スティーヴン・キング、J・J・エイブラムスという二人のヒットメーカーが、ジョン・F・ケネディ米国大統領の暗殺事件をテーマにしたサスペンススリラー『11.22.63』に続いて再びタッグを組んだミステリーホラー『キャッスルロック』。そのブルーレイ&DVDが8月7日(水)にリリースされるのに合わせて、同月2日(金)に都内で試写会が行われた。試写会前には、キングの「ニードフル・シングス」「不眠症」を翻訳した芝山幹郎(映画評論家・翻訳家)と森直人(映画評論家)によるトークイベントが実施され、非常に濃密なキング話が繰り広げられた。「本作を見るための予備知識」として披露されたそのトーク内容をお伝えしよう。
本作は、キング作品に頻繁に登場する架空の町キャッスルロックを舞台に、彼の作品でおなじみの人物や場所、アイテムが随所で登場する、キングファンにはたまらない仕掛けが満載のミステリーホラーだ。
キング作品における3大架空の町は、このキャッスルロックと、デリー(「IT」「不眠症」の舞台)、セイラムズ・ロット(「呪われた町」の舞台)。キャッスルロックは特に何度も登場する町で、「ニードフル・シングス」「デッド・ゾーン」「クージョ」「ダーク・ハーフ」なども同地でストーリーが展開する。作者の地元であるメイン州の町をベースに、想像力で膨らませた同地について、実際のメイン州の地図と、本作で一瞬映し出されるキャッスルロック周辺の地図を照らし合わせながら、芝山が解説。
キャッスルロックは人口1500人程度のスモールタウンだが、こうしたところを舞台にした作品は珍しくなく、キングの同世代だとデヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』や『ブルーベルベット』、スティーヴン・スピルバーグ監督の『JAWS/ジョーズ』も小さい町が舞台で、そのために「嫉妬や憎悪がはびこりやすい構造になっている」と芝山。そこから、地元を抽象化した架空の場所で何本もの壮大なストーリーが展開する例として、ウィリアム・フォークナーや宮沢賢治、中上健次といった文豪の名が挙げられた。
本編は1991年からスタートするが、これはキャッスルロックにとって大きな出来事が起きるエポック・メイキングな年であることも指摘された。その出来事については本編を見てのお楽しみにしてほしいので、ここでは伏せておこう。
識者の二人が挙げた本作のポイントの一つが構成力の高さ。「キングという作家はブルドーザーの面と精密機械の面を両方持っていて、ものすごい勢いでグァーと突進していく部分と、すごく細かいところを丁寧に丁寧に、異様なほどディテールを詰めていく能力を持っていて、その両方の面が本作ではうまく生かされている」と芝山。1シーズンで全10話、510分かけただけあってディテールが描き込まれており、「1966年生まれのエイブラムスはキング作品が多く映像化されるようになった1980年代に青春時代を送っているので、相性の良さが出ている」と森も賛同する。
本作に登場する人物の中でも印象深いのが、キングファンにはおなじみのキャラクター、アラン・パングボーン保安官。「ニードフル・シングス」や「ダーク・ハーフ」の映画版に登場していた頃はがっしりした体型だったが、2018年が舞台の本作では老人になり(演じるのは『Marvel ザ・ディフェンダーズ』のスコット・グレン)「ずいぶん痩せたなあ」と芝山は感慨深げ。彼と恋愛関係に陥る相手を演じるのは、キング作品への出演は1976年の『キャリー』以来42年ぶりとなるシシー・スペイセクということで、「完全に狙ったキャスティングですよね」と森。彼らの他にも、キング作品『IT』シリーズのビル・スカルスガルドら実力派が揃うが、「小粋な人は出てこなくて、全員やぼったい。これは『ニードフル・シングス』もそうだった」と芝山が語るように、きちんと計算された上でのキャスティングと言える。
そんなキャスティング以外にも、部屋に置かれたチェスの駒とキング作品の関係や、冒頭で流れる曲を流しているラジオ局はキング本人が所有するラジオ局であるといった注目点、トリビアが列挙された。
本作の中でも見逃せないエピソードとして、芝山は第7話を、森は第9話を挙げた。この2話は特にうまい構成になっており、それぞれが独立しながらもうまくつながっているため、「全話見た上で最初に戻ってくると分かることがある」(森)と意味深な発言も飛び出した。
キングについていろいろと語りながら、彼の長編はTVシリーズ向き、ということで意見が一致した二人。怖いだけでなく骨太なところやブラックな笑いもあって、『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーに似たものがキングにはあるため、「『キャッスルロック』は多彩なキングワールドの入り口として最適。いろんな発見がある」と芝山が言えば、「入門編としていい。見終わるとさらに謎が増えているので、シーズン2も楽しみ」と森が続ける。「キング作品は感染力が強い。噛まれた人は自分もゾンビになっちゃう感じ(笑)」と独特の表現をした芝山は、キング作品にあまりなじみのない人なら『キャッスルロック』をきっかけにして、彼の他のTVシリーズや原作、映画へと広げていくのがいいと勧めている。
キング作品はもちろん、その他の分野に関してもゲストの造詣が深いことから、当初予定されていた時間を過ぎても足りないくらいに話に花が咲いた今回。そんな熱のこもったトークに、キング作品の感染力の強さを目の当たりにした気がする。
■『キャッスルロック』商品情報
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『キャッスルロック』トークイベント
『キャッスルロック』
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