『ハリー・ポッター』シリーズの原作者として知られるJ・K・ローリングがロバート・ガルブレイス名義で発表しているミステリー小説「私立探偵コーモラン・ストライク」を映像化した犯罪ドラマ『Strike』。イギリスのBBC Oneで放送されているこのドラマシリーズをご紹介しよう。
Thank you so much for your wonderful messages about the TV adaption of #cuckooscalling! Part two airs tonight on @BBCOne at 9pm. pic.twitter.com/3eL2gOWCMW
— J.K. Rowling (@jk_rowling) 2017年8月28日
原作はこれまでに、「カッコウの呼び声(原題:The Cuckoo"s Calling)」「カイコの紡ぐ嘘(原題:The Silkworm)」「Career of Evil(原題)」の3冊が刊行されている。その3作とタイトルが一緒のBBCのドラマ版は、シリーズ1作目(2017年8~9月放送)が3話、2作目(同年9月放送)が2話、そして今年の2月から3月にかけて放送されたばかりの3作目が2話と、各1時間・計7話で構成。ローリング自身も製作総指揮を務めるなど、積極的に関わっているという。
本作は、オックスフォード大学を中退して従軍し、アフガニスタンの戦場で片足を失って退役したという経歴を持つ私立探偵コーモラン・ストライクとそのアシスタント、ロビン・エラコットの活躍を描く。
ストライクに扮するのは、36歳の英俳優トム・バーク。『マスケティアーズ/三銃士』のアトス役、『戦争と平和』のドーロホフ役などでBBCドラマファンにはお馴染みの実力派だ。
そしてロビン役はホリデイ・グレインジャー。こちらも、『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』『チャタレイ夫人の恋人』といったドラマに主演した注目の英女優である。
ミステリードラマとして、事件がどのように進展していくか、犯人は誰なのかということが話の焦点なのは当然のことながら、謎解きと同時に視聴者のココロをわしづかみにするのが、ストライクとロビンの関係の行方だ。1作目の冒頭、ストライクは、英王立軍警察の特別捜査官だった経験を生かして、ロンドンに小さな探偵事務所を開いたものの、仕事はぱっとせず、借金まみれで、婚約者にも逃げられるという、人生のどん底を味わっている。そんな彼のもとに、派遣会社から臨時女性秘書として送られてきたのがロビン。最初はお互いにあまり良い印象を持たなかったが、ロビンが持ち前の行動力で調査に貢献するようになると、二人の間には信頼関係と共に特別の感情も芽生えていく。ロビンはストライクの明晰な推理力と無骨さに惹かれるが、彼女には婚約者マシューがいる。マシューは平凡な暮らしを望む普通のサラリーマン。心と身体にトラウマを抱え、常に危険と隣り合わせに生きるストライクとは実に対照的なのである。この二人の男性の間で揺れ動くロビンが切ない。一方のストライクも、プロ意識やらいろんな思いが邪魔して、ロビンにアプローチすることすらできない。観ていてじれったくなるほどである。
そんな微妙な関係の主人公二人を演じるトムとホリーがいい。トムは、ハンサムではないけど魅力的というストライク像を独自のカラーで染め上げるさすがの演技力。ホリーはキュートという言葉がぴったり。行動力も夢もあるけど、どこか現実的な現代女性という役どころにハマっている。
また、ロンドンの街並の風景もいい。ストライクの事務所があるのは、かつてロンドンの音楽シーンの中心地であり、古き良きソーホーの面影を残すデンマーク・ストリート。ストライクが常連として通う馴染みのパブは、そこから北に進めばすぐの大通り、オックスフォード・ストリートにあるパブ「The Tottenham(現在は 元の店名である「The Flying Horses」に変更)」だ。ソーホー、ダルストン、ナイツブリッジなど、ロンドン各地でロケを敢行。そのままのロンドンの風景が、ドラマのオーセンティックな雰囲気とリアル感を引き立てている。
『Strike』1作目「The Cuckoo"s Calling」の予告編はこちら!
『ハリー・ポッター』や『ファンタスティック・ビースト』のファンにとっては、ローリングの最新作として気になるところだと思うが、今作は残忍な殺人事件にDVやレイプ、SM、小児性愛といった要素も登場するダークな内容で、これまでのファンタジー路線とは一線を画している。しかし、ストライクがロックスターの父親とグルーピーだった母親の間に生まれた私生児で、父親とはあまり接点がなく、母親と各地を転々するという不幸な子供時代を送りながらも、正義のために闘うという設定は、どこかハリー・ポッターと繋がるところもあるのかもしれない。
ただ一つ、このシリーズの難点を挙げるとすれば、エピソードが短すぎること! あまりに駆け足なため、展開がわかりづらいところもあった。せめて、シリーズ2と3もシーズン1と同じく3話完結にして、もっとじっくり事件を描いてほしかったというのが正直なところだ。
『Strike』は、米国では同名の作品があるため『C.B. Strike』とタイトルを改め、今年6月から米HBOの映画専門チャンネルCinemaxにて放送予定。一方ローリングは、シリーズ4作目「Lethal White」を書き上げたと先日発表しており、発売日は未定だが、早くもBBCによるドラマ化が決定しているという。しかしながら、その撮影開始は原作が刊行されてからということで、次のドラマ化まではかなり待たされるようだ。
文:Yoshie Natori
プロフィール:イギリス在住。歴史・ファンタジー系の海外ドラマが好きです。音楽、自然、散策、旅、パワースポット、ビーチ、スピリチュアル、ヨガな日々を目指してます。
Photo:トム・バーク(C) JMVM/FAMOUS ホリデイ・グレインジャー(C) NYPW/FAMOUS