近年、映画界だけでなくドラマ界でも猛威を振るっている、アメコミ作品。MARVELもDCも含め、全ての作品に共通して言えることは、やはり悪役たち(ヴィラン)が魅力的であるということだろう。
作品の良し悪しは悪役で決まるとも言われる通り、アメコミ作品も良きヴィランがいるからこそヒーローが引き立って見えるものだ。
Netflixで配信中のMARVEL作品には、特にその傾向が顕著に表れており、コミックの世界からそのまま飛び出してきたかのようなヴィランたちがわんさか登場する。そんな魅力的なヴィランたちを、コミック版とドラマ版との相違点にも注目しながら紹介していこう。
(本記事は、『デアデビル』『ジェシカ・ジョーンズ』『ルーク・ケイジ』『アイアン・フィスト』のネタばれを含みますのでご注意ください)
目次
■ヘルズ・キッチンの犯罪王 ウィルソン・フィスク
ウィルソン・フィスク(別名 キングピン)は、2015年配信開始のMARVELドラマ第1作『Marvel デアデビル』に登場する。コミックでの初登場は1967年の「アメイジング・スパイダーマン #50」。ニューヨークの裏社会を牛耳る暗黒街の帝王として、スパイダーマンを翻弄する存在だった。
クモの能力を備えるスパイダーマンに対して、特殊能力を何も持たないフィスクだが、その強靭な肉体と達人レベルの格闘技を駆使して素手で圧倒。さらには腕力だけでなく、天才的な策略家として、数々の計画でニューヨークを裏から腐食させようと暗躍した。
1994年から1998年まで放送されたTVアニメ『スパイダーマン』でも、メインのヴィランとして扱われた。スパイダーマンとの死闘を終えた後に"ヘルズ・キッチンの悪魔"ことデアデビルと対峙するようになり、宿敵として存在感を発揮。
2003年の映画『デアデビル』ではマイケル・クラーク・ダンカン(『グリーンマイル』)が、原作通りの肉体派キングピンとして登場。映画の評価はさておき、彼に対しては好評が寄せられていたのも印象深い。
その12年後となる2015年配信スタートの『Marvel デアデビル』では、『メン・イン・ブラック』のバグことゴキブリ宇宙人が強烈だったヴィンセント・ドノフリオをフィスク役に抜擢し、やや身体は小さめになったものの、その威圧的な演技で抜群の存在感を放つ、新たなウィルソン・フィスクが誕生。
コミックでは、いじめられっ子だったフィスクは、ある時、いじめっ子に対抗することで自らの強さを知り、成り上がっていくという背景だった。ドラマ版では、貧しい家庭に育ったフィスク少年は、父親から暴力を受け続ける毎日を送っており、母をベルトで殴る父への怒りを抑えられなくなった彼はハンマーで父親を殺害。その後、ビジネスマンとして財を成し、ヘルズ・キッチンの街を再建しようと、犯罪組織を率いるようになっていく。その最中にデアデビル=マット・マードック(チャーリー・コックス)と敵対するのだ。
コミック版にもドラマ版にも共通して言えるキングピンの魅力は、社会的に虐げられた過去を持つことから、力を誇示するような存在になってしまった、いわば悲劇のヴィランであるというところ。非常に家族思いの性格で、妻ヴァネッサを大切に思う、人間臭いキャラクターなのだ。
■洗脳能力を持ったサイコパス キルグレイブ
『Marvel ジェシカ・ジョーンズ』にて強烈な印象を残したキルグレイブは、別名パープルマンとしても知られるキャラクター。コミック版での初登場は1964年の「デアデビル vol.1 #4」。
元々は、とある国のスパイとしてデアデビルの前に立ちはだかった。敵の兵器庫に潜入している最中、全身に神経ガスを浴びて紫色の皮膚となり、パープルマン(=コードネーム)が誕生。洗脳能力を駆使してデアデビルやジェシカ・ジョーンズ(クリステン・リッター)を翻弄し、MARVELコミック屈指の強敵として知られている。
コミック版では全身紫のパープルマンと呼称されるキャラクターだが、リアリティを追求したドラマ版では、パープルのスーツに身を包んだキルグレイブ(墓への先導者)として登場。両親の実験台にされたことで洗脳能力が覚醒し、その後、両親を殺害。かつてヒーローとして活動していたジェシカを洗脳し、大きなトラウマを与えたサイコパスなヴィランで、ジェシカに固執する。
彼女の気を引くためならどんな冷徹な殺人も厭わない、とんでもない奴だ。『ドクター・フー』の10代目ドクターことデヴィッド・テナントがエキセントリックに同役を好演し、強烈な印象を与える。
■ダウンタウンのギャング王 コットンマウス
2016年から配信されている『Marvel ルーク・ケイジ』に出てくるコットンマウスのコミック版初登場は1974年の「パワーマン #18」。麻薬組織のボスとして知られ、ルーク・ケイジ(マイク・コルター)に匹敵する怪力と鋭い金歯が特徴のヴィランだ。
ドラマ版ではシーズン1前半部の悪役として登場。本名コーネル・ストークスは、ギャングの顔役として名を馳せていたママ・メイベルに拾われ、育てられる。ある日、メイベルを裏切った彼女の部下を殺すよう命じられたことで、ギャングの道へと進む。コミック版では鋭い金歯が特徴的なことから"マムシ"の意味でコットンマウスと呼ばれていたが、ドラマ版では歯が3本欠如していることから、このあだ名が付いたという設定。また、ルーク・ケイジと同等の怪力を持つ明確な描写はなく、部下を非情に殴りつけるようなリアリティを持たせた描かれ方をしている。
ピアノが得意で音楽家になれる才能を秘めていたが、育った環境からギャングへの道を選ばなければならなかった悲劇のヴィランを、オスカー俳優のマハーシャラ・アリ(『ムーンライト』)が人間味あふれる情緒的な表情で魅せる。
■『ルーク・ケイジ』真の悪役 ダイアモンドバック
コットンマウスの跡を継ぐような形で姿を現すダイアモンドバック=ウィリス・ストライカーのコミック版初登場は1972年の「Luke Cage Here for Hire #1」。
ルーク・ケイジの出自に大きく関わるキャラクターで、親友同士だった二人はある出来事をきっかけに仲違いしてしまう。ルークは彼にハメられる形で刑務所送りにされ、無敵の肌を手に入れることとなった。のちにパワーマンとして活躍するルークに対し、ウィリスはダイアモンドバックを名乗るようになる。
ドラマ版では序盤は名前のみが語られ、中盤から姿を現し、メインの悪役となる。ルークとは、幼馴染で異母兄弟であることがのちに明らかになり、彼に対して積年の恨みを抱いている。無敵の肌をも貫通する銃弾を装填したショットガンでルークを追い詰め、瀕死の重傷を与えた。なんとか一命をとりとめたルークに匹敵する怪力を手にできるアーマーも得ることで、ルークとの決闘に挑む。
『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』のエリック・ラレイ・ハーヴェイの悪役らしい存在感が最高にクールで、今後の活躍も楽しみだ!
■世界で暗躍する謎の組織 ヤミノテ
ドラマ版では"ヤミノテ"として暗躍している集団だが、コミック版での正式名称は"ザ・ハンド"。実は16世紀に日本で誕生した組織であり、暗殺を生業とする忍者集団だ。日本の5つの島を守る5人で構成されていたことから5本指、つまりザ・ハンドと呼ばれるようになった。過去にはキングピンやあのデアデビルが首領を務めたこともある。
コミック版に初登場したのは1981年の「デアデビルVol.1 #174」。Netflixで配信中のドラマには『Marvel デアデビル』から参加している。2017年の『Marvel ザ・ディフェンダーズ』までの全5作で直接的にも間接的にも絡みの多い、謎の組織である。
リーダー格のアレクサンドラ・リード(シガーニー・ウィーヴァー)、コリーン・ウィングの師匠バクト(ラモン・ロドリゲス)、フィスクと手を組みヘルズ・キッチンを腐敗させ、フィン・ジョーンズ演じるアイアン・フィストの前にも立ちはだかったマダム・ガオ(ワイ・チン・ホー)、日本語しか話さない不気味な男ムラカミ(ユタカ・タケウチ)、アフリカの武器商人ソワンデ(バブス・オルサンモクン)の5人で創設され、デアデビルやアイアン・フィストらと対立。『ザ・ディフェンダーズ』でも、メインの悪役として登場している。
永遠の命を手に入れるためのパワーが秘められた、ニューヨークの地下深くに眠るドラゴンの骨を狙って、鍵となるアイアン・フィスト奪取を目論み、死亡したはずのマット・マードックの恋人エレクトラ・ナチオス(エロディ・ユン)を蘇生術で復活させ、デアデビルを翻弄するなど、目的のためなら手段を選ばない。創設メンバーなどの相違は多少あるものの、アメコミらしい外連味のある忍者の動きなど、コミック版を忠実に再現したアクションは見応え充分。
ヴィンセントやシガーニーなど、映画界で長らく活躍している実力派俳優陣を起用することで、奥深い悪役を築き上げることに成功している、NetflixのMARVELドラマ。
同じ世界観を共有するマーベル・シネマティック・ユニバースの悪役たち同様に、キャスティングの妙が際立つ、魅力的なドラマシリーズである。ぜひとも、悪役(ヴィラン)にも注目して、ドラマを鑑賞していただきたい。
(文・zash)
Photo:『Marvel デアデビル』 ©Barry Wetcher/Netflix 『Marvel ジェシカ・ジョーンズ』 ©Myles Aronowitz/Netflix 『Marvel ルーク・ケイジ』 ©Myles Aronowitz/Netflix 『Marvel ザ・ディフェンダーズ』 ©Jessica Miglio/Netflix