今年4月に英BBC1で放送され、日本でも7月23日からミステリー専門チャンネル・AXNミステリーにて放送されているTVシリーズ『THE GAME』。冷戦下の1970年代を舞台に、謎の作戦をめぐって展開される、スタイリッシュなスパイ・ミステリーだ。そんな話題作から、主役ジョー・ラムを演じるトム・ヒューズの独占インタビューをお届け! 端正な顔立ちに185cmの長身で、数々の名優を輩出してきた王立演劇学校RADAで学んだ確かな演技力を持つトムは、舞台、映画、TVシリーズで幅広く活躍中。第2のカンバーバッチとの呼び声高い彼が、複雑な主人公ジョーというキャラクターや自身について語ってくれた。
――ジョー役を得るのは大変でしたか? オーディションは何度もあったんですか?
2回だったかな。そんなにやらなかった。20代でこんな役が回ってくるなんて驚きだよ。だいたい30代になる頃まで、人生経験を積んだ役はあまり来ないのが普通だけど、ジョーの場合は例外だ。深い経験がある。ただし、初めは彼が人生のさまざまな経験を積んだ事実は脚本の表面にあまり出ていなくて、シリーズが進むにつれて少しずつ紐解かれていくんだ。ジョーは複雑な人物で、心に多くの矛盾を抱えている。こんな複雑な役を20代で演じる機会なんてめったにないから、脚本を読んだ時、凄くこの役がやりたい!と思ったよ。
――ジョーを演じるにあたって参考にした作品は?
役作りは、第1話から第3話までを監督したニオール・マコーミックとの打ち合わせが中心だった。彼と、他のスパイドラマなどを参考に、ジョーの役作りについて話し合った。映画『裏切りのサーカス』や『The Piglet Files(原題)』という英ITVのドラマなどを参考にしながら、スパイの生活とはどんなものかを具体的に話し合ったんだ。
――映画とTVシリーズの仕事ではかなり違いがありますか? 『THE GAME』は全6話ということで、時間をかけて役を作り上げられると思いますが?
その点では異なるね。でも基本的には同じ仕事だよ。役者という仕事の素晴らしい点は、実際の人生では体験できない体験ができることだよ。それは魔法のようだ。人間の中にある矛盾や偽り、その他多くの行動や心理に焦点を当てていける。その点では映画もTVシリーズも同様だと思う。
――英国ドラマが世界中で人気ですが、その理由は何だと思いますか?
その質問はよくされるけれど、答えるのは難しいな。理由はいくつかあると思うけれど、僕は子ども時代にあまりテレビや映画を見ていなかったから、ドラマには詳しくないんだ。限られた経験の中から考えてみるなら、近年見た映画やドラマなど心に残る作品というのは、人間性が強力な作品だよ。プロットが面白い、面白くないに関わらずね。
――日本では英国俳優が大人気です。英国俳優の魅力は何だと思いますか?
それについては更にわからない。ミルクのたっぷり入った紅茶を飲むからじゃないのかな(笑)。
――日本でも7月から『THE GAME』が放送されています。ファンにメッセージをお願いします。
とにかく楽しんでほしい。昔の話を新鮮に語るドラマだから、そのあたりを楽しんでもらいたいね。
――日本に行ったことは?
一度も行ったことがない。アジアの国はどこも訪れたことがないんだ。ぜひ行ってみたいね。
――ところで、このジョー役が決まった時の反応は?
僕に決まったと知ったのは、たしかサッカーをしに行く途中だったかな。それでサッカーしている時も集中できなくて、ヘマばかりしていた。2ヵ月アイルランドやエチオピアで『Dear to be wild(原題)』という映画の撮影をしていて、それが終わったばかりだった。まだ自宅に帰ってきて2日しか経っていなくて、スーツケースも開けていなかったんだ。電話がかかってきて、2週間後にはバーミンガムに来てくれと言われた。2週間後にはまた他の都市に移動しなければならない、ということを考えてばかりいたから、祝うという心の余裕もなかったんだ。撮影所であるバーミンガムの旧図書館でメイクや衣装のスタッフと打ち合わせをしている時や、MI5の本部のビルとして使う現場に行った時に、この役を演じるんだ、夢じゃないんだという実感がわいてきて、初めてこの役が決まったことを実感することができたよ。
――MI5の一員になった気分は?
不思議だよ。バーに飲みに行って、そこにいる人々を眺めて、この中の誰がスパイかな、と考え始める。良い気分だよ。奇妙な世界ではあるけどね。あまりに犠牲にするものが多すぎるから、普通の人間はスパイになれないと思う。仕事から得られる興奮や満足感は高いかもしれないけど、友情や人生の他の楽しみを友達と分かち合えないのは悲しいよ。
――このドラマの背景は70年代初めです。そんな時代感や自分のキャラクターについて気を配った点は?
ジョーは不必要に動かないんだ。その点に気を配った。この役を演じて一番楽しかったのは、70年代に生きるのがどんな感じかを体験できたことだった。ドラマの中で違う時代を生きたんだ。70年代の車を12台も運転する体験もしたしね。凄く楽しかった。現代はテクノロジーが発展したせいで、失われたものも多いと思う。70年代のスパイのコミュニケーションの良い点は、どこか正直で......。例えば何かをやっている時、途中で中断されたりすることがなかった。携帯電話もTwitterもなかったからね。そこにいる人と会話するだけ。その素朴さに愛着を感じたよ。
――他のドラマにはない、『THE GAME』の特別な魅力とは?
『THE GAME』が他のドラマと違う点は、冷戦下という時代性の他に、なによりもドラマの中核に生の人間がいる。キャラクターそれぞれの、事件との個人的な関わり方が興味を引くんだ。人間の心理について描くドラマなんだよ。極限まで追い込まれた時に、人間はどう感じるか、振る舞うか。僕も個人的に、現実的なキャラクターに一番惹かれるし、現実に基づいたドラマが好きなんだ。
――ガジェットもかなりレトロで、カセットやオープン・リールも登場しますね。
ああいうのって好きだな。僕はFacebookもInstagramもやらないから。今でもLPレコードとか持っているし......。時代と共に進歩しなければならないのも分かるけれど、昔のものを全て捨てることもできないね。70年代の生活を体験できたのは楽しかったよ。
――何歳の頃から俳優になりたいと思っていたのですか? 決め手になった出来事は?
映画や俳優とはあまり関係ない環境で育ったんだけど、8歳の時に学芸会に出て、『父さんギツネバンザイ』を演じたんだ。クラスで立候補したのは、バカな僕しかいなかったからさ。でもその舞台で演技に恋をしたんだ。6歳の頃からギターを弾いていたから、人前で演奏した経験はあった。ただ、演技はギターの演奏とは違っていた。ステージに立つと、時が止まるような気持ちになった。それで母に、これをずっと続けたい、と言ったんだ。8歳の子どもの言ったことだから、その後に気持ちが変わるのは十分あり得ることだけど、僕の場合はその気持ちが全然変わらなかった。
――俳優で好きな人や尊敬する人、目標にしている人はいますか?
僕は大の音楽ファンなんだ。だから子どもの頃、映画はほとんど見ていなかった。バンドでギターを弾いたりして、特に音楽とサッカーに関心があったからね。演技は習い事で、特別なんだ。だから役作りも、映画を参考にはしていない。いつもリズム、役の中にあるハートビートを見つけることで役作りしている。音楽がインスピレーションなんだよ。例えばあるシーンを撮った時、ビートルズの「ポリシーン・パン」という曲を何度も繰り返して聞いた。その時は他の曲は聞きたくなかった。そのシーンには、ジョン・レノンの怒りが表現されているこの曲がぴったりだったんだ。
■放送情報
8月22日(土)22:15よりミステリー専門チャンネルAXNミステリーにて一挙放送!(全6話)[字]
Photo:
トム・ヒューズ
『THE GAME』
(C) BBC 2014
(C) Mystery Channel Inc.