ヒットメイカーのライアン・マーフィーが2016年に手掛け、エミー賞ほか数多くの賞を獲得した『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』に続くシリーズ新作『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』が6月25日(月)よりBS10 スターチャンネルにて独占日本初放送となる。キャストは、有名ファッションデザイナーのジャンニ・ヴェルサーチ役にエドガー・ラミレス(『ゴールド/金塊の行方』)、彼を殺す連続殺人鬼アンドリュー・クナナン役にダレン・クリス(『Glee/グリー』)、ジャンニの妹ドナテラ役にペネロペ・クルス(『それでも恋するバルセロナ』)、ジャンニのパートナーのアントニオ・ダミコ役に歌手のリッキー・マーティンなど。
その放送に先駆けて、キャスト&スタッフが作品の魅力を語るオフィシャルインタビューをお届けしよう。昨年12月にニューヨークで行われた第1回スクリーニングで、マーフィーが有名司会者、バーバラ・ウォルターズの真似をして開催されたトークショーだ。
ライアン・マーフィー(製作総指揮):まず聞くべきは、『アメリカン・クライム・ストーリー』シリーズの我らが製作総指揮者、ブラッド(ブラッドフォード・シンプソン)とニーナ(・ジェイコブソン)に、なぜシリーズ2作目としてヴェルサーチの事件を選んだのかということだろうね。
ニーナ・ジェイコブソン(製作総指揮):そもそもの出発点として、『アメリカン・クライム・ストーリー』ではアメリカで実際に起きた事件の数々をアンソロジーシリーズとして取り上げたかったの。そしてこの『ヴェルサーチ暗殺』では1990年代の同性愛者がどんな状況にあったのかを描きたかった。そしてこの作品の脚本にトム(・ロブ・スミス)と一緒に取り組んでいた時、私は母校を娘と一緒に訪れて、その学校に通っていた当時のこと――自分が同性愛者であることをどうしても受け入れられなかったこと――を思い出したの。同性愛者に関する考え方や状況が今とは全然違うその頃に、ヴェルサーチが同性愛者だとカミングアウトしたことは、アンドリュー(・クナナン)のように自身の性的志向に関してとても混乱していた人にとってどんな意味を持つのか、その犯罪に巻き込まれた人たちにとってどんな影響を与えるのか、というのはとても語り甲斐のあるテーマだと思ったのよ。
ブラッドフォード・シンプソン(製作総指揮):そうだね。それともう一つの理由は、『O・J・シンプソン事件』をやった後でライアンが「(次は)ヴェルサーチ事件をやりたい」と言ったからだよ(笑) でもその時の僕らは実はまだモーリーン(・オース)の原作を読んでいなかったから、ニーナと僕は顔を見合わせながらライアンに「それはいいアイデアだね」なんて適当に言っていた。そしてライアンと別れた後、「それって一体何だ? どうする?」となったんだ(笑) なぜなら、この事件のことは本作で徐々に語られていくわけだけど、当時の僕らはまだアンドリューの殺した人たちの最後の犠牲者がヴェルサーチであることすら知らなかったからね。製作していく過程で、1990年代の政治がこの事件に深く関わっていたことを知ったんだ。
脚本を担当したトム・ロブ・スミスとはずっと前から一緒に仕事がしたいと思っていた。彼は素晴らしい作家で、「チャイルド44」をはじめとした小説や『ロンドン・スパイ』というTVシリーズを生み出している。ニーナが原作を送ると、トムはすぐさまこう言ったんだ。「このストーリーをどう伝えればいいかは分かっている」ってね。
ライアン・マーフィー:...という流れで行くと、次に質問すべきはトム、君になるだろうな。知らない人もいるかもしれないけど、この作品は時間をさかのぼる形でストーリーを伝えていくんだ。第1話と第2話で暗殺、マイアミでの捜査を描いた後、時間がどんどんさかのぼっていって、第8話では子ども時代のアンドリュー・クナナンが登場して、ラストの第9話へとつながっていくんだよ。というわけでトム、時間をさかのぼる形でストーリーを伝えることの素晴らしい点、そして特に難しい点は何だろうか?
トム・ロブ・スミス(製作総指揮・脚本家):僕らは骨組みを最初に作ってそれにストーリーを合わせたわけじゃなく、このストーリーと純粋に向き合って、ヴェルサーチから始めるべきだと思ったんだ。彼のことなら誰もが知っているからね。僕自身、ブラッドやニーナと同じで、ヴェルサーチが殺されたことは知っていたけれど、彼の前にも殺された人たちがいたことは知らなかった。モーリーンの原作を読んで、自分が事件のほんの一部しか知らなかったことを実感したよ。だから視聴者に向けて、「この作品は、あなたが知っていることを語りつつ、そこから離れて、なぜそれが起きたのかを綴っていく」と語りかけているような感じかな。
アンドリューはある意味、興味深い殺人者で、連続殺人鬼の初期段階でよく見られるような、猫や犬を殺したりはしていなかったんだ。しかし、知的ながらも複雑な人間で、非常に破壊的な道を歩んでしまう。僕らは、同じく複雑な若者、ヴェルサーチとこのアンドリューを対照的に見せることで、もともと多くの共通点を持っていた二人のうち一人が破壊、もう一人が創造の世界を進む中で、両者が最後にどんな結末を迎えたのかを描きたかった。このストーリーを視聴者に最適な形で伝えるための方法を選んだ結果がこれだったということだよ。
ライアン・マーフィー:ふむ。ところでモーリーン、君の原作本が出版された時、僕は夢中になったんだ。すごく気に入って、内容を暗記したくらいだよ。特に素晴らしいのは、この事件もO・J・シンプソンの事件もそうだけど、起きたのは20年前以上も前でありながら、テーマはとても現代的だということなんだ。つまり、古臭い"化石"でなく今日のニュースの見出しから取ってきたかのように生き生きと感じられることなんだけど、それについて少し話してもらえるかな?
モーリーン・オース(原作者):ええ。アンドリューはサンディエゴ出身で、当時のサンディエゴは軍隊の影響が色濃くて、「Don"t Ask, Don"t Tell」(※同性愛者であることを隠せば軍隊に入隊できるという政策。同性愛者に対する差別の温床となった)の時代だった。そのため同性愛者は、自身の性的志向を明かすこと、示すことに対して大きな葛藤があったの。アンドリューが殺したのは同性愛者の人々だったけど、そのうち2人の犠牲者の親は、自分の子どもが同性愛者であることを殺されるまで知らなかったのよ。そうしたことから、彼らがゲイ・コミュニティへ行くことをひどく気まずいと思ったり、反対されていたわけじゃなくて単に無視されていたことを紹介する考えに惹かれたの。
そして、警察は捜査網を敷いたものの、型通りの捜査手順を取ったことでアンドリューにまんまと逃げられてしまった。IQが147もある彼は、警察をバカにするのが好きだったの。ただ、アンドリューが最も求めていたのは、名声でしょうね。彼は有名になりたいから人を殺したの。ヴェルサーチになり代わりたかったけど、そのために努力する気はなかった。その結果、自分が才能はあるのに成功していないことに対して大きな怒りを覚えたのよ。最近、セックステープで有名になったり、リアリティ番組のスターがアメリカ大統領になったりしていることを思うと、考え深いわね(笑)
ライアン・マーフィー:まさにイマドキだね。ところで、この配役で自慢したいことが一つあるんだ。企画に取り掛かる時、ニーナと僕、ブラッド、トムの4人でキャスティングリストを作ったよね。「じゃあ、この役は誰が? どんな感じかな?」ってワクワクしながらリストアップした。そしたら、どの役も例外なく、僕らの最有力候補に決まったんだ。これって自慢できるよね。制作チームにとってもそう。僕ら全員に、どの役を誰が演じるかが見えていたんだ。というわけでダレン、君からだ。君のことを一番昔から知ってるのは、多分僕だろう。『Glee/グリー』に出る何年も前に、一緒に仕事をしたよね。
ダレン・クリス(アンドリュー・クナナン役):あぁ、そうでしたね(笑)
ライアン・マーフィー:この企画が動き始めた当時、僕はモーリーンの本を見て惚れ込んだ。作品化したい、これはいける、って確信した。で、言ったんだ。「この役にはダレンしかいない」って。すぐにダレンに連絡を取って説明した。「この話、2、3年のうちに実現すると思う。まだ練ってる段階だから進展は報告するけど、どう思う? 興味ある?」ってね。この電話を受けて、どう思った? 実際、君は待っててくれたけど、その間きっと、君自身もはまり役だと思って、作品もかなり気に入って、ジリジリしていたんじゃないかな。
ダレン・クリス:そうですね。犯人はとても一筋縄ではいかない青年だし、僕はこのチャンスだけは逃したくなかった。それにフィリピン人ハーフのはしくれとして、本音はこうでした。「ライアン、名刺の束を必死にめくって、この男と同じ年頃で、面構えの似た役者をほかに探そうとしても、ほぼ無理だよ。それに、僕がこの役じゃなかったら、フィリピン人コミュニティは大ブーイングだろうね」(笑) この役を見事に演じ切れるフィリピン人ハーフ俳優は稀だと言いたいわけじゃないよ。
とにかく、ライアンは3年くらい前にこの話を僕にチラつかせた。それに、役者の価値はもらった役で決まる。そして...この事件の核心にあるのは、格差だと伝えたかった。犯人のアンドリューはまさに「持たざる者」だと。だから僕にとってこの事件は暴力的で陰惨、というよりも、どこまでも哀しく痛ましい。前途有望だった青年が挫折する。彼は道をひどく踏み外し、おぞましい凶悪犯罪を重ねた。悲惨な事件が起きるたびに人はつい、こう考えてしまう。「なぜ? どうやって? どうしてそうなるの?」。とりわけ、彼の生涯を追ったモーリーンの作品を読むと、アンドリューがどれだけ人に好かれ、感じの良い青年だったかが分かる。だから、どうしても「彼に起きた何かが、自分にも起こり得たか? 身近な誰かや大切な人にも起きる可能性はあったのか?」と考えてしまう。それに、普通なら共感しにくいであろう、多くのエピソードにも強く惹かれた。例えば、今まで出会った中で最悪の人を思い出し、そういう人がやった最悪のことを果たして理解できるか? その人はそうするしかなかったのか? 僕はそうだ、と思いたい。そんな考えはひどく理想主義的だし、僕はあまりに世間知らずで、おめでたい男かもしれない。だけど、誰が見ても悪人、という人物になりきり、その人間的な側面を演じるのは、役者冥利に尽きることだったよ。
ライアン・マーフィー:そうだね。確かにそれって、制作中に僕らがすごく意識したポイントだよ。だから、ありがちな「今週の殺人鬼」的アプローチで作る気はまったくなかったんだ。ここまでの罪を犯すところまで追いつめられた人物の心理をなんとかして理解したい。僕らはその点にひたすらエネルギーを注いだんだ。
ダレン・クリス:そうだね。
ライアン・マーフィー:おかげでいい作品になったと思う。この役をやる上で、心配とかあった? だって、シェイクスピア劇の主役ばりに毎回出ずっぱりで、いきなり過去に戻ったりもしたよね。
ダレン・クリス:それが毎日撮影に行くのが楽しみで。仕事の内容というより、ストーリーのスケールの大きさに夢中だったんだ。メンバーが最高だったのもあるけど、とにかくストーリーがものすごかった。打ちのめされるほど強烈で。だから心配はなかったけど、おっしゃる通りシェイクスピア劇的だったし、このドラマの空気感はかなりオペラっぽい。スケールからすると、かなりギリシャ悲劇的。僕は実は由緒正しき演劇科育ちだから、ギリシャ悲劇とかシェイクスピア劇は得意なんだ(笑) もし「ライアン・マーフィー組」がFXでもう一本作るなら、喜んでやるよ。
ライアン・マーフィー:じゃあ、エドガー。ピンクのローブについて話してもらおうかな(笑) あれ、かなり気に入ってたよね? そのへんを、ぜひ。
エドガー・ラミレス(ジャンニ・ヴェルサーチ役):それについてはまず、ライアンの方から説明してもらえるかな?
ライアン・マーフィー:衣装デザイナーのルーとも話していたんだけど、あれはそもそも、最初の頃に君との話から出たアイデアだよね。「ヴェルサーチは皇帝みたいだ」って君が言った瞬間、彼らしき人物が歩く姿が僕に見えたんだ。その前に彼が住んでいた邸宅をカメラに収めていたんだけど、そこでは石一つから、植物一本、彫刻一体に至るまで、ヴェルサーチが吟味して配置していた。だから、大いなる存在のようにあの空間に君臨するエドガーの姿がパッと浮かんだんだ。
エドガー・ラミレス:そうだったね。例えば古代ローマ帝国を想像する時、その歴史の風格と過ぎ去った年月の長さゆえに、僕らがイメージするのって、色褪せたベージュ色の彫刻だよね。身にまとうローブも何もかもが、白とかベージュ、卵の色みたいな、とにかくモノトーンで。だけど実際のローマ帝国はとても色彩豊かで、ブルーや薄紫のグラデーションも、ゴールドも鮮やかだった。それに、1970年代は渋くてセクシー、1980年代はゴージャスで保守的だったけど、そこへ1990年代になって登場したヴェルサーチが、"古代ローマ帝国"でこの二つの時代を融合させた。それに人々は熱狂したんだ。
ライアン・マーフィー:なるほど。
エドガー・ラミレス:だから、作品を見事に表しているこの美しいポスターは、僕にはとても刺激的でゾクゾクするし、ゴージャスだ。だって、古代ローマ帝国の色に溢れてるからね。ヴェルサーチはそもそも、第1話で自分が話すカラブリア州の小さな店を世界に広めるよね。ここで、トムが書いた中でも指折りに美しい台詞を彼が言う。つまり、イタリアの片隅で商売をしていた男が世界に羽ばたいたんだ。そして、オートクチュール、ハイファッションの世界に彼が初めて、ここまで強烈に、ロックの反骨精神を持ち込んだ。それまで相容れることのなかった「セクシュアリティー」と「グラマー」を融合させた。例えば、上流階級の保守的な良家のレディは、バレンシアガとかディオールのブティックでドレスを選ぶ。かたや、上流階級以外の人にはそんな機会なんてない。だからある意味で、彼はとても民主的だった。
ライアン・マーフィー:ところで君はよく彼のことを「文化の破壊者だ」って言ってるよね。
エドガー・ラミレス:そう、彼は破壊者でもあった。つまり、すべてが型破りだった。例えば、会社創立の経緯からして常識外れだった。彼は南部出身のイタリア人で、その世界、つまり、ミラノの連中は、北部出身のイタリア人こそがイタリア人だって思いたがる。ほんとはスイス人なんだけど(笑) そこに、南部から現れ、北部の人々が決してイタリア語と認めない地方の言葉をしゃべる男が会社を立ち上げ、10年で世界を征した。言うなれば、彼は何においても破壊者で、すごいことをやってのけた。
僕らが今生きる時代とか社会はある意味、彼が創ったとも言えるんだ。セレブや名声、ロックンロール音楽や映画を融合させた。もしヴェルサーチがそんなカルチャーを興してくれなかったら、僕らがファッションショーをかぶりつきで楽しむ、なんてことは絶対になかっただろうね。良くも悪くも僕らは彼が創り上げた社会で生きているわけだけど、それがたった20年前だってことに、僕は感動してしまう。本当にすごいと思うよ。
ライアン・マーフィー:ところでリッキー、これは僕の持論だが、君は世界でも有数のエンターテイナーで、独自のスタイルをこれまで貫いてきたよね。もう一つ、これも持論だが、偉大なシンガーの内面には必ず、偉大な役者がいて、機会があればとにかく表に出たがっている。以前も一緒に仕事をしたけど、この作品を作って最高だったことの一つが、君が才能の新たな面を見事に切り拓いたことなんだ。ほとんど知られていない、役者らしい、シリアスな一面を。そのことをちょっと話せる?
リッキー・マーティン(アントニオ・ダミコ役):そうだなあ。もう何ヵ月も一緒にやってきているから、撮影当時に自分が何を思ったかも、いざ映像を見たらどう感じるのかも分かるよ。だから、みんながどんな反応を示すのかが見たくてたまらないし、オンエアが待ち遠しい。こういうチャンスをくれて、こんなにすごい役者陣に囲まれて、ライアンには感謝しかないね。やりやすいように気を遣ってくれた彼のもとで、みんなとにかく役になりきった。僕らはとにかく、ものすごい覚悟で演じ切った。僕にとっては、アントニオ本人に実際に会って話せて、ものすごくラッキーだった。彼は驚くほど寛容で、どんな感情も隠さなかった。僕と会うのはキツイんじゃないかと思って、こう伝えたんだ。「あなたのジャンニへの愛を、ただ誠実に演じたい。そのために、本音を聞きたいんです」。すると彼は応えてくれた。おかげで僕は情熱と強い信念、それに悲しみや喜びを、日々現場で演じられたんだ。そんな経験ができて光栄だよ。
ライアン・マーフィー:それでは最後の質問は、最後のエピソードに出演したエドガーとダレンに答えてもらおう。僕が今まで監督した中で、今回みたいな状況での撮影は初めてだった。ヴェルサーチが実際に殺された場所で、その犯行を再現して撮る。これは僕にとって比べようのないほど心揺さぶられる、深い感動の体験だった。その時現場にいた人はみんな、僕と同意見だろう。あのシーンを撮った日、クルーも俳優も泣き、ものすごい緊張感があった。良かったら、あのシーンと、その時に思ったことについて話してもらえるかな?
ダレン・クリス:あれには圧倒された。だって、普通の再現シーンと違ってセットじゃないわけだから。実物の階段や門が無造作にそこにあって、公開されていて誰でも近寄れる。何もかもがあるべき場所に整然と収まっている。単なる階段とか門なのに、佇まいの存在感が違う。このシーンは特にね。それで、僕はアンドリューに扮して、これぞマイアミ、っていうある美しい日にそこにいる。やがて僕はあのすごい門を抜けて歩いていくんだけど、そこで僕は彼の罪の意識を感じかけた。持てなかったものをすべて、ただやみくもに欲しがった彼のね。僕はあまりにも長くアンドリューになりきっていたから。僕は何気なく、家にスッと入ろうとした。もちろん、ヴェルサーチを殺すためにそこにいたんだけど、ただ――ものすごかった......うまく言えないけど、生々しくズシン、と響いたんだ。
何よりも伝えたいのが、その家は普通の家じゃなくて、ヴェルサーチの魂がほとばしっていたことなんだ。彼の創造性の結晶そのものが壁、ドアノブの一つひとつ、家の中のすべてに宿っていた。だから、家に入れば彼がいる。そこは、今も脈打つ、彼の遺跡なんだ。 僕は彼の存在をひしひしと感じて、感謝の祈りを捧げそうになり、こんな風に世間にさらすのを申し訳なく思いかけた。でも、こんな闇から希望が生まれてほしい。とにかく、僕はただドアをいくつも通って歩いただけで、心をものすごく揺さぶられたんだ。だって、実際の殺害現場で撮影ができるなんて聞いたことがないよ。他の人はどうか知らないけどね。
エドガー・ラミレス:みんな、いろいろな感情が渦巻いたと思う。ただ、あの回の僕はほとんどの間、死者だったけど(笑) モーリーン、間違ってたら教えてほしいんだけど、ジャンニが撃たれたのは、1997年7月15日の朝8時45分だよね?
モーリーン・オース:そうね。
エドガー・ラミレス:そして約1時間後に、彼の死亡が発表された。その時、彼の胸に去来したものをつい考えてしまう。彼の想いを。意識がない中、あるいは意識があったとしても動けない中での。これは誰にとっても非常に個人的なテーマだけど、ライアンがそのテーマをこんな風に扱ってくれたことが僕にはとても嬉しい。当時の僕らの意識を表現するきっかけを作ってくれたから。だからジャンニの震えが僕には分かる。リッキーが震えていたように。あれは強烈に感情に訴える場面で、僕は目を閉じていても何もかも分かった。担架に乗せられ、緊急救命室に運ばれた時、みんなの念やあらゆるものが僕に伝わってきた。だから、実際にこうだったんじゃないか、としか思えないんだ。僕が感じたように、ジャンニも何か言いたかった。さよならなのか何なのかは分からないけれど、でもそれが言えなかった。そしてこの狂気と悲劇――つまり、これは避けられた悲劇だったのに、避けられなかった。
ライアンたちの仕事で僕がすごく好きなのは、人々の心を激しくとらえ、感動させるストーリーを探り当てる力なんだよね。それでいて、今まさに社会に蔓延しているとても大きなテーマ、僕がついとめどなく考えてしまう事実に触れている。それは、セクシュアリティーの否定がこの事件の根幹にあったということ。同性愛者の世界があるということを認めようとしなかった。
で、この男は全国ネットで報道された。当時ベネズエラに住んでいた僕でさえ、アンドリュー・クナナンのことは知っていた。警察は追い詰めるまであまりにも時間がかかったよね。これって捜査当局全体で、逮捕の判断が鈍ったせいだと思うんだ。同性愛者を次々に殺すこいつはどうも、社会への脅威ではないかも、という風にね。
愛とか家族というテーマだけじゃなく、こういう社会の暗部に少しでも光を当てようとする作品に参加できて、心から光栄に思っているよ。
ライアン・マーフィー:こちらこそ。みんな、今日はどうもありがとう。
■『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』放送情報
6月25日(月)よりBS10 スターチャンネルにて独占日本初放送
6月23日(土)深夜0:00より第1話先行無料放送
[字]毎週月曜 23:00~ ほか
[二]毎週木曜 22:00~ ほか(※6月28日(木)は第1話無料放送)
Photo:『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』
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