『ドクター・ストレンジ』三上哲×樋口可南子×松下奈緒ボイスキャスト・インタビュー

『アベンジャーズ』『アイアンマン』シリーズなどの超メガヒット作品を次々に生み出してきたマーベル・スタジオ。その最新作であり、世界的な大ヒットを記録している『ドクター・ストレンジ』。今回はそのボイスキャストに直撃インタビュー! ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)役に大ヒットドラマ『SHERLOCK/シャーロック』からカンバーバッチの声を務める三上哲さん、謎多き至高の魔術師エンシェント・ワン(ティルダ・スゥイントン)役の樋口可南子さん、ストレンジの元恋人クリスティーン・パーマー(レイチェル・マクアダムス)役の松下奈緒さんという、声で魔術と医術を華麗に操る3人に、収録時のエピソードや、本作の魅力などを楽しく語って頂きました!

――三上さんは今まで多くの作品でカンバーバッチの声を担当されていますが、ヒーローという役は珍しいですね。

三上:最終的にヒーローになるという役柄なので、「ヒーローだ!」という感じでは演じませんでした。ヒーローになる過程で、弱かったり、苦労していたり、葛藤したりという人間的なシーンが今回の作品では多かったので、あまりヒーローだからという意識はしなかったですね。

――特に序盤の医者という一般人してのシーンでは、性格的なイメージからシャーロックにも少し似ている印象を受けました。

三上:上から目線ですからね(笑)シャーロックを意識して、しゃべろうという事はしませんでしたけど、同じ役者に対して声をあてているので、結果的に同じように聞こえてしまうのかもしれませんね。ですけど、そんなにシャーロックらしさというのを意識することはしませんでしたよ。カンバーバッチが演じている一つの役として、彼の演技を同じように表現したいなという思いでしたね。

――樋口さんと松下さんは声優初挑戦ということですが、いかがでしたか?

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松下:もう本当に大変でした。難しくて泣きたかったです(笑)本当に大きな挑戦をさせて頂いたなという感じでした。普段の演技では動きがある中で、声も乗せられるんですよね。でも、声優さんのお仕事は声だけで、いかにちゃんと感情の奥深くまで届けられるかというのがあると思うんです。自分が映像の中でお芝居をしていると、また違うのかもしれないんですけど、そうではなくて、レイチェルさんを通してというところが、とても難しかったです。

実際に収録する時は、映像の中の人たちが目の前にいるわけではないので、話し相手との距離感を取るのに苦労しました。大きな声でと指示を受けて大きな声で演じると大きすぎたり、反対に小さくと言われて演じるとちょっと声が届かないんですよね(笑)その加減の具合として、気持ちと声の具合が全て良いタイミングで良い物になった時に初めてオーケーが出るんですよ。そういう感じだったので、すごい新しい経験でした。

樋口:まったく同じです(笑)お互い声優一年生なので、こういう話しを早くしたかったんですけど、収録は別々だったんですよ。だから、同じ事を思っていた人がいて嬉しかったです(笑)お芝居の世界と声優さんの世界は似ているようで、本当に違う世界なんだと感じました。なぞるだけでは通じない、その声優さんの持っていらっしゃるものが出てくるんだと。三上さんの声で、三上さんの持っているカンバーバッチさんが存在していて、他の方が吹き替えたら、また全然違うドクター・ストレンジが生まれるわけなんですよね。それぐらい大きな事なので、吹替の収録をしながら大丈夫かなと心配でした(笑)

エンシェント・ワンは魔術のお師匠様という本当に存在がものすごく大きな役なので、私が演じて小さくしてしまってはダメだなと思っていました。それを収録の初日に感じて、それから8日間ですけど、ストレンジさんと同じく新人が一から覚えるみたいに修行させて頂きました(笑)ありがたいというか、本当に初々しい気持ちになりましたね。エンシェント・ワンという役は、予告を見た時から惚れ込んでいたので、この役を声優初挑戦の私が演じるのは申し訳ないと思いながらも、この役を演じられて本当に良かったと思っています。

――三上さんから見て、お二人の吹替の印象はいかがでしたか?

松下:それを聞くのは怖いです(笑)

一同:(笑)

三上:樋口さんのエンシェント・ワンは、優しさと強さがあり、不思議な存在感があって、「師匠!」という感じがありますね(笑)ミステリアスというだけでなく、奥行きをすごく感じました。普通の声優さんがやったら、あのような感じにはならないんじゃないかなと思いましたね。松下さんはチャーミングというか、困った時とかのリアクションが可愛いかったです。シャーロックの時もそうでしたけど、ちょっと女性に意地悪をして困ったのが好きみたいなシーンがあるんですよ(笑)そこでクリスティーンが困っている時の声がとてもチャーミングで可愛らしいなと思いましたね。

――あるシーンで、ほうきが倒れてクリスティーンが驚く時の松下さんの吹替はチャーミングで印象的でした。

三上:そうそう、あのシーンは私も大好きなんですよ(笑)

松下:あのシーンは何十回と録り直したんですよ。声がちょっと低いと違うし、ちょっと高いと違うし、映像を見ずにやってみたりとか。ふだん何気なくやっていることを、すごく振り返りました。私も印象に残っているシーンです。

三上:あのシーンは本当に良かったですよ。

――樋口さんはエンシェント・ワンのような戦う役柄を演じられること自体、あまり無かったと思いますが、いかがでしたか?

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樋口:気持ち良かったですよ。掛け声とそのリアクションで、カンバーバッチさんが吹き飛ばされたりするわけですから(笑)実写では想像できない魔術を使った相手のリアクションは、すごい快感でした。映像に声をあてるだけでも、気持ち良かったです。

――逆に、松下さんと樋口さんから見て、三上さん演じるドクター・ストレンジの印象はいかがでしたか?

松下:私は『SHERLOCK/シャーロック』も大好きで、吹替版で見ていたんですよ。今回、同じく三上さんが声をあてられるということで、最初は勘違いして一緒に収録ができると思っていたんです(笑)そうしたら、そんなものじゃなくて、一人でこもりきってやるものだって、気づきまして。でも、そうじゃないと、声を録り直す時に周りにご迷惑をかけるんですよね。私が言うのもすごくおこがましいんですけど、カンバーバッチさんの上品さというものを、すごく三上さんが体現されていて、素敵な声だなと思っていました。そう思いながら、収録中に映像と声をちょっとチェックする時も、映像を見てると自分のセリフを忘れてしまうんですよ。そのために、収録は最初に三上さんのきっかけを声で頂いて、その後に英語へ戻して、自分の声をやらせてもらうという形で行わせて頂きました。収録中に演出家の方から「ちょっと聞いてみて、こういう感じだから」と言われる時の、"こういう感じ"という三上さんの収録された声を聞いた時は本当に鳥肌が立ちましたね。声でキャラクターが生きているように感じるという最初のヒントを頂いたように思えました。

樋口:三上さんは素晴らしいお声ですし、本当に聞いていて心地よいお声ですよね。でも、自分が吹替の仕事をしなければ、そういう気持ちを抱くだけだったと思うんです。自分が吹替で苦労してみると、改めて声の豊かさというか、技というんでしょうか、そういう物を感じるようになりました。力まずにベネ様のセリフを、こんなに操れるものなのかと。それでいて、一つ一つのセリフがしっかり聞こえるんですよね。私はすごく息継ぎとか苦労したんですけど、良いお声なのはもちろん、三上さんの息継ぎや間などの技術に対して、プロというのはすごいなと尊敬いたしました。

――本作は世界的に大ヒットしているアメコミ映画ですが、アメコミ作品というジャンルの吹替をされてみて、どのような魅力を感じましたか?

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三上:この作品に関わるまで、アメコミの映画はあまり見てなかったんですよ。今回、何本かアメコミ映画を見させてもらったんですけど、この『ドクター・ストレンジ』に関しては、アメコミというか、そういう感じは演じていて、あまり意識しなかったんですよね。結果的に、これはアメコミのヒーローなんだという感じでした。作品的にもヒーローになっていくという物語でもあったので、ヒーローだから、こうしなければというのは意識しなかったんですよ。普通の人が修行して、苦労して、葛藤して、悩んで、だんだんヒーローになっていくというか、最初からヒーローではない点が魅力でもありますね。

松下:一番の魅力に感じたのは、自分の何か大事な物を失ったときに初めてはっと気づくような、人間らしい点が主人公にあるところですね。一瞬、ヒーローに見えないんですけど、それは徐々にヒーローになっていくからなんですよね。その過程を同じ目線で追えるというのは、新しいタイプの作品だと思いました。それに、魔術の世界に行っても、また現実の世界に戻ってきたりするんですけど、そこがなんかイイなと思いますね。ずっと魔術の世界に行ってしまうんじゃなくて、また現実の世界にも戻ってくるし、そこにはクリスティーンがいて、自分が外科医として存在していた頃の事もあるんですよね。現実と魔術の世界を行ったり来たりするというところに、何か新しい物を感じて、こういう作品もあるんだなと思いました。

樋口:私はマーベル作品をまったく見てこなかった人間なんです。今回のお仕事が無ければ、ずっと見なかったかもしれなかったんですけど、このご縁で、『アベンジャーズ』とか『アイアンマン』などを見たんですよ。そうしたら、すごいアクションで面白くて。日本じゃ考えられないアクションの連続で、「何で、今まで見なかったのかな?」というぐらい、もったいない気になってしまいました(笑)そういう私がこのお仕事を通して、その面白さに気づけたことは嬉しかったですね。そいう方も大勢いらっしゃると思うんですよ。特に今回は人間味があるヒーローですけど、『アベンジャーズ』でも、ヒーローたちは普段はわりと普通な人なんですよね。そういう人たちが突然ヒーローになるところが、何だか面白くて(笑)そういう世界を全然知らなかったので、本当に面白いんだなと思いました。私みたいな人が、たくさんいらっしゃると思うので、『ドクター・ストレンジ』から入って頂いて、マーベル作品をご覧になって頂けると、ますます楽しめると思いますね。私がそうでしたから(笑)

――今回の『ドクター・ストレンジ』のストーリーは、『アベンジャーズ』などの他の作品とストーリーが直接は続いてはいないので、見やすいのかもしれませんね。

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樋口:そうですね。でも、終わりにオマケ映像(ポスト・クレジット・シーン)が付いてるんですよね。今回も最初に見た時は意味が分からなかったんですよ(笑)何なんだろうと思っていたんですけど、色々な作品を見て分かってくると、キャラクターたちの関係が繋がっているんですね。こういう遊びが付いているのは面白いですよね。私みたいな年代の方や、女性の方などは見てない人が多いと思うので、『ドクター・ストレンジ』から、ぜひマーベル作品に入って楽しんで下さいと言いたいですね。

――本作は映像的な視覚効果などでも非常に注目を浴びていますが、何か面白いと思ったポイントはありますか?

三上:街が変化していく様子とか、映像は本当にすごいです。私は2Dで見たんですけど、3Dで見たらどうなるんだろうという興味がありますね。2Dでも十分にすごい映像なんですけど、次は3Dで絶対に見なきゃと思わされました。

樋口:私も2Dで見たんですけど、すごかったですね。松下さんは3Dで見てるんですよね。

松下:1回目は2Dで見て、2回目は3Dで見て頂くのも面白いかもしれませんね。ただ戦うんじゃなくて、映像に迫力があって、見てると自分が本当にそこにいるみたいな感覚にもなるんですよ。客観的に見てるんじゃなくて、同じ場所に立って、近くに感じてもらえるんじゃないかと思いましたね。今の映画ってこんな事になっているんだと驚きました。

樋口:映像はお二人がおっしゃったように、本当に素晴らしいです。お話の中で好きだったのは、エンシェント・ワンのセリフの中で「目覚めなさい」というシーンですね。潜在的に持っている物があるのに、自分が視野を狭くすることで閉ざしている可能性を目覚めさせて、しかも修行をしなさいという教えを行うシーンなんです。人間は、ヒーローとまではいかないですけど、自分の中にも眠っている力がもっとあるのかもと感じさせられる、何でもない言葉ですけど、とても良い言葉だと思いましたね。それで、自分の中にも、もっと何か出来ることがあったり、もっと見られるものがあったりしてるけど、自分でちょっと狭めてないかなと、ふと思った瞬間があったんです。その時に、この作品は映像もアクションも素晴らしいけど、お話も素敵なんだと感じました。

――ドクター・ストレンジは『アベンジャーズ』の続編でキーパーソンと噂されるほど重要なキャラクターですが、続編や別作品への登場に対する期待などはありますか?

三上:今回はヒーローになったところで終わる新米なので、これからどうするんだろうという興味はありますね。それと、あの浮遊マントですね。可愛いくて、良い相棒なので(笑)浮遊マントもまた活躍するのかなという期待しています(笑)

――ドクター・ストレンジが浮遊マントを身にまとって登場するシーンは原作のイメージ通りで、見ていてゾクゾクしました。

三上:あそこのシーンは本当にそうですよね。思わず拍手したくなるシーンでした。監督がカンバーバッチのスケジュールに合わせて、撮影を待っていたという話しがあるぐらいですから、イメージがピッタリだったんでしょうね。

――マーベルの映画シリーズでは、ヒロインも続編などに登場することがあるので、クリスティーンも再登場するかもしれません。

松下:頑張ります(笑)今度はぜひ一緒に三上さんと収録したいですね。ご迷惑をおかけするかもしれませんけど(笑)

三上:その時は、厳しく指導するかもしれません(笑)

松下:それはそれで良い先生になって頂けると思います(笑)ストレンジが違う世界に行ってしまうと、クリスティーンは病院にいるので、次は一緒に魔術の世界に連れて行って欲しいですね。

――エンシェント・ワンも神秘の存在なので、また登場しても不思議ではないキャラクターですね。

樋口:そうですよね。出番があればやりますよ!何だかやる気になってきました(笑)

――それでは最後に、映画を見にきてくださるファンへメッセージをお願いします。

松下:マーベルの作品を今まで見たことないという方にも本当に楽しんでもらえると思います。それに、今までのヒーロー物とは違った部分というのもあって、普通の人がどうヒーローになっていくのか、どう壁にぶち当たって、何をきっかけに真っ直ぐ前を向くようになったのかというメッセージも込められています。それと、最終的には恋人だったクリスティーンとストレンジがどうなるか、ちょっと頭の片隅にも置いて見てもらえればと思います(笑)ぜひ映画館の大画面でご覧になってください。

樋口:私はまだ2Dでしか見てませんけど(笑)2Dでさえ、すごいと思わされるので、3Dだったらさらにすごいと思います。視覚的に異次元という不思議な世界なのに、妙にリアルに感じる素晴らしい映像なので、その映像を体験して頂ければと思います。それと、3Dで楽しんで頂くときは吹替版が見やすいと思いますので、ぜひ吹替版もお忘れなくお願いいたします(笑)

三上:映像も圧倒的ですし、人間ドラマとしても素晴らしいので、迫力のある劇場で見て欲しいですね。ぜひ吹替で(笑)すごく時間をかけて、こだわりを持って吹替版は作られていますので、ぜひ堪能して頂ければと思います。

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『ドクター・ストレンジ』は1月27日(金)より全国ロードショー中。
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

Photo:『ドクター・ストレンジ』吹き替えキャストインタビュー
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