに誘われて捜査官として復帰。

 

M・ラヴォワンヌ演じるフランス国家警察の警視:ルイ・ダニエルは、自宅に仕掛けられた爆弾で当時10歳だった息子を喪った。ルイの仕事が息子の死の原因と信じる妻:レベッカは夫を責め続け、結婚生活は破綻寸前。
ルイにとって、越境犯罪を独自に捜査できる精鋭チームを設立したのは、息子を殺した犯人を捜し出して復讐するためでもあった。息子が誰に・なぜ殺されたのかを明らかにして復讐を遂げた後には、妻とともに前を向いて生きることを望んでいる。

D・サザーランド演じるミヘル・ドルンは、ユダヤ系ポーランド人で国際刑事裁判所(ICC)の首席監察官。7歳の誕生日の朝にドイツ空軍のポーランド侵攻を体験、迫害から逃れたフランスの小村でもドイツ軍との戦闘に巻き込まれた。
戦後は、国際法上の犯罪を糾弾することに人生を捧げてきたが、差別や争いは一向になくならず、犯罪者全てを訴追できるわけでもない。新しい時代を迎えて凶悪化・複雑化する犯罪に対処するため、ルイのチームとICCのパイプ役として尽力。80歳にして「新たな方法で悪と戦う」道を選ぶ。

 

『クロッシング・ライン』は、「傷つき、挫折し、トラウマを抱え、諦めきっていた中年男性」が、人生半ばで新たな目標を得て本来の自分を取り戻していく【復活と再スタートの物語】でもある。

そんな《犯罪追及のエキスパート》と《若手捜査官》のコントラストも見どころ。

印象的なのは、第1話でヒックマンが初めてICCの地下にやってくるシーン。
「新入り」のヒックマンに、若いメンバーは好奇心と不信感が入り混じった視線を向ける。
かつては優秀な警官だったが不名誉な形で辞め、現在はトレーラー暮らし。利き手が使えず、銃の手入れはおろか、構えて撃つこともままならない。慢性的な手の痛みからモルヒネの依存症に。
体力・気力とも充実している若き捜査官にとって、ヒックマンはもはや「過去の人」だった。

しかし、ヒックマンの鋭い直感と観察眼、豊富な経験に基づく捜査スキルを目の当たりにして、次第に敬意を抱くようになる。

若手は、熟練の捜査テクニックだけでなく、他者を受け入れる寛容さや仲間と協力することの重要性も学び、ベテラン勢は若手との仕事・交流を通じて、新鮮な目で事件を見ることの大切さや最新技術が捜査に役立つことに気付き、正義に燃えていた頃の自分を思い出す。

「正反対の者同士が出会い、対立し反発し合いながら問題を乗り越えて成長する」ストーリーはフィクションの定石。
ストーリーはもちろんのこと、チーム内に盛り込まれた対比――ヨーロッパの内と外・若さと老練さ・問題児と優等生・頭脳派と肉体派・無骨さとエレガントさ――を味わいつつ、個性的なキャラクターたちの絶妙なコンビネーションをじっくり味わってほしい。

DVDリリース情報
『クロッシング・ライン』シーズン1 発売中
5枚組 全10話 12,000円+税
『クロッシング・ライン』シーズン2 5月2日発売
6枚組 全12話 14,400円+税

Photo:『クロッシング・ライン』
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