【ネタバレ】『スター・トレック:ディスカバリー』を現地アメリカはどう評価したか?(前編)

先月半ば、シーズン1の幕が閉じた『スター・トレック:ディスカバリー』(以下『DSC』)。スター・トレックのドラマシリーズとしては2005年以来、実に12年ぶりとなる本作について、あなたはどのような感想をお持ちになっただろうか。

筆者は大いに楽しんだのだが、世間の評価は真っ二つに分かれているようだ。本コラムでは、アメリカのエンタメ業界ニュースやファンの批評・感想に共通して見られる声を取り上げて、何が評価され、何が批判されているのかを総括してみたい。

ただし、シーズン1のネタばれはどうしても避けられないので、まだ見ていない人は、ここで読むのを止めていただいた方がいいだろう。

 

●アメリカ本国で『DSC』を見る視聴者とは

まず頭に入れておきたいのは、本作は日本を含む多くの国ではNetflixで配信されているが、アメリカ本国では、米CBSが独自に起ち上げた動画配信サービス「CBS All Access」に加入しないと見られないことだ。

筆者の周囲を見ても、すでにNetflixやHulu、Amazonなどに加入しているのに、わざわざ『DSC』を見るためだけに、新たに月10ドル(CM入りなら月6ドル)を支払う気にはなれないという人がまだ多い。そんなわけで、アメリカ本国で『DSC』を見ているのは、今のところ、CBS All Accessに『DSC』目当てで加入した熱心なファンにほぼ限定されており、広い視聴者層への波及はこれからのことと考えた方がいいだろう。

米CBSコーポレーションのレスリー・ムーンベスCEOが先月述べたところによれば、CBS All Accessの加入者数は昨年急速な伸びを見せ、同じくCBSの傘下にある米Showtimeの動画配信サービスと合わせると500万人近くに及ぶという。その中でCBS All Accessが占める割合は明かされていないが、規模のだいたいのイメージはつかめそうだ。

 

●登場人物/俳優への評価は高い

ファンや批評家の声の多くに共通して見られるのは、主人公のマイケル・バーナム(ソネクア・マーティン=グリーン)をはじめ、サルー(ダグ・ジョーンズ)、スタメッツ(アンソニー・ラップ)、ティリー(メアリー・ワイズマン)、そしてロルカ船長(ジェイソン・アイザックス)やジョージャウ船長(ミシェル・ヨー)といった登場人物、ひいては、それらを演じる俳優たちに対する評価の高さだ。

米Vultureは「『DSC』は過去の名キャラに引けを取らない、強い存在感を放つ独自の登場人物を大勢生み出した」と評し、また、2017年のドラマ番組ベスト20の中に『DSC』を取り上げた米Varietyは、「多彩な顔ぶれの登場人物たちを率いるソネクアは、その余裕たるや、ほとんど超自然的と言っていい」と褒め称えている。

アフリカ系、アジア系など、マイノリティの女性が上級士官として登場し、クルーの中にはゲイのカップルも含まれる設定は、ハリウッドで最近重視されるダイバーシティ(多様性)を強く打ち出したものであり、このところ、ダイバーシティを軽視していると言われていたCBSの汚名返上にもなっただろう。

また、J・J・エイブラムスによるリブート映画を継承したビジュアル・スタイルや、細部まで緻密なデザインのセット・衣装・小道具、そして、過去シリーズを凌駕するアクションシーンに対する評価も非常に高い(ただし、宇宙艦隊の制服に関しては、過去シリーズの大半で馴染みとなっていたカラフルなデザインを懐かしむ声も、少なからず上がっている)。

中には、1960年代当時に放送されたTVシリーズと比べて、USSディスカバリーのブリッジのセットや、コンソール、小道具のデザインがあまりにも洗練されすぎているという声もある。たしかに、オリジナルシリーズの"10年前"という設定にはまったくそぐわないイメージなのだが、共同製作総指揮・脚本を担当するテッド・サリヴァンは、限られた予算の中で作られていた50年前の番組に合わせるよりも、世界中に向けて配信される現代のドラマ番組に求められる水準をクリアする方が大事だと答えている。

 

●脚本は"不揃いな"仕上がり

登場人物や俳優、視覚効果やデザインなどの評価は総じて高くても、物語設定や脚本は手放しの賞賛というわけにはいかないようだ。

『DSC』は、スタトレには珍しく、企画時から連続ものとして練られたストーリーに予想外の展開を数段仕掛け、現代の世相をも反映させる野心的な内容になっている。しかし、シーズン1に関する批評を見渡すと、「uneven(不揃いな/むらのある)」といった形容詞をよく目にする。

具体的には、「物語が実際に始まるのは第3話なのだから、第1話と第2話の内容はあとで回想場面として入れた方が効果的だった」「マイケルが第1話で犯した過ちや、その贖いの意味が不明瞭だ」「サプライズを重視するあまり、人物関係の描写がおろそかになっている」「クリンゴンの内政の描写が少なすぎる」「クリンゴン戦争の終結があまりにもあっけなさすぎる」「サレクやハリー・マッドといった、オリジナルシリーズでお馴染みの人物の描写に違和感がある」などの意見が目立っている。

 

●好みが分かれた新解釈のクリンゴン

本作の特徴の一つは、惑星連邦の強敵クリンゴンが、人類とは根本的に相容れない精神性を帯びた異星人として再定義されていることだ。新たなコンセプトに沿って、クリンゴンの外見や衣装は過去シリーズとは大きく変わった。クリンゴン人同士の会話も、英語まじりではなくクリンゴン語が本格的に投入され、俳優たちへの発音指導が徹底していることが伺えた。

しかし、映画『スター・トレック』(1979年)以来のクリンゴンに馴染んでいるファンの中には、あまりの変貌ぶりに強い違和感を覚えた人もいたようだ。英語字幕付きでクリンゴン人が延々と話し続ける会話シーンを「かったるい」と評する声も多かった。会話シーンに対する批判は製作陣も認識していたようで、シーズン1の前半が終わった昨年11月、ショーランナーの一人であるアーロン・ハーバーツは、同シーズンの後半では字幕シーンは少なくなるとコメントしている。

 

●過去シリーズとの不整合

"オリジナルシリーズの10年前"として設定された『DSC』には、過去シリーズと辻褄が合わない点が多いことを指摘する声も目立つ。筆頭に挙げられるのは「胞子ドライブ」だ。

宇宙のどこにでも瞬間移動できる超テクノロジーが、以後の時代では使用されず言及もされない理由は、いまだに作中できちんと説明されていない。『スター・トレック:ヴォイジャー』で銀河系の彼方に放り出されたUSSヴォイジャーは、胞子ドライブを使えば一発で故郷に帰還でき、7年に及ぶ長旅をする必要はなかっただろう。

そのほかにも、「一緒に育った人間の姉マイケルのことを、スポックが過去シリーズで一度も話さなかった理由が説明されていない」「オリジナルシリーズでリスクが高いとされていたサイト・トゥ・サイト転送(転送装置を介する2地点間の転送)が、『DSC』では気軽に用いられている」「ロミュランと同盟を結ぶ前にクリンゴンが遮蔽技術を所有している」「この時点では連邦とは未接触のゴーンの骨格標本が、ロルカ船長のラボに飾られている」などなど、"過去シリーズとの不整合"を挙げるときりがない。些末なことに思われるかもしれないが、一部のファンにとっては"固定電話しかなかった時代を描くドラマに、いきなりスマホが出てきた"ような事態なのだと思う。

もちろん、製作陣は「スタトレの正史に忠実に作っている」と企画当初からアピールしており、上に挙げた不整合にも説明がつくものがあるのかもしれない(例えば、USSディスカバリーは、宇宙艦隊の中でも進んだ技術を備えている設定になっている)。それでもファンが混乱しているのは確かなので、今後はもう少しスッキリさせる配慮が欲しいものだ。

批判的な意見の中には、そもそも、本作の舞台をオリジナルシリーズの10年前に設定する必要があったのか、と疑問を投げかけるものもある。上に挙げた不整合は、『新スター・トレック』『スター・トレック/ディープ・スペース・ナイン』『スター・トレック/ヴォイジャー』の舞台である24世紀より後に設定すれば、一気に解決するからだ。"オリジナルシリーズの前章ドラマ"にしなければならない理由が、本当にあったのだろうか。

コラム後編では、早々と予想されたサプライズ、あのキャラクターの死をめぐる反響などを取り上げる。お楽しみに!

Photo:『スター・トレック:ディスカバリー』(C) Netflix. All Rights Reserved.