歴代の海外ドラマの中でも格別の人気を誇り、日本でも社会現象を巻き起こした『24 -TWENTY FOUR-』(以下『24』)。待望の新シーズン『24 -TWENTY FOUR- レガシー』では、これまで主人公ジャック・バウアーを演じてきたキーファー・サザーランドが製作総指揮に回り、ジャックに代わる新たな主人公である米軍エリート部隊出身のエリック・カーターがCTUと協力し、かつてない最凶テロリストと対決する。エリックを演じるのは、『ウォーキング・デッド』のヒース役でも知られる、ハリウッド注目の若手コーリー・ホーキンズ。
今回は、その主人公エリックの声を担当する人気声優の鈴木達央さんを直撃! ジャックの声を担当していた小山力也さんからのバトンタッチに対する意気込みや役作り、本作の魅力などを語ってもらった。
――人気シリーズの最新作で主役の声を担当されることのご感想は?
歴史のある作品であるとともに、今までのシリーズをほぼ全て拝見させて頂いていたので、すごく嬉しかったですね。最初にボイステストというオーディションがありまして、その時にエリックの声を初めて当てさせて頂いたんですけど、オーディションとしてボイステストをするということ自体が衝撃的な体験だったんです。
――ボイステストにはどのような気持ちで臨まれましたか?
まさか自分が決まると思っていなかったから、言い方は悪いかもしれませんが、最初は記念受験ぐらいの気分だったんです。できる限り、やりたい放題やって帰ろうと思っていたんですよね(笑) 本当に好きにやらせてもらいました。ボイステストの時も、演出の神尾さん(※神尾千春:『24』全シリーズの吹替版を担当する演出家)から、いろいろと提案がありまして、細かくテストをしてもらったのが本当に嬉しかったですね。神尾さんとお仕事させて頂くのも今回が初めてなんですよ。これまで演出されている作品を何作も見させて頂いていましたし、その中にも好きな作品が多かったので、ぜひ一緒にお仕事をしてみたい思いはあったんですけど、機会に恵まれなかったんですよね。だから、声を聞いてもらえるだけでもラッキーというのがありましたし、それが『24』の最新シーズンであることも嬉しかったです。
――ボイステストでの主人公エリックの印象は?
もちろん、ジャックから少し違う人になるのかなという予感はありました。でも、ジャックから新たに引き継ぐというものがありますし、だからといって吹替版として力也さんみたいな芝居をやってもいいわけでもないですし、やりたいわけでもなかったんです。だから、自分が思うエリックの像というものを出すだけ出そうという気持ちがすごくありました。ボイステストでは、第1話の序盤と、後半の銃撃戦のあたりの2箇所をやらせていただいたんですけど、それだけでもすごく楽しかったんですよ。元の役者の動きを見たり、呼吸を聞きながらやっていて、考え過ぎかもしれないんですけど、どこかキーファー・サザーランドのような雰囲気もあるのかなと感じました。
――オーディションが終わった時の手ごたえはいかがでしたか?
ボイステストでは、この作品を力也さんとはまた違ったアプローチでできるし、いろいろなことを考えながら芝居を構築することができるんだと思った時に、途中からオーディションという感覚を忘れてしまって、スゲー楽しいなと思いながら、いろいろなことをやりました。合格するとは思っていなかったので、オーディションの結果を聞いた時には、自分が役を頂くことで久しぶりに絶句しましたね。すごく楽しい時間が流れていましたし、神尾さんに芝居も声も披露できたから、それだけで十分だと思っていて欲がなかったんです。帰り道でマネージャーと、「聞いてもらえただけラッキーだったね」と話していたぐらいですから(笑) 自分の中で想定していなかったので、主役に決まったと知った時の衝撃はデカかったですね。
――出演が決まった後の本作やエリックの印象は?
あらためて台本を頂いて、本国の映像も見させて頂いた時、本作は『24』のシーズン1に近いなという感覚を受けました。もちろん、始まりというのがあるので、導入の仕方とか、どこか近くなっているものは規模感も含めてあるかもしれないですけど。ジャックはシーズンが進むにつれて超人的なキャラクターになっていきましたが、僕が演じるエリックは初期のジャックのように家族のことや仲間のことで判断ができずに悩んだり、どこか間違った判断をしそうになるんです。芯はぶれていないんですけど、ぶれないがゆえに揺れ動く心の様みたいなものが随所に見られるんですよ。エリックはレンジャー部隊の元隊長をやっていたけれど、年齢も30未満という設定なので、経験として深い人間なのかといったら、兵士としての経験値しか高くない人間なんですよね。そういう点も踏まえた仲間や隊員思いのところは、ジャックのCTU職員や自分の家族に対する思いとはまた違ったものがありますね。そこが、エリックの個性でもあると思います。
――ジャックは当初CTU職員でしたが、エリックは米軍の兵士という点が、今までとは大きな違いですね。
エリックはCTU職員ではなくレンジャー部隊の隊長として生活してきた人間なので、兵士としての大事なものは何だろうというところは、見ていながら随所で考えるきっかけにもなりました。CTUはテロ対策の本部というところもありつつ、テロに対しての行動を起こしていく組織なんですけど、兵士は実際に人を殺すという行為に対して、CTUの職員よりもいろいろな意味で近いところにいるんですよね。彼の変わっていく姿や、悩みというのが、そこに起因しているように感じるんです。特にアメリカでは現在、戦争に参加することで受けるPTSDや兵士としての生き様によって、平和な日常に戻ってきた時のズレを作品の題材として取り扱うことが多いですよね。日本はとても安全な国で銃社会でもないですから、そういったところも考えていかないといけないなと思いました。
【次ページ】『24』ファンも思わずニヤリ?本作から香る『24』の匂いとは
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――どのような役作りをされていますか?
文献とか資料には目を通しています。例えば、自分たちが生きている場所が日常だとして、戦場というところが非日常だとすれば、非日常を知っている人たちが日常に帰ってきても、何かそういう話になると「これは触れちゃいけないところなのかな?」みたいなスイッチが入ったりするんですよね。だから、そういう人たちが何でそうなってしまうのかなということを逆算式に考えたりもします。それに、人を殺めることによって自問自答みたいなものが生まれると思うので、生命とは何かという答えを自分の中で出さなければとは思います。我々の場合、エリックの一挙手一投足を参考にするものが完成された映像でしかないんですよ。だから、映像と台本を確認しながら、自分の大きな課題として、そこをどう深めていこうかと思っていました。だから、面食らったり、絶句していたのは最初だけで、自分が演者ということもあって、台本を一ページめくってしまうとそっちの方に自分の気持ちがシフトするというか、すぐ変わっちゃいました(笑) もうちょっと驚いてもいいのにと思うんですけどね(笑)
それに、アフレコスタジオは濃密な空間で、神聖な場所と叩き込まれてきましたし、台本に対してもそうですけど、いつも敬意を払っています。もちろん、吹替は本国の映像があってこそですし、それが制作されてからこちらも動けるので、そこにも敬意を表しています。その上で自分ができることは何だろうというのを日頃から考えていかなければと思っていますね。でも、本作を見れば見るほど、知っている『24』の匂いがするけど、また違った匂いがそこかしこに香っていたりして、面白いです。
――エリックのカバンの背負い方がジャックの背負い方と同じだったり、『24』シリーズのファンがニヤリとする点が多いですね。
そうですね。考えすぎかもしれないですけど、ファンがニヤリとできる小ネタをちょいちょい挟んできますよね(笑) 実はセリフ回しとかでも、そういうのがたまに入っていたりするんです。ファンの皆さんは主人公が代わってしまうことに不安もあるでしょうけど、それを経た上で、新しいものを見てみようと思ってくださる方々も多いと思うんです。そういう意味で、小さなフックとしてそういう小ネタがあったりすると嬉しいですよね。でも、『24』を見てきた身としては、力也さんの芝居が思い浮かんじゃって、それをやりたくなっちゃう自分がいるんです。これはエリックだから違うんだよなと思いとどまりますけどね(笑)
――ジャックを意識しないようにされていたんですね。
序盤ではすごく悩みました。力也さんのお芝居が『24』の枠組みに存在していて、そこにキーファーではなく、今回コーリーが演じているエリックというキャラクターがいるんですよ。エリックはジャックとは全然違うタイプなんですけど、セリフとかで自分だったらどうしようかなかとか、こういう風にやってみたいなと思った時、力也さんの芝居がいかに真っ直ぐだったかを痛感しました。何も考えずに、これをやってみたいなと家で思いついて少し練習してみると、「あれ? これ、どこかで聞いたことあるな」という雰囲気になるんですよ。それはつまり、力也さんの芝居に似ちゃっているんですよね。似ているのが悪いわけではないんです。だけど、キーファー・サザーランドが演じたジャック・バウアーというものに対する力也さんの芝居が、いかにストレートな芝居だったのかとあらためて感じさせられるんです。
――小山さんと、新シリーズで主人公の声を担当することで話をされましたか?
「主人公がキーファーから新しい人に代わるんですけど、その声を俺が『24』の名前を引き継ぐと同時にやらせて頂くことになりました」とご挨拶はさせて頂きました。ただ、別の現場だったので、あまり突っ込んだ話はお互いにできませんでした。挨拶程度ですね。筋を通すわけじゃないですけど(笑)
――エリック役のコーリーも、キーファーから「ストーリーの展開に素直に驚き、楽しめばいい」とアドバイスをもらったそうです。
力也さんからも「ぜひ、楽しんで。大変だろうけど頑張ってね」とお言葉を頂きました。『24』という作品はやっぱり重みが違うので、力也さんのお言葉の意味は、のちのち分かるようになりました。もちろん、それが意図しているものかは計り知れないでしょうけど、ジャックを演じていた力也さんのストレートで入り込んだ芝居のすごさというのは、形は違えどもやってみて感じました。ただ、あまりにストレートすぎて、やろうとするとそっちに行きそうになるので、少し悩みましたね。あえて行った方が良いなという時は、そのままやっていますけど、そうじゃない方が良いなとか、もっと別な何かを肉付けできないだろうかとかね。エリックだからこそできるものに俺は向き合わなければいけないなと思いました。何が違うんだろうと考えると、今回の肝は、主人公がCTU職員でなくレンジャー部隊だというところに行き着くんですよ。そこに着眼点を置いて、じゃあ兵士だとしたらどういう感覚になるのかとか、彼の中での優先順位を変えてみたらどうなのかということを考えながら、ひと言ひと言セリフと向き合っています。
――現在、アニメを中心に活動されていますが、声優を目指したきっかけは1980年代の海外ドラマ『特攻野郎Aチーム』だそうですね。
そうなんですよ。『特攻野郎Aチーム』がめちゃ好きなんです。そういう意味では、今回のように海外ドラマの吹替ができることは、本当に嬉しいですね。自分の中で迷った時は『特攻野郎Aチーム』を見るぐらい、バイブルみたいなものなんです。『特攻野郎Aチーム』の吹替をされていた羽佐間道夫さんや、安原義人さん、飯塚昭三さん、富山敬さんをはじめとする様々な方の芝居を見て育ってきましたし、「どうやったら、あんな風になれるんだろう」とずっと思っていました。もちろん、そういうものはアニメの仕事でも大きく関わることですし、自分の中で差を付けているつもりはないんですけどね。自分にとってその流れの本流みたいなものが海外ドラマだったので、そこに一つ携わることができる、また一つそうやって自分の足で踏み込めるというのは、すごく光栄でした。それだけ吹替版が好きということもありますし、海外ドラマが好きで、海外ドラマNAVIさんのホームページも読んでいますよ。
――ありがとうございます(笑)
今も『ブラックリスト』『スリーピー・ホロウ』とか、『NCIS』シリーズ、『CSI』シリーズとか、「いつ見てるの?」と言われるぐらい見ていますね(笑) 最近の作品だと『ストレイン』や『Empire 成功の代償』もすごく好きです。やっぱり楽しいんですよね。新しい刺激になりますし、そういうところに自分が一歩踏み出せているというのを、すごく喜びを噛み締めつつ、ちゃんと自分の爪痕も残していきたいんです。それだけ好きということもあるので、おこがましいことを言わせてもらえれば、吹替の方が楽しいと言われるぐらいのものを作りたいと思っています。実際にお会いしているわけではないですけど、『24』の本国の方々と見えないタッグを組んで吹替版を作っていると個人的には考えているんです。その中で伝える言葉として日本語でやっているからこその新しい表現であったりや、新しい刺激が見ている人に与えられるように、なおかつワクワク楽しんでもらえるようにと思っていますね。自分がテレビでいつもワクワクしながら見ていたのと同じように楽しんで頂けたら嬉しいです。
――エリック役があなたの代表作と言えるようになるでしょうか?
一つひとつ携わる作品を代表作としていきたいです。その中で、その作品を知っているとか、見たことがあるとか、好きだったとかと言ってもらえるような作品にしたいと思います。きっとそれが積み重なることで初めて、自分のプロフィールに書いてある『24 -TWENTY FOUR- レガシー』のエリック・カーターに対して、重みが増していくんでしょうね。自分でそれを作るのではなく、皆さんにそう思って頂けるような作品作りを常にしていけたらなと思います。
■『24 -TWENTY FOUR- レガシー』作品情報
7月21日(金)リリース
ブルーレイBOX(3枚組)...12,000円+税/DVDコレクターズBOX(6枚組)...9,600円+税
レンタルDVD Vol.1~6
発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテインメント ジャパン
Photo:鈴木達央『24 -TWENTY FOUR- レガシー』 (C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.