衝撃の戦争映画『アイ・イン・ザ・スカイ』プロデューサー直撃インタビュー

ヘレン・ミレン(『クィーン』)、アーロン・ポール(『ブレイキング・バッド』)、アラン・リックマン(『ハリー・ポッター』シリーズ)ら実力派キャストで描く衝撃の軍事サスペンス映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』。映画評価サイトのROTTEN TOMATOで95%と驚異的な評価を得た同作は、ドローンでの攻撃をめぐって現代の戦争の闇を巧みに描き、何が正義なのかを突きつけると同時にモラルも問う話題作だ。

12月23日(金・祝)より公開となる同作で、アカデミー賞俳優のコリン・ファースと一緒にプロデューサーを務めたジェド・ドハティに直撃インタビュー。コリンとともに興した製作会社、レインドッグ・フィルムズの記念すべき1作目となる本作についていろいろと語ってもらった。

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――この『アイ・イン・ザ・スカイ』はあなたとコリン・ファースが興した製作会社にとって1作目となりますが、なぜこの作品を今作ろうと思ったのですか?

僕らが会社を興した時、すでにコリンは映画業界で大きな成功を収めていたし、僕も僕で幸運なことに音楽業界でキャリアを築いていたので、自分たちが望む作品を選ぶ余地があった。そして僕ら二人は、今の世の中に社会的、あるいは政治的な意味を与える作品を作りたいと思っていたんだ。だから、この『アイ・イン・ザ・スカイ』、そして2作目となる『Loving(原題)』という情熱を持てる内容に取り組んだんだよ。コリンの父親はかつて教師で、アメリカの歴史や市民権について教えていたし、コリン自身も英国の社会問題やヨーロッパの難民の問題にいつも高い関心を抱いていたんだ。

――本作ではヘレン・ミレン演じるキャサリン・パウエル大佐をはじめ、重要なキャラクターを女性が務めていることが多いですが、これはどういう意図なのですか?

コリンも僕も、そして監督のギャヴィン・フッドもフェミニストなんだ。女性はもっと重要な役を与えられるべきだと思う。ヘレンの役はもともとは男性だったんだけど、ギャヴィンのアイデアで女性に変更したんだよ。これは素晴らしい思いつきだった。なぜなら、これまでの戦争映画で女性が重要な役を演じることはほとんどなかったからね。だからこそ、この作品は他とは一線を画すもの、違う見方ができるものになったと思う。劇中にはアメリカの政治家として女性も登場するが、実際、女性の政治家は多い。ただ、映画の中で目にしていないだけなんだ。それに、男性でなく女性が世の中を回した方が、もっと安心できる世界になると思っているしね(笑)

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―― 一人の少女を救うか大勢を救うかがテーマですが、母性本能などにより他者への思いやりが深いというイメージのある女性たちが、鍵を握る役を演じているのは印象的でした。先駆けてこの作品を観た女性たちからはどんな反応がありましたか?

話が少し戻るんだが、パウエル役にヘレンを起用した際、彼女が女性だから少女を犠牲にしようとはしないと観客が想像するはずだという狙いもあった。だから、少女が周辺にいてもテロリストを排除するという当初の作戦をパウエルが実行しようとすることでよりドラマチックな効果が望めると思ったんだ。
そして女性からの反響は非常に好意的だったよ。世界中でね。パウエルについて、夫といった家族の描写を一切せず、あくまで彼女は軍人であり指揮官であるということのみを描いたことも評価してもらえた。この作品の上映後には、女性だけでなく男性にも涙を流している人が多いから、性別問わずインパクトを与えられていると思うよ。

――現代の戦争を描く上で、監督にはどんな思いを託したのですか? あなたやコリンが特に重要視したことなどを教えてください。

(日本語で)ハイ。コリンは脚本にかなり深く携わっていた。撮影が始まる前、僕らは監督と一緒に脚本を見直して、可能な限り戦争描写を現代的にアップデートしたりしたよ。例えば、本作に登場するテロリストの一人は、スーザン・ヘレン・ダンフォードという英国出身の女性だが、彼女は「白い未亡人」と呼ばれるサマンサ・ルースウェイトがモデルだ。さっき言った通り、パウエル役にヘレンを起用したのはギャヴィンのアイデアだが、コリンも台本に印象的なセリフを加えてくれた。アラン・リックマン演じるフランク・ベンソン中将のセリフで、「テロリストの確保が先決で、自爆ベストはボーナスだ」というくだりでね。それを加えた理由は、この作戦におけるジレンマをより強調したかったからだよ。そのアランとアーロン・ポールをキャスティングしたのもコリンの提案だ。コリンはこの作品に登場したほぼすべてのキャラクターの配役に関わった。これまでずっとカメラの前に立ってきた彼にとって、その後ろに回るという初めての経験はすごく楽しかったみたいだね。
そして僕らが重視した点は、観客にこちらの考えを押しつけるのではなく、彼らに考えさせることだった。もし自分がそういう立場に置かれたらどう行動しよう?とね。これまでにも人間は弓矢や大砲などを用いて遠距離から他人を傷つけてきたわけだけど、現代では新たな武器としてドローンが存在している。我々はそれを正しく使っているのかを観た人たちに考えてほしかった。
アメリカでは毎週火曜になると、大統領がドローン攻撃によって殺害すべきテロリストのリストを作成する。僕自身はそんな立場はぜひとも避けたいと思うけど、そこでドローンを用いることについても議論が起きているんだ。最新兵器を用いた戦争映画だが、人間の視点を入れることも意識したよ。
ちょっと話が変わるんだが、大学の心理学の授業ではトロッコ問題という思考実験が使われている。これは、猛スピードで進むトロッコが向かう先に5人がいて、もう一方の進路に一人がいるという前提で、もしあなたが線路の分岐器の近くにいた場合、進路を切り替えて5人を助ける代わりに一人を犠牲にするか?というものだ。この場合、多くの人が5人を助ける選択を下すが、ではその一人が幼い子どもだったら? あるいは自分の子どもだったら? それでもその一人を犠牲にするのかといった風に、条件を少しずつ変えていってモラルについて考えさせるテストだ。我々も、モラル的に難しい問題に直面した時にどう行動すべきかを考えてほしくてこの作品を作ったんだ。

――先程、パウエルの私生活の描写がないという話がありましたが、この作品はドキュメンタリータッチの色濃い点が印象的でした。これは監督が意図したものなのでしょうが、あなたやコリンも望んでいたスタイルですか?

そうだよ。そして、なるべくリアルな作品を作りたかったから、現実に忠実に描くようにした。だから英米の軍隊に従事経験のある人たち、ドローンの操縦士にも監修に加わってもらった。劇中にアーロン・ポール演じるドローンの操縦士が上官であるパウエルからの命令を拒否するシーンがあるが、あれは実際に法律で認められている権利なんだ。
議論を呼んだラストについては、その内容を変えないと出資はしないと言われたことも何度かあった。でも僕らは戦争における厳しい現実を描きたいと思っていたからストーリーは変えなかったよ。そしてこの作品ではかなり上層部まで承認を得ようとするわけだけど、それは敵対国でなく友好国におけるドローン攻撃という特殊な例を扱っているからなんだ。

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――コリンがアーロン・ポールを起用したとのことですが、彼演じるスティーヴ・ワッツは大学の学費ローンを返済するために入隊したというキャラクターなので、おそらく設定としては20代半ばから30代前半だと思います。実際のアーロンは現在37歳と少し年齢が高いですが、彼を起用した理由は? ジェドさんは、アーロンの演技を見てどう思われましたか?

コリンは『ブレイキング・バッド』の大ファンなんだ。あの作品でアーロンはいい人を演じていたからこの役にピッタリだと思った。もちろん演技力もあるしね。彼はドローンが映した映像を見ている設定だが、撮影時に彼の目の前にあったのは単なるグリーンスクリーンで、映像は後から合成したんだ。だから、彼は何もない状況で想像力を働かせて、あれだけ感情的な演技をしてみせたんだよ。普通、撮影は5分くらいで区切るものだけど、ギャヴィンは長回しで30分以上切らずに撮っていた。それだけ長い間でも、アーロンは感情の起伏を表現してみせたんだ。それを見て、あらためてすごい俳優だと思ったよ。

――本作には思わず感情移入してしまうキャラクターが多数登場しますが、あなたが特に感情移入したのは誰ですか? そして、この人の立場にだけはなりたくないと思ったのは?

素晴らしい質問だね。特に感情移入したのは、ジェレミー・ノーザム演じる英国官僚のブライアン・ウッデールだよ。彼は正しいことをしたいわけだけど、万人を納得させることはできずに苦悩するんだ。そして、一番遠慮したいのはパウエルの部下であるムシュタク・サディク。パウエルから、任務を遂行できるようにドローン攻撃による付随的な被害のパーセンテージを下げるように命令されるんだ。とはいえ、ウッデールだけじゃなくどのキャラクターにも感情移入できると思う。これはギャヴィンの手腕のおかげだね。ただ、僕自身はできることなら誰の立場にもなりたくないけど。

――日本はあまり戦争が身近ではありませんが、そういう国でこうした作品をヒットさせるためには何が必要だと思われますか? また、音楽業界での経験は今回どのような役に立ちましたか?

いい質問だね。これは単なる戦争映画でなくモラルを扱った作品だから、世界中のどこでも共感してもらったり道徳的な議論を呼ぶだろう。そういう意味で、広く観てもらえる作品だと思う。
それから、音楽業界でも映画業界でもやることは変わらないんだ。音楽の場合、3分ほどの長さでストーリーを伝えるわけだけど、映画も90分くらいかけて同じことをしているわけだからね。僕は物語が持つ力を信じている。音楽と映画には、世の中を変えていく力があるんだ。

『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(配給:ファントム・フィルム)は12月23日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテにて公開。

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Photo:
プロデューサーのジェド・ドハティ
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
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