エボラウイルスの保管庫で、職員の感染事件が発生。致死率90%というエボラ出血熱の拡散を防ぐため、研究者たちは自らの命を危険に晒しながらもウイルスの封じ込めに動く。実際に起きた事件を題材にした『ホット・ゾーン(原題:The Hot Zone)』全6話が、5月下旬に米National Geographicで放送された。
サルから始まる人類の危機
1989年、ワシントンD.C.郊外のフォート・デトリックにある陸軍の医学研究所。そのラボで働く科学者ナンシー(『ER 緊急救命室』のジュリアナ・マルグリーズ)の元に、アルミホイルに無造作に包まれたサルの心臓が届く。ナンシーが顕微鏡で心臓を調べると、そこにはエボラウイルスと思われる特徴的な影が。瞬時にその危険性を理解した彼女は、自らがすでに感染している可能性に思い当たる。完璧なはずの防疫服に穴が開いていたことが、恐怖を加速させる。
直ちにラボを封鎖し汚染を食い止める必要があるが、知識豊富なはずの同僚ピーター(『ザット "70s ショー』のトファー・グレイス)はパニックに陥り、まったく頼りにならない。感染が疑われるナンシー自身は隔離室に封鎖され、それ以上の対応が不可能となってしまう。
そこでラボの除染を買って出たのが、ナンシーの夫である軍人のジェリー(『ジ・アメリカンズ』のノア・エメリッヒ)。死の危険を顧みず、感染拡大を阻止するため立ち回る。感染力・致死率ともに極めて高いエボラウイルスが外部社会に出回れば、疫病の大流行は避けられない。アウトブレイクを阻止するため、ジェリーと研究者たちは時間との闘いを強いられる。
潔癖症なら戦慄
人々がエボラ出血熱に次々と感染してゆく、緊迫の『ホット・ゾーン』。潔癖症の人たちにとっては悪夢のような番組、と米Washington Post紙は表現する。「職場のトイレのドアを触りたくないからといって、ペーパータオルでドアノブをつまんで、そのまま紙を床に捨てていくような人がいる。そういう人には『The Hot Zone』という名の悪夢を視聴する刑を言い渡そう」とユーモアたっぷりに紹介。とはいえ、エボラウイルスは冗談で済ますことができない存在だ。現実世界では2013年に西アフリカでアウトブレイクが発生し、1万人を超える死者を出したと言われている。アメリカでも医療従事者を中心に感染者を出した。
エボラウイルスは致死性の高さだけでなく、感染力の強さも備えた恐るべき病原体だ。地下鉄に乗ったり鉛筆を拾ったりといった何気ない動作すら、人類を破滅に導く原因になり得る、と米Los Angeles Times紙。本作はリチャード・プレストンによる同名ノンフィクションをストーリーの骨格としながら、さらに実際の事件を取り入れることで、パニック寸前の緊迫の事態を克明に描写する。
現実感のある恐怖
本シリーズが恐怖感を掻き立てるのは、現実に起こりうる事態を描いているからだろう。例えば電車内で一人がくしゃみをすれば、ウイルスを含んだ100万もの飛沫が空気中に放たれる。現実世界でも我々は何らかのウイルスに感染する危険と隣り合わせで生きている。このような事例を挙げながらLos Angeles Times紙は、今日は家から出ないのが一番いいかもしれない、とレビュー記事を結んでいる。
一切外出しないというのはさすがに神経質になりすぎかもしれないが、日常に潜む危険に改めて気付かせてくれるという意味で意義のある作品だ。科学的見地からの懸念材料やそれに対する予防策について注意深く描写しているドラマだ、とWashington Post紙もリアリティを高く評価している。
National Geographicで放送された『The Hot Zone』は、科学者の叡智と尊い自己犠牲、そして今日の平穏の脆さを描くシリーズだ。(海外ドラマNAVI)
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ジュリアナ・マルグリーズ
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