【ネタばれ】本能的な恐怖心を刺激するNetflix『マリアンヌ -呪われた物語-』 ホラー作家を襲う邪悪な魂...

ホラー小説に恐怖を感じているのは、誰よりも作者自身なのかもしれない。Netflixオリジナルの『マリアンヌ -呪われた物語-』は、作者自身の生活が小説によってむしばまれてゆくホラー・シリーズ。ひょうひょうと生きてきた売れっ子作家に、作品の大ファンだという猟奇的な老婆の影が迫る。9月中旬にリリースされた本作は、Netflixで配信中だ。

(※本記事は、同シリーズのネタバレを含みますのでご注意ください)

「ホラー作品を終わらせてはならない」

連載10年の長編ホラー小説についに終止符を打った若き人気ホラー作家のエマ(ヴィクトワール・デュボワ)。筆を置いたと同時に、彼女の身の周りで不可解な出来事が起きるようになる。手始めに、小説を書き始めてからは見なくなっていた悪夢が復活。夢のなかで深夜に老婆の訪問を受け、身体の一部を差し出せと脅される。その老婆には、永く疎遠になっていた中学時代の友人・カロリーヌの母親の面影が。

続いて現実世界でもショッキングな事件に遭遇したエマは、アシスタントのカミーユ(ルーシー・ブジュナー)を引き連れ、カロリーヌの母(ミレイユ・エルプストメイェー)を訪問。彼女たちが目撃したのは、別人のように変わってしまった老婆の姿だった。自らの歯を抜き、来客の前で失禁するなど、明らかに常軌を逸した行動に走るカロリーヌの年老いた母。エマの熱心なファンだという彼女は、終わってしまったホラー物語の続編を書けと迫るが...。村のあちこちに吊るされた歯の意味するところは? カロリーヌが口走った「灯台の事件」とは? 猟奇的な映像に身の毛がよだつフランス発ホラー。

売れっ子作家から急下降

本作を観る視聴者は、そのメリハリの効いた表現力に驚くことだろう。主人公・エマの日常生活を描く場面では、ジョークの効いた明るいシーンを多用して彼女への好感度を高める。英 The Telegraph紙は、彼女のパンクな性格を取り上げる。サイン会でお気に入りのシーンの朗読を求められると、物語の結末を読み上げ、あっさりと大長編のネタを明かしてしまう。本の売り上げが鈍ることなど歯牙にもかけないサバサバとした性格は、観ていて爽快な気分にさせてくれる。そして、得体の知れない老婆が現れると空気は一変。日常世界は音を立てて崩壊し、緩急自在のトーンが恐怖感をいっそう盛り上げる。

ひとたび恐怖の展開に突入すると、奇怪な現象は加速する一方。米Decider誌は、エマの目の前で起きたショッキングな出来事に触れる。出版社を訪れたエマは、カロリーヌが社屋で待ち伏せしていたことに気づく。上層の階に姿を現したカロリーヌは、エマが小説の続編を書かなければ老婆がエマの母を襲うだろうと言い遺すと、そのまま首を吊って息絶えてしまう。気楽に生きてきたエマだが、これを機に身の危険を感じるように。日常から異常な世界に引きずり込まれる瞬間を鮮やかに描写している。

正攻法が呼び覚ます、本能的な恐怖心

得も言われぬ薄気味の悪さが漂う本シリーズだが、その仕組みは思いのほかシンプルだ。喋る人形や降霊術に使われる文字盤など、歴代ホラー作品でもおなじみの小道具を導入。小細工なしのベーシックな攻め方だからこそ、かえって本能的な恐怖心に訴えるものがある。子どもがただシーツを被っているだけのシーンを観たThe Telegraph紙のレビュアーは、不安感でいっぱいになり微動だにできなかったと振り返っている。

このような戦慄のシーンに加え、本作では不完全な情報の数々が作品世界への興味を引き立てている。謎の一部を取り上げるDecider誌は、エマの過去に言及。故郷の町で歓迎されていない彼女だが、何年も前に彼女が起こしてしまった出来事とは一体何なのだろうか。学校に関係した何かだというが、全容がなかなか明かされないだけにもどかしさが募る。恐怖感に訴えるだけでなく、視聴者の好奇心をそそる周到な作りになっている。

静かな狂気の世界に引き込まれる『マリアンヌ -呪われた物語-』はNetflixで配信中。(海外ドラマ)

Photo:Netflix『マリアンヌ -呪われた物語-』(C)Emmanuel Guimier