Netflix『1983』レビュー ポーランドの「もしも」を描く陰謀系サスペンス

全世界で1億4000万人近い加入者数を誇るNetflixは、オリジナルシリーズに力を入れており、そのラインナップの優秀さには目を見張るものがある。今回とりあげる『1983』は、Netflix初のポーランド語オリジナルシリーズで、11月30日(木)より配信中の歴史改変スリラーだ。

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1991年に『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』でアカデミー賞脚色賞にノミネートされたポーランド出身のアグニェシュカ・ホランドを含む、ポーランドを代表する4人の監督がメガホンを取った、緊迫感あふれる陰謀サスペンス『1983』。東欧ポーランドらしい重厚で芸術性の高いシリーズだ。

脚本を担うジョシュア・ロングは、本作が脚本家デビューとなり、プロデュースと出演も担っている。製作は、ザ・ケネディ/マーシャル・カンパニーで、同じく陰謀系サスペンスの『ジェイソン・ボーン』シリーズを製作しているアメリカの製作会社。

◆もしもポーランドの自由化が行われなかったら

1983年のポーランド。政府の社会主義政策に抵抗する若者たちのグループ「連帯」と警察が抗争を続けるなか、国内の主要都市で大きな爆発が相次いで起こった。そのテロ攻撃により、「連帯」の動きは封じられた。

それから20年後の2003年。ポーランドはソビエト連邦の統治下にある。ワルシャワで暮らす若く優秀な法学生のカエタンは、真実を追求しすぎたために汚名を被った刑事アナトールに出会う。アナトールから大学の恩師の死の知らせを聞いたカエタンは、人の手で作られた法による正義よりも高尚なものは、真実である、という恩師の最後の言葉を受け止め、アナトールがかつて担当していた事件を調べ始める。そして二人は、テロ攻撃からの20年間の平和と繁栄は見せかけであり、権力者たちに秘密の計画があることを知ることになる――。

◆三者三様に楽しめるオルタナリアリティの世界

実際の1983年は、ポーランドで戒厳令が廃止され、民主化運動が進んだ年。そして、1989年には非社会主義政権が樹立されている。

しかしこのドラマの中のポーランドでは、民衆はいまだ国家警察に支配され、言動や表現の自由は認められていない。オルタナリアリティをテーマとしたドラマではそういった現実との違いに焦点が当てられがちだが、本作では物語の背景に徹している。犯罪ドラマが前面に打ち出されており、実在したソビエト連邦や連帯を絡めながら歴史をドラマにうまく織り交ぜ、とても興味深い構成になっていると、米DECIDERは分析する。

反対に、歴史や現在の政治と離れていることを米The New Republic誌は残念に思っているようだ。かつて、オバマ大統領を表紙に冠したこともあるThe New Republic誌は、政治に対して積極的にコメントを出す。現在、ポーランドでは与党の強権化が進み、裁判所の権限を大幅に制限する法案が通過。メディア法も改正されて、政府が公共放送メディアに関してはトップを任命・罷免する権利を持つ。そのため、現在のポーランドのこの状況に比べると、ドラマの「ソビエト連邦の脅威」などはチープな脅威に見えるというわけだ。「とても素晴らしいドラマだが、ただ一つ欠点を言えば、現在ある脅威との繋がりのなさである」と述べ、「とてもよく作られているし演技も素晴らしいが、もっと本当の悪役が必要である」とレビューを締めくくっている。

ポーランドは、一度地図上から消滅した歴史を持つ国である。暗い過去を背負っていることを知っている視聴者は、その歴史と比較しながら...全体主義に傾いている現在の状況を憂いている視聴者は主人公とともにその苦悩に悩みながら...そしてサスペンスファンの視聴者は緊張感あふれる展開に手に汗握りながら...三者三様に楽しめるドラマと言えるだろう。

Netflixオリジナルシリーズ『1983』は現在配信中。見た後はこちらの海外ドラマNAVI作品データベースで視聴記録をつけよう!(海外ドラマNAVI)

Photo:Netflixオリジナルシリーズ『1983』は独占配信中。
(C) Krzysztof Wiktor/Netflix