女には秘密がよく似合う。オスカー女優×『デス妻』=『ビッグ・リトル・ライズ』

女性には秘密がよく似合う。それは秘密を持つ側であっても、探る側であっても変わらない。フランスのことわざに、「犯罪の陰に女あり」(Cherchez la femme=直訳すると、「女を捜せ」)というものがある。これはつまり、犯罪の多くは女性が関係しているという意味だが、それを証明するかのように謎をめぐるドラマにも数多くの女性が登場してきた。『ダメージ』のパティとエレン、『リベンジ』のエミリー(アマンダ)とヴィクトリア、『スキャンダル』のオリヴィア、『デスパレートな妻たち』のスーザン、リネット、ブリー、ガブリエル、『プリティ・リトル・ライアーズ』のアリア、スペンサー、ハンナ、エミリーなどなど...。そして今回、女性による女性のための極上ミステリーが誕生した。それが『ビッグ・リトル・ライズ』だ。

同名のベストセラー小説を元にした本作は、子どもを抱える母親たちが主人公。劇中で殺人事件が発生することもあり、アメリカメディアの中には『デスパレートな妻たち』と重ねる声もある。そんな作品における注目点の一つが、リース・ウィザースプーンニコール・キッドマンとアカデミー主演女優賞を受賞した二人が出演していること。しかも彼女たちは、製作総指揮も手掛ける。共演者もこれまた豪華で、『きっと、星のせいじゃない。』のシェイリーン・ウッドリー、『I am Sam アイ・アム・サム』のローラ・ダーン、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のゾーイ・クラヴィッツ、『トゥルーブラッド』のアレキサンダー・スカルスガルド、『ブラック・スキャンダル』のアダム・スコット、『リベンジ』のジェームズ・タッパーら、人気・実力を兼ね備えた面々が見事なアンサンブルを奏でている。

この"メロディ"が紡ぐのは、小学生の子どもを持つ母親たちの複雑な日常。中心となる一人が、家族にすら呆れられるほど、相手構わず喧嘩を売るタイプのマデリン(リース・ウィザースプーン)。元夫ネイサンとの間に生まれた16歳のアビゲイル、現夫エドとの間にもうけた6歳のクロエの母親だ。彼女の親友セレステ(ニコール・キッドマン)は元弁護士。美男美女カップルの夫ペリーとは、6歳になる双子がいても新婚夫婦のようにアツアツと、一見絵に描いたような暮らしを送っている。そして、息子ジギーとともに引っ越してきたばかりのシングルマザーのジェーン(シェイリーン・ウッドリー)。

同じ小学校に子どもを入学させる母親として知り合った3人。その学校初日、ジェーンの息子が、敏腕弁護士レナータの娘に暴力を振るったとされたことから、ジェーンをかばったマデリンとレナータの間に争いが勃発。子どもたちを巻き込んだ母親同士のバトルへと発展していく。そんな学校入学からの日々を、後に起きる殺人事件(被害者&犯人はなかなか明かされない)という未来を時折挟みながら、物語は進行。その過程で、マデリンと元夫&若い後妻ボニーの間に何かと摩擦が生じていること、セレステとペリーの親密ぶりには裏があること、何かから逃げてきたらしいジェーンが枕の下に銃を置いて眠ることなどが明かされていく。こういうと非常に奇抜なストーリーのようだが、主題は、殺人事件の被害者&犯人当てゲームではなく、子どもを持つ女性たちがどう暮らし、何を考えているか。誰かの妻であり母、というだけではない彼女たちの姿を伝えるとともに、子どものいじめ問題、ママ友との付き合い方、夫との関係、子育てなど、母親にとって身近なテーマもしっかりと描かれている

 

舞台となるカリフォルニア州モントレーは港町のため、劇中にはよく海が登場する。あるキャラクターが、海について「偉大で生命の源であり、その水面下で何が起きているのかは分からない」と言うが、これは本作に出てくる女性たちのことも示している。そんな彼女たちの顔は必ずしもちゃんとはカメラに映らない。たき火や仄暗い照明、あるいはアングルによってその表情が視聴者に見えないことが多々あり、一体何を考えているのかが読み取れない演出となっている。

女性の心理や状況をリアルに映し出した脚本を執筆したのは、『アリー・myラブ』『弁護士ビリー・マクブライド』のデイビッド・E・ケリー。そのストーリーを、『ヴィクトリア女王 世紀の愛』『ダラス・バイヤーズクラブ』『わたしに会うまでの1600キロ』のジャン=マルク・ヴァレ監督が見事に映像化している。ケリーとヴァレが7エピソードすべてを担当したため、まるで7時間の映画のように一貫性のある、完成度の高い作品に仕上がった。監督・脚本担当者がシリーズを通して同じというのは、エミー賞やゴールデン・グローブ賞を受賞した傑作ドラマ『トゥルーディテクティブ』『ナイト・マネジャー』と同じパターンだ。

 

豪華キャストの中で特に光っているのが、マデリン役のリース。役柄同様、自らも若くして実生活で結婚・出産を経験した彼女は、一番になるために邪魔者を排除する優等生を演じた『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』と、努力すれば何でも可能と信じるポジティブガールを演じた『キューティ・ブロンド』という二つのハマリ役を足したかのようなマデリンを好演。撮影初日、「役が自分にピッタリとフィットしたことを感じた」という本人の弁も納得の演技を披露している。

ハリウッドで女性を主人公にした作品は多くはないが、大手製作会社のNetflixやShowtimeも競売に参加するほど(競り落としたのはHBO)、本作は早くから注目を集めてきた。作品選びに定評のあるリース、ニコールが惚れ込んだ原作を、珠玉のスタッフ&キャストで映像化した『ビッグ・リトル・ライズ』。女性ドラマが好きな人はもちろん、普段はなじみのない人も、観れば「完璧なコンビネーション」(ニコール)、「これまでに経験した最高のアンサンブル」(リース)だと納得してもらえるはずだ。

 

 

Photo:
『ビッグ・リトル・ライズ』 (C) FAMEFLYNET PICTURES/amanaimages