「業界視点」でズバリ占う!第88回アカデミー賞 主要賞の行方

今回で、レッドカーペット生中継に挑むのは6度目。
今年のインタビュー&リポートのお相手は、女優の武田梨奈さんです。

偶然か、必然か、2015年度の映画のノミネート作品群には、
"アクション" がその魅力となっているものも多いですから、
武田さんの「目線」も楽しみです。

そして昨年同様に、非常に優れた独立系の作品も出揃い、
豊かなラインナップとなったのではないかと思います。

毎年必ず思うのは、見事に受賞する作品もノミネートされた作品も、
あるいは候補入りが噂され期待値が大きかったにもかかわらず惜しくもノミネーションを逃した作品であっても、
アワードシーズンに名を連ねた映画というのは、どれも劇場に足を運ぶだけの価値があるということです。

恒例の "(業界視点での)予想" を今年も試みますが、決してそれぞれの映画に甲乙を付けられるものではなく、
特に「映画業界人が映画業界人を讃える」アカデミー賞は多くの批評家の賞の評価とは異なる結果が生まれることがあることもどうか胸に留めておいて下さいね♪

それでは、始めましょう!!

まずは《助演女優賞》から。

ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイトフル・エイト』)、レイチェル・マクアダムス(『スポットライト 世紀のスクープ』)、アリシア・ヴィキャンダー(『リリーのすべて』)の3人はアカデミー賞初ノミネートです。
ルーニー・マーラ(『キャロル』)は過去に『ドラゴン・タトゥーの女』の演技で主演女優賞にノミネートされ、すでに脚光を浴びていますが、この部門では初ノミネート。
そしてケイト・ウィンスレット(『スティーブ・ジョブズ』)はこの部門では3度目、アカデミー賞候補入りするのは計7度目です。

過去、1度主演賞を「愛を読む人」で獲得しているケイト・ウィンスレットは、今年のゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞をすでに獲得。強烈な個性のスティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー) とぶつかり合う芯の強さを見せながら、優しさを漂わせる演技を見せています。アーロン・ソーキンの難しい脚本をこなしている点も評価が高い理由かもしれません。

ただし、この部門に関しては俳優組合賞(SAG賞)の結果も無視することはできません。
演技部門に関しては、この賞の結果がアカデミー賞の結果と重なる確率が高いのです。

本年度、俳優組合賞の助演女優賞を手にしたのは、アリシア・ヴィキャンダー(日本では表記がヴィキャンデルが一般的)。
初ノミネート、初受賞です。世界で初めて性別適合手術に臨んだ男性の妻の心情をあたたかに、しかも狂おしく演じた彼女の名演は、見る者の心を揺さぶります。
彼女は『EX MACHINA』で演じたアンドロイドの演技でこの部門にダブルノミネートされていてもおかしくなかったほどの今年の注目株です。

 

今、光り輝いているアリシアが、レッドカーペットでも授賞式でも脚光を浴びることは間違いありません。オスカーも彼女が手にすると見ています。

《助演男優賞》

今回のアカデミー賞の見どころの1つは、シルべスター・スタローンが『クリード チャンプを継ぐ男』の演技で初めてオスカーを手にするか!?という点。
彼がノミネートを受けるのは、1976年の『ロッキー』(主演賞とオリジナル脚本賞の候補として)実に40年ぶりなのです。

SAG賞で受賞したイドリス・エルバ(『ビースト・オブ・ノー・ネイション』)が、オスカーではノミネートから漏れたことから、「スタローン初受賞!!」への期待が一気に膨らんでいます。

スタローンと競い合う有力候補としては、英国アカデミー賞で同部門を制した『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスです。
名優トム・ハンクスを相手に、静かなる演技で絶大な効果を上げた彼がいてこそ、『ブリッジ・オブ・スパ イ』の完成度とスリルが高まったことを考えると、
ライランスの受賞の可能性も十分あります。単純に、"1本の映画" だけの演技でなら、ライランスに軍配が上がる、と言っていいほど。

しかし、スタローンが "ロッキー・バルボア" として、まるで同一人物かのように不屈の精神で生きてきたキャリアには重みがあり、オスカー演技賞の栄冠には長年無縁で歩んだアクション俳優に対し「功労」の賞を与えたいという思いが米国業界内には募っています。
映画の中でも、クライマックスに彼のテーマ曲が流れる時、彼がリングサイドで叫びを上げる時には、鳥肌が立ちます。

 

「ロッキー」という1つの伝説が、アメリカ社会に、世界に、与えてきたものを考えた時、彼は今回の受賞に値するのではないでしょうか。

《主演女優賞》

この部門、今回は新進の若手女優がしのぎを削ります。

過去、この部門での受賞が記憶に まだ新しいケイト・ブランシェット(『キャロル』)とジェニファー・ローレンス(『JOY』)が再び受賞することは考え難く、
また素晴らしく自然に心の揺らぎと愛を演じたシャーロット・ランプリング(『さざなみ」』)もノミネートのみに留まることが予想されます。
"留まる" と言っても、どの演技も見事というほかありません。

今年それらを越えて勢いがあるのは若干21才、『ブルックリン』で主演女優賞初ノミネートのサーシャ・ローナン(日本ではシアーシャの表記が一般的)と、
そして26才で今年の主要映画賞の主演賞をぼぼ総なめにしている『ルーム』のブリー・ラーソンです。

サーシャは13才の時に『つぐない』でオスカーの助演にノミネートされた逸材。昨年、作品賞にもノミネートされた『グランド・ブダペスト・ホテル』でも好印象を残しています。
『ブルックリン』では、50年代にアイルランドから米国へ移民してきた女性の不安な心模様と運命的な出会いで恋に落ちる転機を鮮や かに演じます。

一方、ブリー・ラーソンは、その演技キャリアを90年代後半にスタートさせて歩んで来たものの、これまでは世界的にはまだ知られてはこなかった存在。ところがカナダとアイルランド制作の本作『ルーム』で大ブレイク。監禁という特殊な状況下で、物語の前半を子役のジェイコブ・トレンブリーとたった二人で演じきり、本当の親子の絆のように魅せた演技は必見。ゴールデン・グローブ賞、SAG賞、英国アカデミー賞も獲得し、アカデミー賞の受賞も確実視されています。

 

ブリーは、オスカー初ノミネート・初受賞を果たし、翌日の報道を賑わせるはず。
レッドカーペットでの、彼女の"勝負ドレス"にも注目しま しょう!!!

《主演男優賞》

皆さん、この時を待ち続けていたのではないでしょうか。

この部門、ついにレオナルド・ディカプリオが栄冠を手にします!!!

彼が『ウルフ・オブ・ウォールストリート』後に発表した休業宣言を覆して挑んだ、大野心作『レヴェナント:蘇えりし者』から溢れる気迫は観客の胸にも強く迫ります。
過酷な雪中の撮影環境と、息を吞む映像の美しさも相まって、ディカプリオ作品として"忘れ得ぬ一本"となったことは否定しようがありません。

「体当たりの演技」という言葉がよく使われますが、これほど身体を張った映画は見られるものではないでしょう。並々ならぬ準備と、厳し過ぎるほどの自然の中で演技を貫く精神力は、想像を絶するものがあります。

もし、昨年のアカデミー賞でエディ・レッドメインが主演男優賞を受賞していなければ、『リリーのすべて』のエディの演技も最有力候補になっていた可能性があります。
年度が違えば、エディの受賞もあり得たかもしれません。
性同一性障害という葛藤を抱え、やがて男性からの転換を決意する "女性" の心を描写したエディの演技は素晴らしく、彼の2年連続のオスカー参戦はそれだけで勲章です。

しかし今年は、レオがドルビー・シアターのステージに登壇し、会場が総立ちとなり彼に拍手を送る光景を僕らは目にするはずです。

「レオの満面の笑顔」をついにアカデミー賞授賞式のあの場で見届けることができるでしょう。

この瞬間が、事実上、本年度のクライマックスになるのではないでしょうか。

 

《監督賞》

この部門は、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が2年連続で栄冠を手にする可能性が生まれています。もちろん、それが起きれば偉業。
監督 賞は、監督組合賞(DGA賞)をイニャリトゥ監督が手にしているだけに、確率は非常に高いです。

対抗馬としては、『レヴェナント』12部門ノミネートに次ぐ、堂々10部門ノミネートをもたらした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジョージ・ミラー監督がひょっとすると下馬評を覆すかもしれません。
アカデミックで重厚な作品を好む傾向の強いアカデミー賞において、あれだけのド派手なアクションを盛り込んだ映画が監督賞&作品賞の候補にまで登り詰めた事実は、異例なのです。
それだけ、業界内の(特に技術スタッフらからの)評価が高い証拠と言えるでしょう。
本年度の最多部門受賞の可能性すらあります。

但し、長年この『マッドマックス』の続編の実現に精魂を注いできたミラー監督に対し、昨年オスカーを席巻した、ブロードウェイの劇場内の群像を描き、緻密にすべてが仕組まれた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』から、完全にガラリと作風を変え、壮大な大自然に取り残される男の復讐心とその命の強さを活写し、再び観客をあっと驚かせたイニャリトゥ組の"凄み"はやはり無視できないものがあります。

《作品賞》

作品賞に関しては、今年もまた「読めない...」という見方があります。「絶対」と「鉄板」がない状況。これはある意味、贅沢です。最後の最後まで授賞式から目が離せない楽しみを残しているからです!!!

現在、勢いが最も強いと言えるのは『レヴェナント:蘇えりし者』。

しかし、数々の批評家賞と、SAG賞の最高賞であるキャスト・アン サンブル賞を受賞している『スポットライト 世紀のスクープ』も、本来アカデミー会員が好むジャンルの作品です。
出演陣全体の演技の妙味はこの作品にもっとも見応えがあるといっても過言ではない出来映えで、ジャーナリズムの心意気が社会の闇を暴くという題材も、映画として非常に意義深い存在。
エンディングで新聞記者たち迎える結末のカタルシスは、ピカいちです。
作品賞で『レヴェナント』の牙城を切り崩すとすれば、この作品でしょう。

また、製作者組合賞(PGA賞)を制した『マネー・ショート 華麗なる大逆転』にも、その名の通りの大逆転を起こすチャンスは残っています。PGA賞の結果は、オスカー作品賞の結果と重なることが多いというデータがあるからです。一見、非常に難解な世界的金融システムの破綻を面白く見せ、その危機の中で大勝負に挑む男たちの群像をエンターテインメントに仕上げた手腕は高く評価されています。
昨年、『フォックスキャッチャー』でオスカー候補に名を連ねたスティーヴ・カレル、人気のライアン・ゴズリング、今回は助演男優部門でノミネートされているクリスチャン・ベール、そして本作でプロデューサーとしてもノミネートされているブラッド・ピット豪華キャストの演技合戦は楽しく、と同時にバブル的な空売り金融の恐ろしさを世に知らしめた、テーマ的な意義も大きい。

さらに、日本でも現在人気を博している『オデッセイ』も、手堅い秀作であり、サプライズを起こす可能性が残っています。米国の劇場でも、観客の反応はすこぶるよく、多くの笑いを生み、また今年「(ノミニーが)白人ばかり!」と揶揄されている映画群の中でも黒人やアジア人俳優がキャストに巧く配され、全員で力を合わせて苦難を乗り切るフィール・グッド・ムービーであることが、気運を後押しするケースがあり得るからです。内容もアカデミックで知性に溢れている。監督賞候補から、名匠リドリー・スコット氏が漏れてしまったことで、同作のプロデュー サーとして彼と彼のチームに受賞させようという投票行動が起こる... なんていう展開も期待できるのです。

仮に、『スポットライト』『マッドマックス』『マネー・ショート』『オデッセイ』のどれが作品賞に輝いたとしても、なんら不思議ではないのが現在の状況。

とはいえ、前述したディカプリオの熱演と、撮影監督のエマニュエル・ルベツキ氏の3年連続受賞(2年前の『ゼロ・グラビティ』と昨年の『バードマン』で受賞)の可能性と、イニャリトゥ監督のたゆまぬ挑戦への称賛の念がうねりを起こせば、『レヴェナント:蘇えりし者』の"圧勝劇の夜"となる可能性が充分にあります。

さて、授賞式の目玉となる主要6部門に加えて、あと2部門だけ、触れておきましょう。

まず《視覚効果》部門。

前回のコラムで触れたように、僕は『ワイルド・スピード SKY MISSION』での主役の1人である故ポール・ウォーカーの、生前に撮ることが出来なかったシーンを最新技術を駆使してスクリーン上に生み出したスタッフの成果が、オスカーにノミネートされることを願っていたのですが、それは残念ながら叶いませんでした。
しかし、仕方がないですね、今年のノミネート作品のラインアップは『EX MACHINA』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『オデッセイ』『レヴェナント:蘇えりし者』『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で、これらのどの作品も、"プラクティカル・エフェクト"(実際に美術や大道具やメイクや人材を使って撮り上げる視覚効果)と、CGやグリーンスクリーン合成などを駆使した "スペシャル・ビジュアル・エフェクト" の両方を実に巧みにかけ合わせた傑作ですから。
すべてが唸る出来映えで、どの作品も大スクリーンで見ていただきたいものばかりです。
どの作品が受賞しても、納得です♪

それから、日本勢としてはやはり注目の《長編アニメーション》部門。

スタジオジブリ作品の3年連続のノミネートは、まさしく快挙です。
ジブリ作品がこよなくアカデミー会員やアニメ制作者たちに愛され、敬意を抱かれていることを再認識させられた『思い出のマーニー』の候補入り。
しかもこの1本は、宮崎駿&高畑勲という2大巨匠の色とは違う、新たなジブリ世代の息吹とこだわりを注ぎ込まれた米林宏昌監督の独自の作品。
キャラクターの 表情の作画や、舞台となった北海道の景色(美術)への"こだわり"については、レッドカーペットでじっくりご本人に伺いたいと思っています。
アカデミー賞ノミネートは、前哨戦での下馬評を覆す嬉しい驚きでしたが、真似の出来ない情景画の美しさは、称賛に値する素晴らしいものです。

この部門の最有力候補は、世界中で大ヒットを記録した『インサイド・ヘッド』。
人の気持ちがどう動き、どう形成されるのか、感情の要素をキャラクターに仕立て、「心」の在り様を生き生きと描き、主人公の成長を感動と共に紡いだ物語は、なんと今回、オリジナル脚本賞の部門にもノミネートされています。
映画を見ている誰もが感情移入できる、 ディズニー/ピクサー映画の傑作です。

 

しかもこの物語は、現実にひきこもり状態に陥ってしまった娘さんを持った、ピート・ドクター監督自らの体験に基づく実話ベースの作品。
だからこその説得力が脚本にあり、作品賞部門にさえ久々にアニメーションがノミネートされてもおかしくなかった...というほどの支持を受けています。

ハイレベルな競争が、米アニメの老舗ディズニーと、日本が誇るジブリの間で3年も続けて展開するということは本当に凄いことですね。

さぁ、第88回アカデミー賞、授賞式は目の前です。
日本への中継の放送時間は2月29日(月曜)の午前9時。

今年はどんなサプライ ズが起きるのか...
どんな感動が生まれるのか...

あの最高峰の会場とレッドカーペットから映画ファンの皆さんへ、
生の臨場感と興奮を全力でお届けします。

どうかご期待下さい!!!

◆「第88回アカデミー賞授賞式」放送情報
2月29日(月)9:00よりWOWOWプライムにて生中継!
日本時間2月29日(現地時間2月28日)に、ロサンゼルスのドルビー・シアターにて行われる第88回アカデミー賞授賞式。
当日は、同時通訳による二か国語放送の生中継、そして夜21:00からは字幕付きリピート放送をハイビジョンでお届けします。
また、過去受賞作品以外にも、授賞式までを盛り上げる関連番組が続々放送。アカデミー賞一色に染まります!
オンエア情報はこちらから


Photo:
『リリーのすべて』(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ルーム』(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015
『クリード チャンプを継ぐ男』(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『レヴェナント:蘇えりし者』(C)2016 Twentieth Century Fox
『インサイド・ヘッド』(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.