世界的ベストセラーであるアルベール・サンチェス・ピニョルの「冷たい肌」を『ヒットマン』の鬼才ザヴィエ・ジャンが映画化した『コールド・スキン』が、7月14日(土)から8月24日(金)まで新宿シネマカリテで開催する真夏の祭典、「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション(カリコレ)」で上映される。
クリーチャーデザインを『パンズ・ラビリンス』で第79回アカデミー賞を受賞したDharma Estudioのアルトゥーロ・バルセイロが、VFXを『ゲーム・オブ・スローンズ』のエル・ランチートが手掛けたSFクリーチャー・アクション。キャストは、『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』でホアン・ボルジアを演じたデヴィッド・オークスのほか、『マイティー・ソー バトルロイヤル』のレイ・スティーヴンソン、『ゴースト・スクール』のアウラ・ガリードなど。
夢破れた青年フレンドは新しい気象観測員として南極海の果ての無人島へやってくる。そこに暮らすのは、彼と変わり者の灯台守グルナーの二人だけか思っていたが、夜が更け始めると島には大群の人ではない生き物が多数押し寄せてくる。灯台を要塞とした、彼らとクリーチャーの戦いが始まる...!
そんな本作の公開に先駆けて、ザヴィエ・ジャン監督のインタビューが届いたのでご紹介しよう。大人気ゲームを映画化した『ヒットマン』やドラマスター多数出演のスリラー『ディヴァイド』で知られるフランス人監督が、クリーチャーと人間の関係を考えさせられる点が共通しているアカデミー賞作品賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』との違いや、「前世が日本人だったのではないか」と言うほど日本に寄せる愛情の深さについて語ってくれた。
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――原作を読んだご感想は?
ストーリーがとても素晴らしくて、映画化したいと思いました。なるべく原作に忠実に、元のストーリーをそのまま、100%に近い形で可能な限り映画に落とし込みたいとね。アネリスのキャラクターが特に好きでした。
――どのような経緯でアルトゥーロ・バルセイロと組んでクリーチャーデザインを行うことになったのでしょう? デザインについてこだわった部分などはあるのですか?
クリーチャーデザインでは、原作に描かれている特徴をベースにしました。原作ファンがとても多く、彼らが想像していたようなクリーチャーだと思ってほしかったので。あとはダーウィンの進化論も元にするなど、この世界で本当に存在するような生き物をデザインしようとリアリズムを追及しました。生物学者とも話し合いを重ね、水の中でどのように進化して、どのような外見になるのか、科学的なディスカッションをしましたよ。
▼クリーチャー誕生の過程も紹介するメイキング映像はこちら!
――本作にはクリーチャーが大量に出てきますが、VFXで苦労した点はありますか?
膨大なVFXを使っていて、特殊メイクとスペシャルエフェクトの両方を駆使しています。CGIを使ったシーンは1000カット以上あり、フルCGIのシーンも多くあります。ランサローテ島で撮影を行ったため、人が住んでいるところは隠さなければならず、島自体を長くするなどの調整も行いました。灯台については、実物大と小さいバージョンをロケ地に作りもしましたし、イントロとエンディングはフルスペシャルエフェクトで制作しています。映画中盤の、大勢のクリーチャーが攻撃してくるシーンもスペシャルエフェクトで、子どものクリーチャーが出てくるシーンは90%がCGです。本作は、ヨーロッパで一番実力のあるVFXスタジオ、エル・ランチートのフェリックス・ベルジェスがVFXを手掛けており、J・A・バヨナ監督の『ジュラシック・ワールド/炎の王国』のVFXも手掛けています。
――カナリヤ諸島での撮影エピソードを教えてください。アイスランドでもロケハンをしたそうですね。
(アイスランドの)レイキャビックの近くで撮影をしようとしたんですが、アネリスはほぼ裸でいなければならないため、夏でも非常に寒く風の強い同地ではなく、火山島の風景を求めて(カナリヤ諸島の一つである)ランサローテ島へ行きました。南極の感じに近く、アイスランドより風景も理想的でしたし、気温が高いのが何よりいい点でしたね。マイナス面は日焼けをしてしまった点で、毛皮を着なければいけないシーンは大変でした。ただ、アネリスにとっては良い環境だったと思います。
――本作は『シェイプ・オブ・ウォーター』と比較されることもありますが...。
『シェイプ・オブ・ウォーター』はとてもロマンチックでパリジャン的な映画で、特にクリーチャーとの恋愛関係を重視しているところが気に入りました。『コールド・スキン』を撮影している時に、(ギジェルモ・)デル・トロが『シェイプ・オブ・ウォーター』を撮影していると知り、クリーチャーものが同じタイミングで出るなとは思っていましたが、こちらはインディペンデント映画で実験的かつ文学的、あちらは素晴らしいセットの傑作ハリウッド映画と全然違いますよね。『シェイプ・オブ・ウォーター』は1950年代の映画の雰囲気や特にモンスター映画を参照していてとても映画的ですが、本作は文学的で、19世紀が舞台のストーリーになっています。
――あなたは自国ではフレンチコメディの最新作『Budapest(原題)』が公開されたばかりですが、今後のプロジェクトは?
『Budapest』は一見ジャンルは異なりますが、実際に映画を見てみるとそんなに『コールド・スキン』と変わらなくて、トラッシーなコメディと『フロンティア』のようなホラーの狭間にある、エクストリームなフレンチコメディです。次の映画に関してはあまり話せないのですが、なるべく典型的なジャンル映画でバイオレントな作品を撮りたいですね。
――プロデュースも何度かされていますが、監督とプロデュースを分ける基準は?
若い演出家と会う機会が多くあり、その一人が『Hostile(原題)』の監督マチュー・チュリです。今は、1990年代のアルジェリアの女性解放についての映画をプロデュースしているところです。プロデュースをする時には映画ファンの一人として、あらゆるジャンルの映画を手掛けたいですね。一方私が監督をする時にはやりたいことや自分のスタイルがあるのですが、プロデュースでは違うジャンルとスタイルを極めようと考えています。監督としてできないことをプロデューサーの時にやりたいですね。
――8月に来日すると伺いましたが、どんなプランなのですか?
写真を撮りに行くんです。日本の季節に関する本を出したいと考えていて、今回の来日はそのロケハンを兼ねています。富士山に1週間、それから東宝スタジオにも行きたいですね。本は、クリス・マルケル(フランスの写真家)が作ったような、アート系の観光ガイドみたいなものを作りたいと考えています。今回だけでなく、10月には秋の紅葉のために、来年3月には桜のために、また日本に行くつもりですよ。
日本の映画だと、黒澤・小林・溝口・小津監督の作品、1940年代~70年代の映画が好きです。もちろん三池崇も大好きで、最近観た作品では『シン・ゴジラ』も素晴らしかったです。びっくりしました。(1983年カンヌ パルムドールを受賞した)『楢山節考』も北野武も大好きです。もし日本を舞台に映画を撮るとしたら、1980年代に美術品(クロード・モネ「印象・日の出」)を盗んで日本人に売ろうとしたフランス人の映画を撮りたいですね。
――最後、日本のファンへメッセージをお願いします。
日本の皆さんにまず伝えたいことは、世界で一番素晴らしい国に住んでいるということです。私は日本の大ファンで、書道や剣道をたしなみ、漫画も読んでいます。前世が日本人だったのではないかと思っています。小さい頃から日常生活で日本のアニメを見ていたこともあって親しみがあり、本当に日本が大好きです。可能であれば、1年の半分くらいは日本に住みたいし、溝口健二(映画監督)も大好きです。そんな日本で私の映画が公開されるのを光栄に思っています。
映画『コールド・スキン』(配給:ハピネット)は、新宿シネマカリテにて7月14日(土)から8月24日(金)まで開催される真夏の祭典、「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション(カリコレ)」で上映。シネマート心斎橋にて8月25日(土)より公開される。
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Photo:
『コールド・スキン』
© Skin Producciones A.I.E - Babieka Films - Babieka Entertainment - Kanzaman France - Pontas Films (2016)
ザヴィエ・ジャン監督
© José Haro