実際に起きた連続殺人がモデル『ロンドン警視庁コリン・サットンの事件簿』

英ITVが贈る『ロンドン警視庁コリン・サットンの事件簿(原題:Manhunt)』は、イギリスで実際に起きた犯罪がモチーフのクライム・スリラー。ロンドン市警のコリンが、連続殺人鬼・リーバイの凶行を暴く。1月6日から3夜連続で放送され、コメディ俳優・マーティン・クルーンズの真摯かつ温かな演技が評判を呼んだ。

単純な傷害致死事件 背後に連続殺人鬼の影

事件の発覚は2004年に遡る。この年、テムズ川西部の公園で、フランスからの留学生・アメリが頭部をハンマーで殴られた状態で発見され、間もなく死に至った。誰もが深刻な事件とは受け止めなかったこの一件だが、市警のコリン警部(マーティン)による執念の追跡が実を結び、連続殺人鬼による凶行の一環であったことが判明する。殺人鬼のリーバイ(ケリン・ジョーンズ)は以前にも、当時19歳のマーシャや13歳のミリーなど、複数の若い女性に暴行を加え死に至らしめていた。捜査チームは現場近くで目撃された一台の車に注目。一般市民からの情報提供やプロファイリングなどを活用しながら、リーバイを追い込んでゆく。

ディテールに富む、温かみのある作品

本作で注目したいのは捜査シーンのディテールだ。遺体を覆い隠す白いテントがリアリティを出すと同時に、背後では捜査員たちが芝生をかき分けながら入念な検証を進めている。刑事ドラマとしても入念な部類に入る描写に、Guardian紙は舌を巻いている。被害者家族の心理描写も巧みだ。フランスから呼び寄せられたアメリの母は事件現場に通されると、血の染みた芝生にそっと掌を重ねる。救いなどどこにもないのだ、と同紙は犠牲者の家族を慮る。

コリンの見せるスリルある捜査シーンはTelegraph紙にも好評だ。小児愛者の傾向もあるという殺人犯を追い詰める様子が楽しみだ、と同紙は期待を寄せている。本作の巧みな表現は、コートを脱いだコリンの私生活でも輝く。妻・テルマ役のクローディー・ブレイクリーは素晴らしく、温かな家庭のシーンを通じてますますコリンへの共感が強まる、と同紙。警部にとって唯一の安らぎの場所である家庭でのシーンは、人間的な温もりを感じさせてくれる。

コメディ俳優が初の刑事役へ

実力派の警部を演じる主役のマーティンは、実はコメディ俳優としての顔が有名だ。2004年から続く『ドクター・マーティン』シリーズでは、血が苦手という理由で外科医から町医者に転向した男をコミカルに演じている。一方で2015年には、英BS局製作の『推理作家コナン・ドイルの事件簿』で探偵役に抜擢された経歴も。

喜劇俳優のマーティンだが、本作で役柄を一変した、とTelegraph紙は紹介。家庭を愛する控え目な警部という役どころだ。職場では捜査の指揮を任されて大喜びするが、やがて連続殺人事件という壮大な全貌に気づき、怯えたようにも見受けられる。徐々に士気を取り戻してゆく静かなヒーローを応援したい。

平凡な刑事が大規模な捜査の責任者に任命される物語だ、と紹介するのはTelegraph紙。コメディで培った軽いタッチはそのままに、従来作よりもピリッとした実話ベースのクライム・サスペンスで、演技の新境地を切り開いた。緊張を和らげようとした部下が「警部は人並みにやっていますよ」と声をかけると、「その程度とはガッカリだな」と応じるなど、クスリとした笑いもドラマの見どころだ。

そんなマーティンがロンドン市警の指揮を執る『Manhunt』は、全3話が英ITVで放送済み。同氏のメディカル・コメディ『ドクター・マーティン』に興味を持った方は、日本からも最新のシーズン8までをNetflixで視聴可能だ。(海外ドラマNAVI)

Photo:マーティン・クルーンズ
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