実際に起こった、二大ハリウッド女優の常軌を逸する女の戦い。こんなにおいしいネタを、『アメリカン・ホラー・ストーリー』の鬼才ライアン・マーフィーが見逃すはずがありません!
今回の「お先見!」では放送スタートと同時に全米で絶賛され、エミー賞候補との声も高いドラマ『Feud:Bette and Joan(原題)』をご紹介します。
先日、来年に向けての継続が発表されたばかりの『Feud(=不和、確執)』は、シーズン完結型のドラマシリーズ。実際にゴシップ誌を賑わせた有名人同士の"不仲"をテーマに、その主人公たちの確執の裏側を赤裸々に描きます。
シーズン1の舞台となるのは1960年代初期。ハリウッド俳優たちが今のようなフリーエージェントではなく、映画スタジオに所属していた頃のお話しです。主人公は実在した女優のジョーン・クロフォードとベティ・デイヴィス。その昔はハリウッドで栄華を極めた二人ですが、中年となり出演依頼もまばらになって、鬱屈した日々を過ごしていました。特に病的に自惚れの強いジョーンの憂鬱は相当なもので、メイド兼心の拠りどころでもあるママシータにワガママばかり言って毎日を過ごしていました。
ところがある日、人気小説「何がジェーンに起ったか?」の映画化を思い立ち、知り合いの監督に声をかけます。ジョーンは、自分がかわいそうな姉役ジェーンを演じ、憎らしい妹のブランチ役は盛りの過ぎたベティにオファーしようと思い立ちます。ベティなら自分を引き立たせるのに最高だと思ったのです。
しかし、撮影が始まってまもなくジョーンは自分のもくろみが間違っていたことに気がつきます。歯に衣着せぬベティの物言いがいちいちジョーンの癇に障り、さらには引き立て役であったはずの彼女が、大胆なメイクと衣装で注目を集め始めたのです。自分が一番でなければ我慢のならないジョーンと寛容度ゼロのベティの仲はあっという間に崩壊。
監督は頭を抱えますが大金のかかっている映画撮影を中止するわけにもいかず、二人の大女優の確執はエスカレートの一途をたどります。悪口雑言に加え、時には暴力にまで発展した二人の喧嘩はゴシップ誌の恰好のネタとなり、大衆の間では昼メロよりも面白いと興味の的になるのですが...。
これがあらすじ。しかしこのドラマを見ると、女のバトルってマジで怖いとつくづく思います。特にこういう大女優ってプライドが高いのでライバル意識も半端じゃない!
ちなみに人間が持つお互いの印象というのは、心理学でいうところの投影で、事実をゆがめたものでしかないんですよね。だから、ジョーンは会う前からベティに対して「ブスなくせに演技力だけで女優をしている女」と決めつけ、ベティはジョーンを「演技力もないくせに監督と寝まくって、美貌だけで有名になった女」と見下していたのです。
この憎しみの裏には、ベティの演技力に対するジョーンの劣等感、そして正統派の美女ではなかったベティはジョーンの美貌へのコンプレックスがあったに違いありません。
ベティとジョーンのバトルは実話本として数多く出版されているほど悪名高く、その壮絶さは映画も顔負けだったと言います。皮肉にも二人の不仲は、妹の姉に対する虐待をホラータッチで描いた映画『何がジェーンに起ったか?』の宣伝に打ってつけで、製作スタジオはベティとジョーンの不和をわざと煽るようなお膳立てをして映画ファンの好奇心を駆り立てたと言われています。大女優といえども、スタジオにとっては映画を売るための駒でしかなかったという、どこか物悲しい事実が見え隠れしています。
ここが今回、製作総指揮を務めるマーフィーの作品のミソなんですね。彼の作るドラマはあまりに赤裸々過ぎて、時に視聴者をモジモジさせますが、それと同時にググッと胸に来るものがある。これがマーフィー流なのです。
今シーズンのキャストは、主人公のジョーンに『アメリカン・ホラー・ストーリー』でおなじみのジェシカ・ラング、そしてもう一人の主役ベティ・デイヴィスには、ジェシカ同様にアカデミー賞主演女優賞獲得経験のあるスーザン・サランドンと豪華な顔ぶれ。この二人がマーフィーのドラマで角を突き合わせるということで、全米での前評判もかなりのものでした。かくいう筆者も放映前から首を長くして待っていたクチです。
でも番組を見始めて、主人公の二人を食ってしまう勢いで素晴らしかったのが、ジョーンのメイド(兼親友)ママシータを演じたジャッキー・ホフマン! 彼女の、ストイックだけどジョーン想いのドイツ人メイド役は、エミー賞助演女優賞のノミネートに値します。
とにかく、一刻も早く海ドラファンの皆さんに『Feud』を見ていただきたい! 主人公のモデルとなったジョーン・クロフォードとベティ・デイヴィスを知らない世代にも十分堪能していただけること請け合いです。
全米では大人気のうちにフィナーレを迎えた今シーズンですが、なんと次回のシーズン2では、イギリスの故ダイアナ妃とチャールズ皇太子の愛憎確執バトルを描いたドラマになるということで、すでに大変な話題になっています。楽しみだ〜!
『Feud』は、まだ日本での放映の予定は立っていませんが、このコラムを読んで、興味が湧いたら早速SNSなどで呟きまくって日本上陸を促してくださいね!