【日本未上陸】天安門事件の"あの男"を探せ! 気鋭の劇作家が問う野心作『Chimerica』

英チャンネル4にて4部構成で放送の『Chimerica』は、現在と過去を往来しながら展開する社会派ヒューマンドラマ。世界の演劇界を激震させた若き劇作家が、アメリカと中国という巨大なテーマに挑んだ話題作だ。

スリリングな展開で魅せる社会派ドラマ

物語の幕開けは1989年の北京。民主化を求めて抗議する大勢の市民が、天安門広場で中国軍と激突していた。現場に居合わせたフォトジャーナリストのリー・バーガー(アレッサンドロ・ニヴォラ)は、ひとりの男をカメラにおさめる。買い物袋を両手に下げた男が戦車の前に立ちはだかるこの写真は、「タンクマン(戦車男)」として世界に衝撃を与えた。

2016年。アメリカではトランプ対クリントンが大統領選で火花を散らしている。戦場ジャーナリストとして活躍してきたリーは、シリアで撮影した写真が不正に画像処理されてメディアに掲載されたことがきっかけで、激しく葛藤する。そんな折、中国人の旧友ジャン・リン(テリー・チェン)から「タンクマン」の消息に関する話を聞いたリーは、「真実」を追い求めることを決意する――。

中国社会の描き方が絶妙だと話題に

原作は2013年に初演された戯曲で、演劇界最高といわれるローレンス・オリヴィエ賞にて最優秀新作プレイ賞など5部門を受賞。脚本家のルーシー・カークウッドは、過去作「チルドレン」もすでに世界的に評価されている若手実力派で、日本でも2作品とも上演済みだ。

カークウッド作品の魅力は、機知にとんだ会話劇と、重層的に入り組んだ骨太の物語にある。本作はアメリカと中国という最大規模の題材に取り組んだことでも評判となった。Telegraph紙は、本作を「大胆な地政学的スリラー」だと称賛。とくに、トランプ氏を支持する中国人企業家まで描くなど、中国社会の微妙な描写が野心的だとした。この点は、各種レビューサイトでも「欧米中心の視点を脱した」と評価する声が目立った。

なお、「タンクマン」は実在した人物で、彼を写した写真や映像は民主化運動のシンボルとなったが、正体はいまも謎のまま。ドラマではどう突き止めていくのか見ものだ。

写真に撮られた瞬間はたったひとつの「真実」か?

タイトルの『Chimerica』はChinaとAmericaを合わせた造語で、二者の敵対的な共依存関係を表しているという。また、怪物的な二種合成体「キメラ」ももじっている。劇中では、若者と中年、個人と国家、オールドメディアとネットメディア、アメリカと中国、虚と実...といった対比で示されていく。

英Guardianはこの対比テーマについて「個人と政治」が驚くほど知的なバランスで描かれていると5つ星の高評価をつけた。さらに、「タンクマン」はおそらくほかにもいたであろうとし、悪に対して個人が立ち向かうべきだというメッセージを読み解いた。

物語が進むうちに、トランプ政権以降、フェイクニュースが蔓延して憎悪がふくれあがる現実世界が視聴者に突きつけられてくる。物語(ドラマ)をメディアと位置づけて真実の意味を問う、実に意欲的な作品だ。(海外ドラマNAVI)

Photo:

アレッサンドロ・ニヴォラ©NYKC
テリー・チェン©NYKC/FAMOUS