知ってるともっと楽しめる!『ゲーム・オブ・スローンズ』に織り込まれた中世イギリス史

大盛況のままに幕を下ろした『ゲーム・オブ・スローンズ』の第六章。2016年度のエミー賞では作品賞を2年連続で受賞したほか、脚本賞、監督賞に加えて技術部門でも9つのトロフィーを獲得し、前年に続けて史上最多の12部門に輝いた。

 

怒涛の人気を誇る同作は残り2シーズン。次章の撮影のため、キャストたちは続々とスタジオのある北アイルランド入りしているという。この撮影地以外にも、アメリカのHBO制作でありながら、イギリス人俳優が多数起用されており、登場人物がイギリス各地の訛りで話すなど、イギリス色のひときわ強い同作だが、世界観、ストーリーの軸、そして個々のエピソードにもイギリス要素が詰まっていることをご存じだろうか。

◆世界観がイギリス

まずは地理関係から。物語の主な舞台となるウェスタロスは7つの王国からなる島国であるが、原作に添付された地図が、さかさまにしたアイルランドを下にくっつけたイギリスにそっくりであることはファンの間では有名な話である。ウェスタロスがイギリスならば、その東側に位置する別の大陸エッソスはユーラシア大陸であろうか。海の狭さもちょうどちょうど良さそうだ。

 

ウェスタロスの歴史では、最初の人々と森の子らとの抗争ののち、互いの脅威であるホワイトウォーカーの侵入を防ぐために強力な魔法で高くそびえる壁を築いたとされている。これはまさに現在のイングランドとスコットランドを区切るように横断するハドリアヌスの長城と一致する。この長城は、2世紀にイギリスに進軍してきたローマ人が、先住していたケルト人を北に追いやり、彼らからの攻撃と侵入を防ぐためにローマ皇帝ハドリアヌスが築城したものだ。

また、同作では壁の向こうで野人がホワイトウォーカーから隠れながら生活していたが、ハドリアヌスの壁に隔てられたケルト人たちも土地の妖精を畏怖していたと信じられている。ケルトの妖精は強力で、無礼を働けば悪戯されたり災難に見舞われたり、呪い殺されたりすることさえあると考えられていた。

 

最初の人々はのちに大陸からやってきたアンダル人に制圧される。このアンダル人が7つの王国を作り、競い合い、それを統一した"狂王"ことエイリス・ターガリエンが鉄の玉座を作った。イングランドを一度は支配したローマ人だったが、ゲルマン民族がその土地を奪うと7つの王国を作り、小競り合いの末、ウェセックス王エグバートがイングランドを初めて統一した。エグバートは鉄の玉座は作らなかったが、それ以外は史実そっくりそのままである。

さらに、野人と最初の人々が信仰する古の神々はギリシャ・ローマ神話のような多神教であり、北部と鉄諸島以外の多くのアンダル人が信じる七神教は七つの顔を持つ唯一神を信仰する大陸起源の宗教である。そのウェスタロスへの伝わり方や政治との関わりはさながらキリスト教のようだ。七神教を悪魔と称するメリサンドルが仕える光の王は同様に火を信仰するゾロアスター教と類似している。

◆ストーリーの軸がイギリス

『ゲーム・オブ・スローンズ』は複雑に絡み合うストーリーを無理やりまとめるなら「壮絶な椅子取り合戦」である。特にスターク家とラニスター家という有力諸侯の対立は一つの主要なストーリー軸だ。

 

実はイギリス史にも長きにわたる椅子取り合戦が存在する。15世紀の「薔薇戦争」である。イギリスを統一した強力な王ヘンリー5世の急逝で、王位をめぐるランカスター家(赤薔薇)とヨーク家(白薔薇)の間に約30年に及ぶ内乱が勃発した。

 

ヨーク家が北部を本拠地とし質実剛健で質素な生活を送る一方、裕福なランカスター家は南部で豪華に暮らしていた、というのはまさにスターク家とラニスター家の対比そのままである。それだけでなく、野心的で暴力的な王妃と有能な臣下との間で板挟みになる王、残虐な王子と王家の豪勢な生活による王都の荒廃と人々の不満、王子とその叔父の王座争い、戦場での成功と婚約破棄による反逆と失脚、有力な後継者候補でありながら嫡出子という地位の危うさ、別の大陸から渡ってくる正統な血筋の第三者など、どれも『ゲーム・オブ・スローンズ』のファンなら聞き覚えのある話だろうが、これらはすべて薔薇戦争にも当てはまることなのだ。

 

実際に原作者のジョージ・R・R・マーティンが、様々な史実から影響を受けているものの、中でも薔薇戦争が「最も近い」モチーフであることを認めたとイギリスのGuardian紙が伝えている。

【関連動画】『ゲーム・オブ・スローンズ』のインスピレーションとなった薔薇戦争(英語)

◆重大事件がイギリス

シリーズの中でも特に印象深いトラウマエピソードといえば、第三章「キャスタミアの雨」で描かれた"血塗られた結婚式"ではないだろうか。

ラニスターとの抗争に協力する対価としてフレイ家の娘と結婚するという約束を反故にして別の女性と結婚したロブ・スタークに代わり、母方の叔父エドミュア・タリーがフレイ家の娘と結婚することになり、スターク家、タリー家がフレイ家での宴会に招かれたが、城主ウォルダー・フレイの裏切りで披露宴会場に閉じ込められたキャトリン、ロブ、そして身重のロブの妻タリサは宴会の最中に殺害され、エドミュアは捕虜になってしまう。

 

このエピソードのモデルは中世スコットランドで起きた二つの事件である。一つは、エディンバラ城のディナーに招かれた有力な一族ダグラス家の兄弟が策略によって斬首された"ブラックディナー"として知られる事件。もう一つは、イングランドのウィリアム公がなかなか服従しないスコットランドのグレンコー村に対して、和解を持ち掛けつつ夜中に村に火を放ち、子どもも含めたグレンコー村の住民全員を殺害しようとした事件だ。

前述の薔薇戦争における婚約破棄への復讐に、この二つの事件の宴会を利用するというアイデア、"ブラックディナー"から斬首、グレンコーの虐殺からスターク家殲滅の要素が組み合わされている。すべて歴史上の出来事であるが、結婚という非常に重要な分岐点に史上最悪の裏切りをマッシュアップした原作者がちょっと恐ろしく思えるのは筆者だけだろうか。

ともかく史実でもこうして後世に語り継がれる「裏切り」。決して許されない行為であり、フレイ家の悪評もウェスタロスで末永く語られるのは間違いないだろう。

このように『ゲーム・オブ・スローンズ』はイギリスの地理や宗教の変遷、歴史といった現実世界と密接にリンクしているのである。世界観に共通点があることによって、現実とは世界も時代も異なる同作のキャラクターたちに親近感を覚えやすい点が、本作が特に欧米をはじめとする西洋諸国で人気を博している理由の一つかもしれない。

単にファンタジー作品として見るのではなく、イギリス史の影響を理解した上で、壮大で恐ろしくリアルな時代劇として『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界を楽しんでみてはいかがだろうか。

 

<作品情報>
『ゲーム・オブ・スローンズ』は最新の第六章までPlayStation™Videoで全話配信中!

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『ゲーム・オブ・スローンズ』の米HBOが手掛けた、古代ローマで繰り広げられる愛と策略の物語

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イングランドとスコットランドが争う18世紀の世界へタイムスリップしてしまった女性の数奇な運命を描く歴史ロマン

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『アイアンマン』監督が製作総指揮を務める、『ゲーム・オブ・スローンズ』と似た世界観を持つSFアクション

Photo:
『ゲーム・オブ・スローンズ』
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