音楽業界でのし上がった主人公ルシウス・ライオンと元妻のクッキー、3人の息子たちの愛憎渦巻く人間模様を描いた大ヒットドラマ『Empire/エンパイア 成功の代償』。ストーリーもさることながら、番組の中で奏でられるオリジナルソングがドラマの内容にマッチしていて、大きな注目を集めています。
マドンナやジャスティン・ティンバーレイク、ジェイZといった大物アーティストを手掛ける一流音楽プロデューサー、ティンバランドが劇中で使用される楽曲を提供。また、有名アーティストたちが続々とゲスト出演しているのも魅力です。シーズン1にはコートニー・ラヴ、ジェニファー・ハドソン、スヌープ・ドッグ、 パティ・ラベル、シーズン2にはアリシア・キーズ、NE-YO、ベッキー・ジー、リュダクリス、ジェイソン・デルーロ、ピットブルなどが姿を見せています。
素晴らしい音楽が収録されたシーズン1の公式サウンドトラックは、異例の大ヒットを記録。全米チャート初登場1位に輝き、第58回グラミー賞の最優秀サウンドトラック・アルバム部門にもノミネートされました。このサウンドトラックには、ライオン家の次男ジャマル役のジャシー・スモレット、三男ハキーム役のブリシェア・グレイ（アーティスト名「ヤズ・ザ・グレイテスト」）、ルシウス役のテレンス・ハワードのほか、ゲスト出演したリタ・オラやメアリー・J・ブライジなどが参加しています。アリシア・キーズやピットブルが参加したシーズン2のサウンドトラックも、ティンバランドが全面的にバックアップし、キャッチーなヒップホップ・チューンやクールなR＆Bが収録されています。
劇中でジャマルはシンガー、ハキームはラッパーなのですが、ジャマルはその時々の心情を込めた歌を作り、その切ない歌声が視聴者の心を打ちます。対照的に、ハキームは彼の敵に対する攻撃的な気持ちをラップに込めることが多く、そのリリックは非常にパワフル。ラップバトルにも引き付けられます。
そういった番組内に登場した楽曲がサントラに収められ、そこには『Empire』の音楽の魅力が詰まっています。
シーズン1で特に注目を集めた曲は「ユアー・ソー・ビューティフル」。ライオン家の結束を強くしようと、タラジ・P・ヘンソン演じるクッキーがルシウスの昔の曲をリメイクしてプロデュース。ジャマルが美しい歌声を披露し、ハキームのラップが力強くサポートしています。このドラマはジェットコースターのように目まぐるしい展開が特徴なのですが、その後ライオン家に問題が起き、ジャマルはこの曲をアレンジ。歌詞を変え、歌いながらステージ上でゲイであることをカミングアウトする姿は感動的です。
ラップソング「キャント・トラス・エム」は、母クッキーやガールフレンドに振り回されることにうんざりし、「男どもよ、女を信じるな」と吠えるハキームの曲ですが、本当は誰よりも愛を求めているハキームの強がりがラップに込められているのが興味深いです。
ゲスト出演したコートニー・ラヴは、かつてクッキーにも大きな影響を与えた偉大なシンガーだったけれど、現在は落ち目の歌手エル・ダラスを演じています。彼女の新作をプロデュースすることになったクッキーは、レコーディングの際、エルが着ている毛皮のコートを脱がせ、アクセサリーやメイクも取るように指示します。素顔をさらけ出させ、エルから真実の歌声を引き出すクッキー。シーズン1のサントラに収録されている「ウォーク・アウト・オン・ミー」は、心の痛みを隠さず歌っているエルの声が胸に響く一曲です。
シーズン2のサントラでは、ゲスト出演したアリシア・キーズ演じる歌手スカイ・サマーズとジャマルの、人種差別について歌ったデュエット曲「パワフル」が素晴らしいです。"ガールポップ"というジャンルでアイドル的に売り出されているため、自分の思いを発表できないことに葛藤しているスカイ。そんな彼女を励まし、スカイが製作中の「パワフル」を一緒に仕上げて歌うジャマル。「どんな肌の色も美しい」という歌詞が印象的です。
そのほか、どの曲もストーリーとリンクしていて、サントラを聴くと『Empire』の名場面がすぐに浮かんできます。珠玉の音楽で彩られた本作は、耳と目で堪能できる傑作ドラマです。
（文／清水久美子）
Photo:『Empire/エンパイア 成功の代償』© 2015 Twentieth Century Fox Film Cprporation. All rights reserved.／© Everett Collection/amanaimages
