【日本未上陸】リチャード・ギア主演『MotherFatherSon』、政界とマスコミの駆け引き描くサイコスリラー

今年2月に第2子が誕生したことでも話題となった69歳のリチャード・ギアが、30年ぶりにTVドラマの世界に帰ってきた。マスコミ界の頂点に立ちながら、その家庭生活は崩壊寸前という役どころ。ファン待望の『MotherFatherSon(原題)』が3月上旬から英BBC Twoで放送されている。

♦︎メディアと政界を牛耳る男

マスコミ界の重鎮マックス(リチャード・ギア)は、社内にも政界にも絶大な影響力を誇る人物。お決まりの無表情で社内を闊歩するたび、あらゆる部署の社員を恐怖で震え上がらせる。5年に一度行われるイギリスの総選挙が近いことから、ロンドンを訪問中のマックス。「首相を選びに来たのか、それともご子息と話しに来たのか」と側近のローレン(ピッパ・ベネット=ワーナー)に問われ、「その両方だ」と答える。

はじめに彼が足を運んだ先は、息子ケイデン(ビリー・ハウル)がオーナーを務める英紙「ナショナル・レポーター」の社屋。まだ若いケイデンは、一大新聞企業を取り仕切るのに十分な実力がなく、コカインを吸っては現実逃避を繰り返している。オフィスを訪れたマックスは、ここでもマイクロマネジメントと尊大なスピーチを披露。続いてマンチェスター郊外まで足を伸ばし、野党総裁との会談に臨む。総選挙で逆転を狙う総裁に対し、肩入れしても良いというマックスだが、それには条件があるようだ...。

♦︎殺人、スリラー、家族関係...ぎゅっと詰まったプロット

携帯のハッキングに端を発する殺人ミステリーから緊迫の政治スリラーに至るまで、さまざまなジャンルの特色を持つ本作。数多くのプロットを盛り込んだ貪欲な作品だと英Guardian。壮大さに心奪われる作品で、大いに楽しんで観ることができた、と同メディアの評価は高い。『女医フォスター』並みの思わぬサプライズが待っており、気が抜けない展開だ。

ストーリーのもう一つの柱は、傲慢なマックスの態度からは想像もつかない家庭環境。政治家さえ手玉に取る彼だが、その私生活は破綻寸前。元妻のキャサリン(ヘレン・マックロリー)とは言い争いが絶えず、息子ケイデンはコカイン中毒という状況。しかしその発端はマックスの彼らに対する厳しい態度が原因。そんな中、ケイデンが脳卒中で倒れ、極めてリスクの高い手術を受けることになる。冷めきった家族に絆は戻るのか、家族愛の行く末にも注目したい。

♦︎メディアからも高評価

マスメディアの重鎮を扱った作品は、本作だけではない。米HBOの『キング・オブ・メディア』は、メディア帝国を支配する一族が引き起こす醜い後継者争いを描く社会派ドラマだ。だが本作は、大物キャストの起用によって差別化に成功しているとGuardianは分析する。リチャード扮するマックスは、冷淡なだけでなく、どこか惹きつけられる魅力を感じると賞賛。英Telegraph紙も、妻役のヘレンと並び、当然ながら非の打ちどころがない、とリチャードに賛辞を贈っている。

自らの役どころについてリチャードは、シェイクスピア作品の大胆な新解釈を試みたオーソン・ウェルズ監督による映画『市民ケーン』の主人公ケーンを感じさせると語る。同作のケーンは権力の虜となった新聞王であり、まさにマスコミを取り仕切るマックスと重なる。

メディア界の頂点に君臨する崩壊寸前の家族の物語『MotherFatherSon』は、英BBC Twoで放送中。現時点では英国内での放送だが、日本登場を楽しみに待ちたい。(海外ドラマNAVI)

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リチャード・ギア
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