英BBC Oneで放送中の『Baptiste(原題)』は、ゴールデングローブ賞にノミネート歴のあるミステリー『ザ・ミッシング』シリーズのスピンオフ。重厚な謎解きが売りの本家とは路線を変え、スリラー色を強化した作品になっている。
♦︎風俗街から消えた女性
本家シリーズは『消えた少年』と『囚われた少女』の2シーズンをWOWOWでも放送済み。両失踪事件で活躍した老練のフランス人元警部ジュリアン(チェッキー・カリョ)が、本スピンオフで主役を務める。やり手だが偏屈というこのキャラクター性も楽しみの一つだ。
作品冒頭では、オランダ・アムステルダムの風俗街から、若い女性のナタリー(アンナ・プロクニャック)が失踪。現地署長のマーサ(バーバラ・サラフィアン)から、オランダで引退生活を送るジュリアンの元に、捜査への協力依頼が舞い込む。マーサとは元恋人同士という複雑な関係だ。
捜査を進めるうちに、事件の背後にルーマニア人ギャングの存在が浮上。凶悪犯と対峙する警部ジュリアンの唯一の相棒は、パニック障害を患うナタリーの叔父エドワード(トム・ホランダー)のみと心許ない。ジュリアン自身も脳腫瘍の手術後という不安定な状況のなか、難事件に立ち向かう。
♦︎名物刑事が再登板
スリリングで観応えのあるスタートとIndependent紙。冷静沈着な刑事を演じるチェッキーを中心に、如才ない連続ドラマを構築していると賞賛。腕の立つジュリアンは、さながらアガサ・クリスティの著作に登場する名探偵ポワロの現代版だ。妻(アナスタシア・ヒル)とともに引退後の余生を謳歌していたが、事件の報を受け、居ても立っても居られずに捜査に飛び出してゆく。
主演チェッキーのほかには、脇役を演じるタリサ・ガルシア(『Silent Witness(原題)』)が興味深い。45歳の彼女は、ナタリー失踪の鍵を握る女性キム役で出演。彼氏と同棲しているが、その彼はキムが元男性だという過去を知らないという設定。女優のタリサ自身も、28年前に性適合手術を経て女性の身体となった。一見して元男性だとはわからず、その容姿も今回の役に抜擢された要因の一つだとSun紙は伝えている。トランスジェンダー役には筋肉質な女性が求められがちだが、本作のオーディションではそうした固定観念を破る選考が行われた。チリ生まれのタリサは孤児だったところを救われたが、少年の体に馴染めず13歳の時には自殺も考えたという。自ら経験した複雑な感情をキム役にぶつける。
♦︎サスペンスに重点
重厚な謎解きで魅了した本家『ザ・ミッシング』と比較すると、本スピンオフは非常に早いペースで事件の全貌が明かされてゆく。本家ほどはジュリアンの天才性を強調していないとIndependent紙は紹介。謎は軽やかに解き明かされ、その分サスペンス要素が強化されている。失踪事件の糸を追うジュリアンは、人身売買を行い、裏切り者の口封じも厭わないという残虐なギャングに行き着く。捜査陣の存在を知ったギャングは次第にジュリアンと妻に興味を持つように。
背筋の凍るサスペンスに惹かれたのはiNews紙も同様で、観終わった後は検針員が訪ねてきても決してドアを開けたいとは思わないだろうと綴っている。予想外のヒネリに溢れており、緊張感のある注目のシリーズだ、と同紙。ダークな秘密、幸せな家庭をむしばむトラウマ、そして見知ったはずのキャラクターが見せる予想外の性格と、背筋の凍る展開が待っている。
多彩な役者で贈る『Baptiste』は、2月中旬から英BBC Oneで放送中。本家『ザ・ミッシング』はAmazon PrimeVideoで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:
トム・ホランダー(C)Tom Rose