息子の復讐、家族を守るため10年ぶりに極秘スパイ任務に 主人公を中東の謀略が襲う『Deep State』

英Foxで4月から放送されたアクション・スリラー、『Deep State(原題)』。MI6・CIAの極秘チームを退職した男が家族を救うため、10年ぶりに中東に足を踏み入れる。ムスリム世界の情勢を描きつつも、メッセージ性を最低限に抑え、とりわけエンターテインメント性を高めているのが本作の特徴だ。好評を受け米Epixで6月から放送されたほか、イギリスでは早くもシーズン2更新が決定している。

■平穏に暮らす男に10年ぶりの任務
ピレネー山脈の麓で、趣味の日曜大工をしながら引退後の余生を謳歌する男マックス(マーク・ストロング)。妻のアンナ(リン・ルネー)と娘たちとともに、平和な日々を送っている。アンナは夫が銀行員だったと信じているが、実はMI6とCIAの特殊混成部隊「ザ・セクション」に所属していた元スパイ。とはいえ、一線を退いてからすでに10年が経つ。

そんな彼の元に、元上司のジョージ(アリスター・ペトリ)から突然の報せが。示された写真を確認すると、そこには前妻との間に設けた子ども、ハリーの無残にも変わり果てた姿が。ハリーはマックスに内緒で彼の昔の活動歴を辿り、中東に向かっていたのだ。息子の復讐を遂げ、そして愛する家族に忍び寄る影を断ち切るため、マックスは再び銃を手に取り一路ベイルートへ向かう。しかし、ロンドン、ワシントン、テヘランと、世界各地を結んだミッションが展開する中、「ザ・セクション」が隠す真の狙いが明らかになる。

 

■わかりやすく楽しめるエンターテインメント作品
中東情勢を扱いながらも、政治・人道的メッセージを抑え、徹底してエンターテインメント性を追求している本作。米New York Timesは、同じく中東の混乱に巻き込まれるイギリスの家族を描いた『Next of Kin(原題)』との比較のなかで、この特徴が際立つとしている。アクションに加えて、ミステリーとサスペンスの要素も盛り込んだ作品だ。銃撃戦、皮肉たっぷりのセリフ、そして世界全体を揺るがす新事実などに心が踊る人は必見、と同メディアは推奨する。

スパイと国際的な陰謀を描いた作品はこのところ多く製作されており、その波に乗った作品だと米Los Angeles Timesは分析する。今年放送の作品だけでも、ロバート・レッドフォード主演作のリメイク『Condor(原題)』、女性スパイ同士が国境を越えて命を賭けた攻防を繰り広げる『Killing Eve(原題)』、そして前述の『Next of Kin』などが挙がる。思わぬ方向に進むストーリーがこうした作品の売りだが、本作は特にうっかりするとまんまと騙されてしまうミスディレクションの嵐。よくあるタイプの展開だと思っていると、さらにもう一段階ワナが潜んでいる。加えて、職場での権力抗争、水面下で進む計画、モラルとは無縁の強欲なキャラクターなど、強力なエンタメ要素で視聴者をぐいぐい引き込んでくれる作品だと評価が高い。

■現実さながらのリアリティ
本シリーズはフィクションだが、そのリアリティは侮れない。ヨーロッパ、中東、アメリカと、世界各地を跨ぐ陰謀をカメラが映し出すなかで、時にはアラビア語やフランス語などだけで会話が交わされるシーンも。これが現実世界のような説得力をもたらしている、とLos Angeles Timesは評価する。精巧に描かれたディテールを土台として、スリルとキャラクターで魅せてくれる作品だ。

イギリス製作の本シリーズには、アメリカへのちょっとした「からかい」も盛り込まれている。アメリカは他国に厄介ごとをもたらす存在として描かれている、とNew York Timesは指摘しており、現実世界のステレオタイプを伺わせる。まるで子供のように優柔不断だったり、後先を考えずにツイートしたりするという、どこかで聞いたことのある大統領も登場するということだ。(海外ドラマNAVI)

Photo:マーク・ストロング(C) JMVM/FAMOUS