『The Little Drummer Girl(原題)』は、スパイ小説で有名なジョン・ル・カレの小説を原作とした全6話のミニ・シリーズ。英BBC Oneと米AMCで放送されている。70年代のスリラー小説を基にしながらも、手に汗握る愛と裏切りのそのストーリーは、全く古さを感じさせない。
♦デートと思いきや、それはスパイ面接で...
才能溢れる女優のチャーリー(フローレンス・プー)は、ギリシャ旅行中に魅力的な男・ガディ(アレキサンダー・スカルスガルド『ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~』)と出会う。しかし、ロマンスへの淡い期待を抱いたのは大きな過ち。ほどなくしてガディはイスラエルの諜報部員であることが発覚する。ロマンチックな時間のすべては、チャーリーのスパイとしての資質を推しはかるためだったのだ。
オープニングシーンでは、西ドイツのイスラエル大使の自邸に革張りのスーツケースが届けられ、大爆発を起こす。大使は難を逃れたものの、幼い息子が犠牲に。カリルと呼ばれるパレスチナ人が仕切るスパイ組織の陰謀だ。事態を知ったイスラエル側秘密組織のマーティン(マイケル・シャノン『シェイプ・オブ・ウォーター』)は、カリルの陰謀を妨害するために一計を案じる。そこで必要となるのが若い女性の存在。こうして白羽の矢が立ったチャーリーは、スパイとしての頭角を徐々に現してゆく。
♦若いエネルギーが魅せる裏切りの世界
英BBC Oneと米AMCでは、同じ著者による小説を原作としたスパイ・サスペンス『ナイト・マネジャー』が2016年に放送されている。ともに全6話構成で、著者の息子がプロデュースしているという点まで同じ。両者がよく似ていると述べる米Independentは、著名俳優陣が名所を舞台に裏切りを繰り広げ、まるでコートを着替えるかのようにパートナーを乗り換えてゆく点までそっくりだと紹介している。一方、音楽で例えるならば前作がコールドプレイであり、本作はジャズのように感じられるとのこと。70年代という舞台設定が活かされているようだ。
スパイものとしては落ち着いたトーンの本作だが、主演のフローレンスが活力を注入している。米Guardianは彼女の才能を高く評価。見事なまでに喧嘩腰のチャーリーを22歳のエネルギーと知性で魅力的に演じ、圧倒的な存在感を見せつける。本作にはアレキサンダーやマイケルなどの素晴らしい役者が揃うが、そうでなければ周囲の存在感を霞ませていたほどの輝きだと同紙は述べ、その技量を讃えている。
♦派手好き、ドラマ性重視のパク監督
シリーズの監督は、独特のスタイリッシュなディレクションで知られる韓国のパク・チャヌク(『スノーピアサー』)。Independentは、自然さよりも創作物としてのドラマ性を追求するスタイルだと紹介している。ギリシャのビーチにあるレストランのシーンでは、チャーリーとガディがテーブルを挟んで真剣な眼差しを交わす。この時、カメラは1箇所に固定したまま、ピント送りだけで会話シーンの間を持たせている。また、第1話終盤のアテネのシーンではスパイにもかかわらず神殿で大々的に活動するなど、超現実的で派手な進行でエンターテイメント性を追求する。
Guardianはパク監督について、『ナイト・マネジャー』で豪華かつスタイリッシュな画作りを披露した人物として紹介。本作も素晴らしい仕上がりで、会話もよく練られていると述べている。チャーリーはスパイ活動の世界に引き込まれてゆくが、それ以上に観客はドラマの世界に没入してゆくだろう、と同紙。現実と虚構の境界を忘れさせてくれる、よくできたドラマとの評価を送っている。
『The Little Drummer Girl』は、英BBC Oneと米AMCで放送中。『ナイト・マネジャー』作品詳細はこちら。(海外ドラマNAVI)
Photo:『The Little Drummer Girl』
Jonathan Olley/AMC/Ink Factory