19世紀に女中として働く奴隷の半生を綴った『The Long Song(原題)』。BBC Oneで12月中旬に3夜連続で放送されたミニシリーズだ。イギリスの小説家、アンドレア・レビーの著書を原作としている。同書は2010年、世界的に権威のある文学賞・ブッカー賞にノミネートされている。
♦農園主の親族に連れ去られた少女
19世紀、ジャマイカ。女中として仕え奴隷生活を強いられているジュリー(ドナ・クロール)は、主人であるキャロライン(ヘイリー・アトウェル)の傲慢な仕打ちに日々振り回されている。幼い日、サトウキビ畑で母親と農作業に精を出していたところを、通りがかったキャロラインに誘拐も同然に連れ去られたことが不幸の発端。以来、成人した今も、キャロラインの所有物として扱われる毎日だ。大規模農園主を兄に持つ富豪とあって、キャロラインは至って身勝手な振る舞いが目に付く。
ある年のクリスマスの夜、農園の西で争いが起きたことから、農園の男たちはその鎮圧に駆り出される。続いてキャロラインも安全な場所に避難するために屋敷を去り、ジュリーたち奴隷だけが残されることに。主人たちのいない広大な土地で、生まれて初めての豪華なクリスマス・ディナーを楽しむジュリー。だが、想像を絶する不幸の足音が近づいていた。
♦希望の先に、絶望
途方もなく痛ましいシーンが立て続けに起こる、とGuardian紙は本作の悲壮な展開を強調している。クリスマスの晩餐の途中で急遽呼び出されたキャロラインの留守に、ジュリーは生涯初めての温かいクリスマス・ディナーを堪能する。想いを寄せるニムロッド(ジョーダン・ボルジャー)と一晩をともに過ごせるとあって、彼女の胸は高まる。しかし、ここから彼女の運命は急転。農園主が寝室で自殺し、偶然居合わせたニムロッドに殺人容疑がかかってしまう。ニムロッドは処刑を免れようとするが、最終的には命を落とすことに。言葉を失うジュリー。さらには死んだと思っていた母と再会するも、ジュリーをかばって処刑されるという痛ましい展開が待ち構えている。
観ていて胸を締め付けられるような本作。人間性への冒涜とサディズムを描いたドラマだ、と表現するのはIndependent紙。シリーズ全体を通じて涙を誘うと述べている。少女時代のジュリー(タマラ・ローレンス)は母親から力づくで引き離され、農園に奴隷として連れ去られる。しかも、彼女の母も、キャロラインの兄である農園主にレイプされている。同紙は主人・キャロラインの身勝手さと残虐さに触れ、奉公を強制されるジュリーの不幸な運命に同情を寄せている。
♦名演技で19世紀の制度をリアルに再現
奴隷制度の時代を生きた少女の悲惨さが胸に響くが、キャストの実力がその感傷的なムードを裏打ちしている。少女時代のジュリーを演じる子役のタマラをGuardian紙は絶賛。ジュリーから溢れ出る感情と知性を余すところなく表現している。また、気まぐれかつ暴力的な主君に抑圧されている苦しみが滲み出る。キャロライン役のヘイリーも、暴君としての非常にリアルな演技が圧巻。横暴さを誇張しすぎるとまるで皮肉のように感じられてしまうものだが、そうした失敗に陥っていないと同紙は感嘆する。
当然ながら、成人したジュリーも見所だ。20歳になった彼女について、その主人よりも知性と道徳観で一枚上回る人物だとIndependent紙は見ている。行動を見ていれば彼女の聡明さは明らかであり、特に解説の必要はないとする。メイドの立場でありながら、主人を尻に敷くことさえできるのだとうそぶくセリフに、自立した彼女の心構えが表れている。
奴隷でありながら聡明なジュリーを思わず応援したくなる『The Long Song』は、現在BBCのストリーミング・サービス「iPlayer」でイギリス国内向けに公開中。(海外ドラマNAVI)
Photo:ヘイリー・アトウェル
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