7人分の血溜まりも遺体はゼロ... 1ドル札を追うギミックが引き込むミステリー・スリラー『One Dollar』

米CBSの動画配信サービスCBS All Accessが贈るミステリー・スリラー『One Dollar(原題)』。物語は、持ち主が次々と変わる1ドル札を追うという凝った演出で展開する。視点人物を変えながら殺人事件の全貌を探求する中で、斜陽産業を抱える街が隠すある秘密が白日の下に晒される。

■斜陽産業の街で、鉄工所に7人分の血溜まり
ペンシルベニア州ピッツバーグのとある寂れた街。鉄工所に勤めるシングル・ファザーのガレット(フィリップ・エッティンガー)は、金に困り果てていた。道端に座り込んでいたところ、通りがかりの女性が手に持っていたカップに1ドル札を入れる。清潔ではない身なりだったとはいえ、物乞いと間違えらたことに唖然。こうして問題の1ドル札が彼の手中に舞い込んだ。

ほどなくしてガレットの勤務先から、血の海が発見される。被害者は1名と思われたが、分析の結果、7人分の血液であることが判明。だが、遺体は一つとして発見されていない。事態の収拾を図りたい街の不動産デベロッパー、ウィルソン(グレッグ・ジャーマン)は、刑事から探偵に転向したジェイク(ナサニエル・マーテロ・ホワイト)に調査を依頼する。

やがて、ガレットがボスのバッド(ジョン・キャロル・リンチ)の悪行に手を貸していることが明らかになり、事件との関連も疑われる。しかし調査が進むにつれ、彼以外にもグレーな人物が次々と登場。街の人々の間に隠れた利害関係が、ひとつ、またひとつと顔を出し始める。

■1ドル札のギミック
各話の終盤で1ドル札は、次の持ち主へと送られる。札を渡された人物が新たにストーリーに登場すると同時に、視点人物となって次のエピソードを回すという趣向だ。ストーリーの推進剤という性格が強いギミックだが、米Los Angeles Timesは、札の表面に謎の数字が書かれていると指摘。紙幣を他と見分けるための単なる演出とも考えられるが、数字自体が後で謎解きの一端を担う可能性も捨てきれないと同紙は推理する。

舞台となる米ピッツバーグの地元紙Pittsburgh Post-Gazetteは、この紙幣が作品にとって欠かせないプロップであると指摘する。近年は無関係の人々を初期の段階で登場させ、ストーリーが進むに従って意外な結びつきが生まれるという技法が多くのドラマで採用されているため、1ドル札で人々を繋ぐテクニックは不要と判断した。しかし第3話で、殺人事件とは関連のない学校教師キャロル(デアーダー・オコネル)の手に紙幣が渡ったことがきっかけに、サブプロットが展開。ここへの自然な導線として1ドル札が作り手の設計通りに機能していることを、同紙は高く評価している。シーズン最終話で紙幣が行き着く先は...。演出に思わず引き込まれてしまう。

■主役を張れるほどのキャラクター
シリーズが終始漂わせるシリアスな緊張感について、キャストの演技の妙が成せる技だと讃えるのはLos Angeles Times。同紙がことさら強調するのは、探偵ジェイクと警察時代のボス、ピーター(クリストファー・デナム)の衝突シーン。特にジェイクは単独のキャラクターとしても見ていて楽しく、彼を主役としたシリーズを立ち上げられるほどの魅力があるという。影のあるキャラクターながら、一度現場に立てばたちまちカリスマ性を発揮するというギャップで惹きつける。

「魅力的なキャラクターを通じて、現実問題への問題提起も試みられているのでは」とPittsburgh Post-Gazetteは分析。7人分の血溜まりが発見されたにもかかわらず、「フェイクニュース」だとして信じようとしない白人至上主義者のグループは、どこか現実の話題を想起させる。このほか、衰退する街の経済、警察署内に根強い人種への偏見、住民の経済格差など、社会問題への視点を随所に忍ばせた作品に仕上がっている。

憂いを帯びた街に血の海が広がる『One Dollar』は、8月30日(木)からCBS All Accessで配信中。刑事から探偵に転向したジェイク役の演技が絶賛されているナサニエルは、Netflixオリジナル・スリラー『コラテラル 真実の行方』でネイサン役で出演している。(海外ドラマNAVI)

Photo:ガレット役フィリップ・エッティンガー(c)lev radin / Shutterstock.com