『ER』ノア・ワイリーが夫を射殺された遺族を熱演 人種問題に議論を投げかける『レッドライン ~悲しみの向こうに』

90年代に世界中でブームとなった『ER 緊急救命室』への出演で知られるノア・ワイリーが、4月末から放送された米CBSのミニシリーズ『レッドライン ~悲しみの向こうに(原題:The Red Line)』で主演に。タイトルのレッドラインとは、舞台となるシカゴを走る鉄道のこと。都市に住む3つの家族の視点を通じ、人種問題とあるべき正義の姿について議論を投げかける。

黒人誤射、またしても

シカゴに住むハリソン(コリー・レイノルズ『クローザー』)は、アフリカ系アメリカ人のドクター。夜勤を終えて病院から帰る途中、コンビニ強盗の現場に遭遇してしまう。傷を負った店主を介抱しようと賊の逃走後にレジに駆け寄るが、そこへ白人警官ポール(ノエル・フィッシャー『シェイムレス 俺たちに恥はない』)が到着。フード姿のハリソンを強盗だと誤認したポールは、丸腰のハリソンを問答無用で射殺する。

ハリソンの死後、後に残されたのは夫のダニエル(ノア)と養子の娘ジラ(アリヤー・ロイアル『Major Crimes ~重大犯罪課』)。自身も黒人であるジラは、白人警官に黒人の父親を殺害されたことに傷心。白人の父ダニエルには心情を到底理解できないだろうと距離を感じ、生みの母親との再会を切望するようになる。養子のジラに母親の情報は開示されていないが、奇しくも母ティア(エマヤツィ・コーリナルディ『ハンド・オブ・ゴッド』)は警官による射殺を食い止める政治キャンペーンに取り組んでおり...。

正義とは何かを問いかける

白人警官による黒人への先入観と射殺事件はアメリカでたびたび大きな問題になっており、本作はそのテーマに明確にフォーカスしている。人種と正義をめぐるミニシリーズだとWashington Post紙は紹介。シカゴ連邦検察庁はハリソンを射殺したポールを殺人罪で起訴せず、ポールは何事もなかったかのように職場に復帰する。実は同僚のヴィク(エリザベス・レイドロー『シカゴP.D.』)がコンビニの防犯ビデオの映像を秘密裏に消去したことから、証拠不十分で不起訴に。人種への偏見に加え、警察による不正にも警鐘を鳴らすシリーズだ。

Chicago Sun-Times紙も、無実で武装もしていない黒人の男が白人警官に撃ち殺される、と事件がいかに理不尽かを強調する。フードを被った黒人というだけで危険人物と認識され射撃の対象となるが、絶命し崩折れたハリソンの所持品からは銃一丁発見されない。恐怖を感じるシーンだが、残念なことにシカゴに住むアメリカ人にとっては見慣れたシーンでもある、と地元の同紙は述べている。現実の悲劇を思い起こさせる筋書きだけに、視聴者の心に深く響くのだろう。

ノア・ワイリーの芝居に酔いしれる

ハリソンに先立たれた夫ダニエル役には、『ER 緊急救命室』のノアを迎える。海外ドラマブームの一翼を担った同作でノアは、研修医から国境を越えて活躍する医師にまで成長するジョン・カーターを熱演。印象的な演技と甘いマスクでファンを虜にした。

本作では夫の逝去に大胆に泣きじゃくり、そして憤怒に燃えるノアの姿を堪能することができる。ノックアウト級のパフォーマンスだ、とWashington Post紙は絶賛。怒りに感情を支配されながらも、遺された子どものためにも立ち直ろうと模索する姿が心に残る。感情爆発のエネルギーと同時に、品位と威厳を感じさせる演技は一見の価値ありだ。

養子の娘ジラはノア演じる父親を慕っているものの、人種の壁を感じ、この事件後は白人の父への心情の変化を感じている。Chicago Sun-Times紙は「もっと家族が欲しいの」というジラの言葉を紹介。夫を亡くし娘との仲も行き詰ろうとしている難しい役どころをノアは演じた。

『レッドライン ~悲しみの向こうに』全8話はCBSで放送済み。ノアが出演する懐かしの『ER 緊急救命室』はNetflixで配信中。(海外ドラマNAVI)

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『レッドライン ~悲しみの向こうに(原題:The Red Line)』©Elizabeth Morris/Warner Bros. Entertainment Inc.