世界的な人気を誇るキャラクター「くまのプーさん」をディズニーが初めて実写映画化した『プーと大人になった僕』。本作で、プーの大親友クリストファー・ロビンの大人になった姿を演じたユアン・マクレガーが、9月14日(金)からの日本公開に先駆けて来日したところを直撃! スター俳優が話題作を引っさげての待望の初来日ということで分刻みの取材が続く中、疲れた表情を一切見せず、時おりユーモアを交えながら作品への思いを語ってくれたユアン。そこには俳優としての揺るぎない哲学と、作品作りに対する熱い思いがあふれていました。
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―― 子どもの頃のプーさんとの思い出はありますか?
もちろんあるよ。小説も絵本も、僕が小さな頃に親から読んでもらっていたし、どの本もとても大切にしていた。プーさんに似たクマのぬいぐるみを持っていて、いつもその子と遊んでいたから、今回の撮影であの頃の記憶が一気によみがってきた。僕自身が親になってからは子どもたちに読んであげていたから、プーさんへの思いは受け継がれているね。
――ということは、その思い出が本作に出演する決め手となったのでしょうか?
当然そういった背景はあると思うけど、今回の作品はとにかく脚本が素晴らしかった。クリストファー・ロビンはもちろんのこと、彼の家族、そして森の仲間たちとクリストファーとのやり取りにものすごく心を動かされたし、共感したんだ。プーさんをはじめとする動物たちが、働き過ぎのクリストファーになんとか"童心"を思い出させて、彼を今よりもハッピーな場所に連れて行こうとする、その道のりが大好きで、「これはきっと美しい映画になる」と思ったんだよ。あとは、マーク・フォースター監督がメガホンを取ることも決め手の一つだった。『ステイ』(2005年)という映画で一緒に仕事をしてからすごく信頼していて、"絶対にいいものを作ってくれるはず"と期待していたけど、見事にやり遂げてくれたね。
――この作品をいち早く観たファンの中には、働き過ぎの日本人に一番"刺さる映画"だと言う人もいます(笑)
確かにクリストファーは仕事に頑張り過ぎてはいるけど、それはワーカーホリックだからそうなっているわけではなくて、責任のあるポジションを全うし、従業員にも幸せになってもらいたいという使命感から、仕事と真摯に向き合っているのだと思う。ただ彼は、忙し過ぎて家族との距離感ができてしまい、さらには戦争に行ったことによって自分自身との距離も繋がりを失っている。それをどう修復するか、そこで葛藤しているのがクリストファーであり、救世主として親友のプーさんと奇跡の再会を果たすところが、この映画の見どころだと思うんだ。
――やはり映画は脚本が命ですね。親友のプーさんと再会を果たしたクリストファーが、忘れかけていた「大切なモノ」に気づいていく姿は、本当に感動的でした。
君の言う通り、上質な脚本は絶対条件だからね。作品作りの本質じゃないかな。脚本が良くなければ、良い映画はできないし。ただ、良い脚本でありながら、あまり出来の良くない作品が生まれるケースもあるけどね(笑) ここで気になるのは、「何をもって上質か」ということだと思うけど、こればかりは個人的なテイスト(好み)、主観が関わってくるとしか言いようがない。想像力に刺激を与えてくれる上質な筆致や物語に出会うと、そこからイマジネーションがどんどん広がっていく、その過程が楽しいんだよね。僕は理詰めでモノを判断するタイプではないので、チェックリストを作って「これとこれを作品化しよう」なんてことはしない。自分の"本能"を信じているんだ。脚本を読んでいる時に何か燃えるようなものを感じたなら、直感的に「よし、これをやろう!」ってなるケースがすごく多いんだよ。
クリストファー・ロビンのことは本当に好きだったね。僕自身が彼そのものとは言わないけど、クリストファーの性格は僕の中に長い間ずっとあったもののように感じているんだ。
――あなたというと映画が軸にあるイメージでしたが、近年は『FARGO/ファーゴ』などのTVドラマにも出演されています。脚本さえ良ければ、映画以外にもどんどん参加されるのですか?
映画、舞台、TVドラマはもちろん、脚本が良ければラジオドラマにだって出るよ。運が良いことに、僕は意外とカテゴリーにとらわれることなく、いろんなメディアで仕事ができているんだ。『FARGO/ファーゴ』への出演だって、上質な脚本を追いかけた結果なんだよ。ご存知のように、アメリカでは中規模バジェット(約10~50億円)の映画がここ10年、作られなくなっている。それは、ケーブルやストリーミングを含めたドラマ製作の煽りを受けているわけだけど、今や自分が望む中規模バジェットと素晴らしい筆致の脚本がドラマ界にひしめいていることに気づいたんだ。『FARGO/ファーゴ』はその流れの中で出会った作品だったので、人生を変えるような素晴らしい体験だったよ。
――かつて『スター・ウォーズ』シリーズに出演された時、相手のいないCG撮影に苦労したとおっしゃっていましたが、本作の撮影も大変でしたか?
プーさんとは4ヵ月間、撮影で一緒にいたので大親友になったけど、テディベアはどこまでいってもテディベアだから、もちろん想像力を駆使して演じなければいけなかった。でも、完成した作品を観て驚いたのは、自分が思い描いていた通りの"演技"をプーさんがしていてくれたこと。それには監督による"魔法"があったんだ。
実際のテディベアで何テイクか撮り、そのあと、VFXチーム用に灰色で全く毛がないツルツルの人形に置き換えて撮影する。いろいろなテイクを重ねながら、映像を作っていくわけだけれど、監督が若い役者たちにそれぞれのキャラクターを演じてもらうことにしたんだ。例えば、そこにプーさんがいるとすると、プーさんのテレコを持っている俳優もそばにいて、プーさんのセリフはその人が全部言ってくれる。僕がアドリブを言っても、そのアドリブにちゃんとついてきてくれるんだ。そうした模様をVFXチームはずっと観ていて、演技を映像化に生かしてくれた。だから、僕はグリーンバックで相手の動きを想像しながら一人ぼっちで演技をする必要がなかったんだ。
ぬいぐるみの外見はどれも美しく、とてもリアルで古さもしっかり表現されていた。例えば、プーさんにはおなかのところにちょっとはげかかった小さな箇所があったりしてね。どれも30年間ずっとおもちゃ箱に入っていたような様相だったよ。
――最後に、あなたがもしプーさんだったら、クリストファーのことをどういう存在だと思うでしょう?
参ったなぁ、そんな質問、想定していなかったよ(笑) そうだなぁ...例えば、プーさんがクリストファーの家に行って、「仲間をどうやったら見つけられるかな?」って聞くと、クリストファーは「何年も森のことなんか考えなかった」なんて言ってしまうシーンがあるけど、これに対してプーさんは「僕たちはクリストファーのことを毎日考えていたよ」って言うんだよね。犬を飼っている人はわかるかもしれないけど、ご主人が出かける時にワンちゃんが玄関に居座って、相手が帰ってくるまで待っている、みたいな感覚に少し似ているかもしれない。プーさんがずっと待っていてくれる姿に無条件の愛を感じるんだよね。原作者のA・A・ミルンが自分の子どもであるクリストファーのために物語を綴ったことがこの物語のルーツなんだけど、面白いことにクリストファーはプーさんたちの父親代わりみたいなところがある。彼らが助けを必要とする時には、そこに飛んでいくというか。結果、クリストファーがプーさんたちに助けられるんだけどね(笑)
(取材・文/坂田正樹)
くまのプーさんと、大人になった親友クリストファー・ロビンの奇跡の再会から始まる感動の物語。大人になって忘れかけていた「大切なモノ」を思い出させてくれる映画『プーと大人になった僕』は9月14日(金)より全国ロードショー。
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Photo:『プーと大人になった僕』©2018 Disney Enterprises, Inc.