奔放キャラが暴れ回るコメディドラマ『Sally4Ever』

地味な毎日を送る常識人だったサリー。郊外での退屈な暮らしに飽き飽きしたある日、偶然出会った歌手エマと禁断の関係が始まる――。米英共同制作の『Sally4Ever(原題)』は、地味な暮らしを送るサリーの性格を個性爆発のキャラクターたちが掻き乱すコメディシリーズ。英Sky Atlanticで10月下旬から、米HBOでは11月中旬から放送中。

♦フィアンセの寝ている間に

人生の全てがうまく行っていない、マーケティング担当のサリー(キャサリン・シェファード)。職場では卵をセクシーに売り込めという難題を突きつけられ、すっかり意気消沈。私生活では、退屈な郊外の暮らしと、もはや不気味とも言えるほど従順な彼氏のデイヴィッド(アレックス・マックィーン『 ダウントン・アビー/新たなる時代へ』)に嫌気がさしている。共に過ごす食事やセックスの時間もマンネリ気味。そんなデイヴィッドのプロポーズは、君はそれ以上若返ることはないから僕と結婚したほうがいい、という酷いものだった。サリーはプロポーズを受け入れるが、このまま平坦な人生が続くのかという静かな恐怖に苛まれる。

ある晩、寝室を抜け出してふとクラブに足を運んだサリーは、思うままに自由に生きる女性エマ(ジュリア・デイヴィス『ブラック・ミラー』)と出会う。歌手で女優志望という彼女は、女性のサリーから見ても魅力的な人物。アルコールの勢いも手伝ってか、デイヴィッドのことなど忘れたサリーは、情熱的な一夜をエマと過ごしてしまう。身勝手な彼女に振り回されることを快いとさえ感じ始めたサリーは、彼女と急速に親密な間柄に。凪の続いたサリーの人生が変わろうとしている。

♦徹底してコメディ

エマを演じるジュリア・デイヴィスは、本作のプロデューサーも務めている。彼女の過去作としては、キャンプに出かけた大人たちがやりたい放題にはしゃぎ回る『Camping(原題)』が有名だ。2016年のイギリス版に加え、アメリカ版が製作され、今年10月から放送されている。同作との比較において米Varietyは、キャラクターの心理描写をあえて抑えた点で本作は成功していると分析。『Camping』ではセンチメンタルな路線を目指し、コメディとしての展開が生ぬるくなる場面があった。本作ではオープニングからデイヴィッドが大声で熱唱し、足にローションを塗りたくるという奇行に出るなど、タガの外れた行動が数多く登場する。

『Camping』よりも本作の方が優れていると断言する米New York Timesは、ダークなユーモア路線をひた走っている点を好評価。前作では感傷的なムードを挿入しようと試みるも、コメディとの間でどっち付かずに終わっている感があった。本作『Sally4Ever』は人間の身勝手さと弱さをありのままに映し出しており、まるで寓話劇にも感じられると同メディアは述べている。ドラマ性を捨て、極端なキャラクター像を徹底した点で成功したシリーズと言えよう。

♦製作・出演のジュリア・デイヴィス

数あるキャラクターのなかでも最も存在感を放つのは、主人公サリーを誘惑する色気たっぷりの女優志望エマ。彼女を演じるプロデューサーのジュリアは、イギリス版『Camping』でも性に奔放な女性として登場し、バケーションに訪れた一行をカオスの渦に陥れた。彼女が製作する作品は、そのほとんどが「ソーシャル・コメディ・ホラー」だとNew York Timesは述べている。登場人物は熾烈な生存競争を繰り広げており、意のままに相手を捕食するか、あるいは餌食になるかという二択の構図に。もちろん本作のエマは捕食者だ。セクシーで魅力的なメッキは時とともに剥がれ始め、自分勝手な策略家が顔を現わす。サリーと住みたいので家を明け渡してほしい、と大胆にもデイヴィッドに要求するシーンに、視聴者は唖然とするしかない。

そんな身勝手なエマは、サリーと抜群の相性を見せる。Varietyは、二人のキャラクターは完成度が高く、多くの欠点を抱えながらも互いに惹かれ合っている関係だとコメント。いつも安定した調子でありながら、時折驚くような行動を視聴者に見せてくれる二人は、まさに最上級のキャラクターだと評価している。

図太く型破りなキャラクターが暴れ回る『Sally4Ever』は、英Sky Atlanticと米HBOで放送中。(海外ドラマNAVI)

Photo:ジュリア・デイヴィス
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