平凡な男が対テロ活動の情報屋に!? シビアな世界観と娯楽性を持つスリラー『Informer』

テロの抑制に執念を燃やす警察組織によって平凡な一般人が対テロ活動に巻き込まれてゆく英スリラードラマ『Informer(原題)』。斜に構えたキャラクターたちとシニカルな語り口が特徴的だ。11月中旬をもってBBC Oneでの全6話の放送が完結。現在は同局のストリーミングサービス「iPlayer」上で提供されている。

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◆警察に弱みを握られ、対テロにしぶしぶ協力

ロンドンに住むパキスタン系2世のラザは、ある晩に外出していたところ、ドラッグ所持の罪で逮捕されてしまう。弱みを握られた彼は警察の対テロ組織から搾取される立場に。組織に所属するゲイブたちから、警察への内通者として情報提供をするよう強要される。アーメッド・エル・アドーアと呼ばれるテロリストたちがロンドンを標的にしたテロ計画を進めているという情報があり、ゲイブたちは凶行を阻止しようと躍起になっていた。

ラザに与えられた任務は、市民レベルの情報提供者として周囲の情報を嗅ぎ回るというもの。友人・隣人を監視し、怪しい人物の行動を逐一警察に密告することが求められる。信念に反する行動を強いられたラザは傷つき、大切な友人の信頼も失ってゆくことに。さらに、一見任務に忠実なゲイブは、何らかの過去を隠している様子で......。

テロ防止のため、しぶしぶ諜報活動に加わることになった一般人のラザ。まるでドキュメンタリーのように感じられるが、あくまで架空の物語だ。演出にはドラマならではのテクニックがいくつも盛り込まれており、不完全な情報の断片をあえて挿入することで視聴者の興味を引く手法もその一つ。例として英Guardian紙は、第1話冒頭の流れをピックアップ。ここではコーヒーショップでの派手なテロシーンが展開した直後に、1年前の場面にバトンが渡されるという編集になっており、その後に始まる本編との関連は謎に包まれたままだ。このようなミステリアスな展開が視聴者の興味を引きつける、と同紙は評価している。実録もののようなリアルなビジュアルと、娯楽作品としてのエンターテイメント性。双方をいいとこ取りした一本だと言えそうだ。

◆シニカルで魅力的なキャラクターたち

テロリストとの情報戦が展開する本作は、身近な人物の発言さえ信用できないという殺伐とした世界観に彩られている。そんな世界に生きる人々を演じるのが、新鋭の主役を含む優秀なキャストたち。非常に力強い演技を楽しむことができる、とGuardian紙は太鼓判を押す。生意気な演技が光るラザ役のナバーン・リズワンは時として鼻につくが、それでいてチャーミングという不思議な魅力を放つ。ゲイブ役のパディ・コンシダインは普段通りの名調子で、この世の中に失望した巡査部長を好演。脇役もレベルが高く、囚人役で登場するロジャー・ネンジアムバは特に目を引く。敵味方の区別がはっきりとしない陰鬱とした世界にもかかわらず、登場人物が引き立っていることで、興味を引く魅力的なスリラーだと同紙は評価している。

キャラクターの多くが気難しいことも本シリーズの特徴。一癖も二癖もある彼らは、『ハリー・ポッター』のハグリッドや、『ユージュアル・サスペクツ』のカイザー・ソゼ、そして『マトリックス』などに通じるものがある、とTelegraph紙。劇中のセリフには、そのまま格言にできるような皮肉の効いた名台詞も多い。

ありふれた男が他人を信用できない世界に巻き込まれる『Informer』は、英BBCのiPlayerで英語版が配信中。(海外ドラマNAVI)

Photo:パディ・コンシダイン
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