『ナルコス:メキシコ編』マイケル・ペーニャ&エリック・ニューマン(プロデューサー)直撃インタビュー

「麻薬密売人」を意味するNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』最新作『ナルコス:メキシコ編』。コロンビアのエスコバルを追ったシーズン1と2に続き、メキシコ編ではコロンビア・カルテルのあとに台頭したメキシコで初めての麻薬組織グアダラハラ・カルテルが描かれる。

そんな本作でDEAエージェントのキキ・カマレナを演じるマイケル・ペーニャとプロデューサーを務めるエリック・ニューマンを直撃インタビュー! Netflixアジア初のイベント「See What"s Next: Asia」に登場したお二人に話を伺った。

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――『ナルコス』の続編を作ることへのプレッシャーはありましたか?

エリック:どんな作品でも続編というのは難しいんだ。そもそも、続編が作られるのは、第1作目が成功したからだよね。だからこそ前作と同じレベル、またはそれ以上が期待される。最初からそういう課題が付き物なんだ。本作の場合は、はじめからコカインをめぐる物語を継続して語ることが作品の目的だった。作品のテーマはパブロ・エスコバルでもなければコロンビアでもない。ドラッグがテーマなんだ。現実に、ドラッグの拠点はコロンビアからメキシコに移ったし、それが我々のストーリーにも反映されている。プレッシャーはいつも感じるよ。毎年のことだね。私たちはいつも、視聴者に楽しんでもらえて、どれほど力を注いだのかがわかってもらえる作品づくりをしたいと考えているんだ。ある時点でプレッシャーを手放して、とにかく番組作りを進めていくことが重要だよ。とても満足しているよ。今回のシーズン4が今までで一番出来のいいシーズンだと思っているよ。

マイケル:彼はね、僕がここにいるからそう言っているだけだよ。

 

エリック:その通り(笑)

――出演するにあたり、これまでの『ナルコス』はご覧になられましたか? メキシコやアメリカでは知られた人物を演じること、そして既に大ヒットしているシリーズの続編に出ることにプレッシャーは?

 

マイケル:エリックが言ったように、プレッシャーはもちろんあったよ。実在した人物を演じるわけだからね。それと一度、(僕が演じるキキ・カマレナ)の奥さんであるミカ・カマレナと(マット・レッシャーが演じる)ジェームズ・"ハイメ"・キューケンドールにインタビューしたことがあるんだけど、それでさらにプレッシャーは増したね。話していて、正しく演じて欲しいという思いが伝わってきたから。願わくは、人の家族を傷つけるようなことはしたくない。だからそのプレッシャーはあったよ。

 

4年前にエリックからキキ・カマレナの話を聞いて、これは素晴らしい役どころだと思ったんだ。役者としてぜひ演じてみたい人物だと思ったよ。でも、当時『ナルコス』は見ていなかったんだ。子どもがまだ6才だったから、ピクサー映画とか『ドーラといっしょに大冒険』とか、そういうのばかりを見ていたから、『ナルコス』の世界とは別の場所にいたんだ。でもその後シーズン1の第1話と第2話を見て、すぐにエリックに電話をかけたことを覚えているよ。そして「キキの物語はやるべきだ。絶対に実現させよう」と言ったんだ。このシリーズは、ほとんどの映画よりも、中南米という本質を見事に捉えていると思ったからね。

何というか、雰囲気や感情といったものだね。いかにもアメリカ人っぽい言い草かもしれないけど、中南米の雰囲気なんだよ。ストーリーテリングも素晴らしいし、俳優陣の演技も最高だった。舞台をメキシコに移すのは、非常に野心的なことだと思うよ。でもこの挑戦についての何かが、僕にはすごく魅力的に思えたんだ。

――本作の役作りにあたって、ご自身の私生活や自分自身の要素をキャラクターに取り入れましたか?

マイケル:ううん。うーん、どうだろう。それについてはよくわからない。ただ、自分とキャラクターの間に類似点を見つけようとはしたね。それと脚本は、特に最初のエピソードは何度も繰り返し読んだのを覚えているよ。いつも間違えているように思うんだ。「なぜなんだ? なぜこの男の演じ方が僕にはわからないんだ?」ってね。それでどうやったらこの役を演じきることができるのか、という疑問に少し取り憑かれているっていう感じだった。どうやったらうまくいくんだろうって。

 

でもミカとジェームズと話した後に、「そうか、キキの望むことはこれだったか。彼ならこうするだろう」というひらめきがあった。キキは、"どうやって実現させるか"、"どうやったらうまくいくか"という考えで頭がいっぱいだったと思うんだ。だから、その部分を取り入れた。それはまるで、僕自身が必死にキャラクターについて考え、役作りをする様子を模倣しているかのようだったよ。そんなことをしたのはほぼ初めてだったね。

スタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』に関するドキュメンタリーで、キューブリックが常に自問している、疑問を投げかけているといったくだりがあって、それがとてもかっこいいと思ったんだけど、僕も自問するし、それに監督や、特に脚本家にもよくいろいろ聞くんだ。彼らのキャラクターに対する見方についてね。自分にとってはそれが何より興味深いから。特にその相手のものの見方を尊敬している場合は、その視点を真似ることでそれをできるだけ現実に持ち込みたいと考える。そうすることで、自分のいつものやり方とは違う意外性が生まれるからね。そう、それによって緊張もするし、気楽ではないけれど、それが好きだったりもする。うまく表現できないけど、それが演技にエネルギーを注入してくれるというか、たとえば午前3時に撮影していても演技に活力が出るんだ。それは居心地が良すぎないから、自分で安心しすぎないようにしているから。自分にとって最悪なのは、完全に安心しきってしまうことだね。そうなったとき、演技がどこかつまらないものになってしまうから。

――世界で広がる深刻な問題をドラマ化することで、社会にどのような影響を与えられると思いますか?

 

エリック:世界がTVやインターネットを介して少なからず小さくなったことで、人々は予想以上に共通点が多いことに気がつき始めたと思う。残念なことに、世界中で共有している問題の一つがドラッグの蔓延だ。世界中どこに行っても、ドラッグが存在する。東京でもシンガポールでも、ベルリン、ニューヨーク、メキシコ、どこにでもコカインがあるよね。国によってその規模に差があるとは思うけど。我々は、警察や軍事行動を通してドラッグの蔓延と戦っているけど、このやり方では到底打ち勝つことはできないんだ。ドラッグ問題は医療危機だからね。戦うべきは、コカインではなくその依存症なんだよ。問題なのはコカイン自体ではない。問題は、アメリカが違法ドラッグの世界最大の市場になっていること、ひいてはドラッグに対する過大な需要だ。もちろん、すべての国がドラッグの市場になり得る。そして需要がある限り、供給は止まないだろう。

 

ここ数年、この作品を手がけてきた中で私が学んだこと、そして本作、特に今シーズンを通して視聴者に伝わって欲しいと願っていることがあるんだ。というのも、戦争を通してドラッグを打ち負かそうというような、軽率で誤解を生みそうなキャンペーンを目にし始めたからなんだけど...。現実には、ドラッグに対して戦争を仕掛けたら、その時点で負けが決まっているんだ。だから、現実がそうであるように、本作のストーリーは延々と続く可能性がある。今回のシーズンは1980年代前半のメキシコが舞台となっているけど、今現在、2018年になってもメキシコは同じ問題を抱えているし、アメリカも同じ問題を抱えている。むしろ実際のところ、問題は悪化しているんだ。

――それなりに危険やリスク要因のあるこのシリーズへの参加を決める前に、ご家族に相談されましたか?

 

マイケル:うん、家族には相談したよ。確かにアメリカ人がメキシコに行くわけだけど、Netflixは前作でも経験があり、ちゃんと面倒を見てくれると言っていたから。最初のメキシコ行きは家族も一緒だったけど、とてもいい雰囲気で、セキュリティーもちゃんとしていたし、ちょうどいい数の警備の人たちがいたんだ。まさに適切な警備の状態だね。違和感なく現地に溶け込めて、散歩に行くこともできたよ。ブランコというところに滞在したんだけど、素晴らしい場所だった。それに考えてみれば、メキシコ人の9割はいい人たちで、ニュースになるような人は1割でしかないからね。僕たちはそのことをよくわかっているんだ。とはいうものの、同時に常識を働かせる必要もある。世界のどこだろうと、治安が悪いと知られている場所にわざわざ行くことはしないよ。とにかく、メキシコで過ごした時間はとても楽しいものだったよ。ある時点では道を封鎖しなければならなかったから、それを利用して道路でサッカーをしたりもしたよ。普段そんなことはなかなかできないからね。

――撮影中、一番大変だったシーンは?

マイケル:正直なところ、最初のいくつかのエピソードは大変だった。役について自分なりの解釈があるから、それに添おうとすることがちょっとした妨げになったんだ。その解釈を実践したいけれど、どうすればいいのだろうかって自問するから。本当は、もっと具体的に考えなければいけないんだけどね。だから、撮影の最初の1カ月はそんなことをずっと考えていて。様々なアイデアを演技で試していたね。色んなシーンを演じながらも、キキという人物を完全に把握できていなかったと思う。でもその後、キキをまた新たな場所に連れてきたのだから、きっとそれでいいんだと思うようになった。彼自身もどう振舞っていいのかわからなかったから。彼自身、何もわからなかったんだよ。キキがメキシコにいたのはただの偶然だ。キキはアメリカ人で、メキシコの事情をわかっていなかった。だから、ジョセフや監督たちが、僕に「その困惑した表情をもう一度やってくれ」と言ったのを覚えているよ。その調子でいいって。僕は演技していたというよりも、それが素の表情だったっていうね。それが幸運なことにうまくいったようなんだ。

 

Netflixオリジナルシリーズ『ナルコス:メキシコ編』は独占配信開始。

(取材・文/編集部AKN)

Photo:『ナルコス:メキシコ編』