ごく一部しか使われていないという人間の脳を100%活性化させる薬"NZT-48"(以下、NZT)をめぐる2011年の映画のスピンオフとして2015年から米CBSで放送され、映画版に主演したブラッドリー・クーパーが同役で出演した上、製作総指揮を務めたことでも話題を集めた海外ドラマ『リミットレス』のDVDが5月17日(水)よりリリースされる。それを記念し、吹替収録を終えた浪川大輔さん(主人公ブライアン・フィンチ役)を直撃! 本作ならではの吹替えに関するエピソードや、作品の魅力を語ってもらった。
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※スーパー!ドラマTV時
――前回のインタビューで、これまでの作品の中でセリフ量が一番多いかもと言われていましたが、セリフ量だけでなく、NZTの効果で複数のブライアンが話し合ったりするなどいろいろと難しい吹替えだったのでは?
複数のブライアンが登場する時は、台本には「ブライアン1」「ブライアン2」と分かりやすく書いてあるんです。最初は、視聴者の方が違うブライアンだと思ってもらえるように吹替えた方がいいのかなと思っていたんです。だけど、ディレクターの依田孝利さんから「一緒でいいよ」という演出を受けまして、悪いブライアンとか良いブライアンとか、変な柄のセーターを着たセーター・ブライアンとかいろいろと出てくるんですけど(笑)、悪いブライアンの時は演じているジェイク・マクドーマンさんも、ちょっとコメディチックな演技をしているので、こっちもそれに合わせて味付けみたいなことはしました。でも、基本的には同じ演技で吹替えをしていました。ただ、その中で大変だったのは、自分がしゃべってから、もう一人の自分がしゃべって、さらにモノローグが連続するみたいなシーンがあると、台本をどうチェックしていいか分からないぐらいの複雑さだったことですね。
――複数の自分同士がしゃべるシーンの吹替えはどのように収録されていたのでしょう?
当然、自分で全てのセリフを吹替えているんですけど、本番では複数のブライアン同士の会話シーンやモノローグを一人ずつ別々に収録していたんです。"被る(かぶる)"といって、複数のキャラクターが同時にしゃべっていて、声が重なるような状況があるんですけど、それはさすがに一人で同時に声は出せないですからね。ただ、本番前のテストでは全部のセリフを同時にやっているんです。さすがにセリフが被っている場合は、片方しかしゃべれないですけども。それを一人ずつ別々にテストしていると、時間が2倍、3倍とかかってしまうので、テストの場合はブライアンが何人いても、いっぺんにやっていました。そういうところもあって、声優の職人らしさと言いますか、いわゆる声優の妙、吹替えの妙というものをすごく堪能できた作品でした。自分自身も試されているなという印象がありました。
――NZTによる"脳力"のおかげでブライアンがペルシャ語やロシア語など様々な言語を操るシーンでも、そのままその言語で吹替えをされていましたね。
発音が正しいかどうかで言うと、ロシアの方が聴いたら大変なぐらい適当です(笑)。雰囲気や、それっぽい感じで、格好良く言うと耳コピですね。格好悪く言うとノリです(笑)。
――あるエピソードでは、ブライアンが無線で東南アジアの国々の人と複数言語を次々と切り替えながらしゃべるシーンもありました。
あれは地獄でした(笑)。僕と会話する相手を吹替えていた声優のみなさんは、こだわっていて完コピしていたと思います。僕の場合、たぶん本家の人が聴いたら全く伝わらないんじゃないかと思いますけど、全力で頑張りました(笑)。台本には外国語のセリフがカタカナで書いてあるんですけど、文字では表現しきれない部分があるんです。なので、原音を聴いて、その音に合わせてしゃべるという感じでした。
――本作はコメディとパロディとサスペンスのバランスがうまく取れている作品ですが、吹替えを終えて、本作の魅力をどう感じていますか?
パロディとかは分かる部分はすごく分かるんですけど、難しいところもあるんですよね。スペルマン・ボイル役の上田(燿司)さんが、映画をよく知っている方なので、収録現場で映画のパロディとかを説明してくれるんです。僕が知らない作品とかがある時に、すごく楽しそうに教えてくれるんですけど、分からない部分もあって...(笑)。ただ、そういうものを堂々と出していくというのは挑戦的なドラマだと思いましたし、斬新だなとも感じました。コメディ要素というのは、ブライアンが明るいダメ男というところもありますけど、そういうのがあるからこそ飽きずに見ることができるのかなと思います。エピソードによっては全くテイストが違っていることや、終わり方が意外と斬新な回が多かったです。
――番組のエンドマークが出た後、ブライアンとかが出てくる小ネタも面白いですね。
そういうのもありますね。面白い回とシリアスな回がうまく融合しているドラマという印象です。
――第7話「ブライアンはある朝突然に」では全編に渡って映画『フェリスはある朝突然に』のパロディがあるなど、いろいろな映画のパロディが出てくるので、上田さんも生き生きしてそうですね(笑)。
上田さんがすごく生き生きしているけど、全くこっちが分からないという差ね(笑)。でも、ちゃんと説明してくれますし、この作品がここまでこだわっているということも教えて頂けるので、それを受けて吹替えをする側も頑張ってやろうと思わされます。ですけど、アメリカンジョークとかパロディを吹替えるのは、すごく難しいことなんですよ。元ネタが分からないと一瞬、異質に見えることがあるんです。でも、それがふざけているようだとか、すごく外れているようには見えないのが、『リミットレス』の上手なところだと思います。
――パロディの元ネタについてさりげないセリフで説明するなど、作りの巧さやこだわりを感じます。
キャラクターがパロディの元ネタを説明することもあります。吹替えの制作側でも、いろいろと遊びがあるんですよ。第18話の「ロシアより愛をこめて」で、『ゲーム・オブ・スローンズ』のネタが出てくるんですけど、『リミットレス』のディレクターの依田さんは『ゲーム・オブ・スローンズ』の演出もされているんです。なので、その回に出てくる金持ち役を『ゲーム・オブ・スローンズ』のタイウィン・ラニスターの声を担当された金尾哲夫さんに演じてもらったりしていました。
――ゲスト出演している『アリーmyラブ』でおなじみのグレッグ・ジャーマンの声を同じく小杉十郎太さんが担当されるなど、こだわりがありますよね。
十郎太さんは本当にそのまんま演じていらっしゃいました。本当に生き生きしていました。十郎太さんというと低い声のイメージがあるんですけど、この時はすごく高い声でやっていました(笑)。みんなが楽しんで演じていましたね。
――ブライアンは28歳の売れないミュージシャンという設定ですが、ご自身の28歳の頃と比べて、ブライアンに共感できるようなことは?
僕が28歳の頃は、声優業界だけでまだご飯が食べられない状況だったので、普通に30歳までサラリーマンをしていました。でも、ブライアンの気持ちは分からないでもないですけどね。何かやろうとしても、夢ばっかり追っているという感じは、僕にもありました。僕がブライアンと大きく違うのはサラリーマンでお給料をもらっていたという点ですかね。ただ、ブライアンは「ミュージシャンになる! CDを出す!」と言っておきながら、CDも出さないし、ミュージシャンと言っていますけど、自称ですからね(笑)。そもそも歌も作ってなくて、完全にニートですし(笑)。
――NZTにより脳が活性化するというのが本作の一つのテーマではありますけど、ご自身が追い込まれた時や、ここぞという時に脳が活性化していると思われたことはおありですか?
脳が活性化する感覚は分からないですけど、この瞬間に集中しているなという感覚はありますね。みなさんも感じたことがあるかと思いますけど、そういう時、気持ちイイんですよ。僕は字を書くのが好きなんですけど、集中して字を書いていると、「スゲー! 今ビンビン来てるぜ!」という感じになるんです(笑)。
――ブライアンは頭の中で複数のブライアンと話し合ったりしますが、自分の中に別の自分がいるような感じを覚えたことは?
これが正しいのかどうか自分の中で確認する時には、あるかもしれません。ただ、ドラマ内でブライアンみたいにヒョコッと出てきて、話しかけられるということはないですね。とはいえ、人間の脳は90%以上を使われていないと言われていますから、それがNZTによって100%覚醒したら、本当にもう一人の自分が出てくるのかもしれませんよね。それは、人格ではないですけど、いろいろなことを考えている自分が具現化されているイメージかもしれないし、本当に見えているのかもしれないと。そういう意味ではドラマで表現されているような感覚になるのかもしれないけど、ブライアンみたいには見えないでしょうね。ただ、自分に問いかけることは多いですよ。
――ブライアンは相棒のレベッカと信頼関係を超えた関係になったり、元カノなどいろいろな女性が登場したりしますが、ブライアンの恋愛要素などについての見どころは?
NZTを飲んでいる時と、飲んでいない時の恋愛勝負は面白いですね。ブライアンも男性ですから、いろいろとあります。でも、こういう作品には裏切りであったりとか、そういうものがつきものですけど、どこで誰がどうなるのかというのは、最後の方で大どんでん返しに近いものがありますので、そこは驚きとともに、ぜひ楽しみにしてほしいです。結構、ピンチに陥ります。序盤のエピソードだと、「NZTスゲー! ヤッホーイ!」みたいな感じで事件を解決するんです(笑)。でも、後半はサスペンス色が強くなっていくので、ハラハラ・ドキドキ感も見どころです。
――コメディが苦手な人でも、そのシリアス展開はサスペンス・ミステリーとして楽しめますね。
コメディドラマではないですからね(笑)。ただ、コメディ要素が散りばめられて、うまい具合に入っているので、重い話でも見やすい作品だと思います。
――今後、吹替えで演じてみたいジャンルや作品はおありですか? 吹替版のブライアンを見ていると、浪川さんの声は大人向けのシットコム作品も似合うかと思います。
映画の吹替えでシットコムみたいな作品をやらせてもらったことはあるんですけど、どんな役でも一度演じた役をやり続けたいという思いがあります。しょうがないことなんですけど、番組が終わるとお別れに近いものがあるんです。ブライアンは本当に演じるのがしんどかったですし、本当に大変だったんですけど、終わったら終わったで、こうやって話していると、もう一回ブライアンと一緒に彼の声をしゃべってみたいなという思いに駆られます。ですので、これからどんな役というよりも、今までやった役の方が好きかなという思いもあります。もちろん、新しい役には新しい出会いがあるので、それはそれで楽しいですよ。ブライアンと初めて会った時は「どうしていこうか」と悩みましたし、なかなかブライアンとのフィット感が得られなくて大変でした。そこから徐々にブライアンに合わせていけるようになりましたけど、最初からズバッとハマったわけではなかったので、すごく苦労しました。ですが、もう一度ブライアンを演じてみたいという気持ちは強くあります。
『リミットレス』DVD-BOX Part1は5月17日(水)、Part2は6月7日(水)に、NBCユニバーサル・エンターテイメントよりリリース。Part1¥9,800+税、Part2¥9,300+税。同日レンタルDVDもリリース。
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Photo:
浪川大輔
『リミットレス』
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