日本人はもっと自分を愛さなきゃ!『クィア・アイ in Japan!』ファブ5に直撃インタビュー

センス抜群のゲイ5人組ファブ5が依頼人のヘアスタイルからファッションやインテリア 、思考に至るまで様々な分野についてアドバイスし、人生を華やかにしてくれる感動のリアリティ番組『クィア・アイ』。シーズン4までNetflixで独占配信されている本シリーズだが、スペシャルシーズンの舞台に選ばれた日本での撮影のため、今年2月にファブ5が揃って来日。撮影の合間に、貴重な話を聞くことができた。

――『クィア・アイ』が国や文化の壁を越えて、世界中の人に愛される理由はどこにあると思いますか?

カラモ:世界共通言語は愛なんだ。皆、愛されたいと思っているし、愛されているということを実感して、存在を認められたいと感じている。だけど、生きていると周りから非難されたり、勝手に判断されて、嫌われることもある。だからこそ、「今のままで十分素敵だ」「みんな君を愛しているよ」と言ってくれるこの番組に惹かれるんじゃないかな。

ジョナサン:YES! その通り!

タン:特にメディアなんかを見てもわかるように、世界中で人々が切り離され地域社会が大きく分断されているけど、僕たちの番組を見て、人は色んなふうに繋がることができるんだってことに気づくからじゃないかな。お互いに心を開くだけで素晴らしいことが起きる可能性があって、明らかだと思っているそうした隔たりが実はそうじゃないんだってことにね。

――皆さんとってもポジティブですよね。それを見ていて楽しいのですが、どうやって褒め上手になったのですか?

ジョナサン:どんな人であろうと、僕が今まで会ってきた人たちの中で"テロリスト級"に悪い人なんていないの。どんな人でも、どこかで自分との繋がりを感じることができる。僕はアメリカの田舎出身で、親戚の半分がトランプ支持者だったりするから、必ずしも全て賛同できるかって言われたらそうじゃない。でも、彼らだって認められたい、人と繋がりたいと思っている。そこは僕と一緒なんだ。だから、どこでその人と繋がれるかなっていう部分を探すようにしているの。でも、Twitterは別。ネガティブな気持ちは全部そこに吐き出しているの(笑)そうすることによって、実生活で出会う人に対してポジティブな気持ちで接することができるのよ。

ボビー:僕はもうちょっと真面目に話すね(笑)アメリカでゲイの男として育ち、嫌なこともたくさん言われてきた身としては、言葉の持つ力がどれだけ重要かを実感している。人に対する言葉がどれほど大切でそれによって傷つけられることもあれば、勇気づけられることもあるってことがわかっているんだ。だから、ポジティブなことを伝えるということを大切にしているよ。

――今回、日本で撮影をしてみて予想していなかったこの国ならではの違いはありますか?

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ボビー:僕は何度も日本に来ているし、東京は一番好きな都市でもあるんだ。全てが綺麗に保たれていて、時間通りに皆動くし、本当に最高だよね。だから、ここでの撮影も優秀なスタッフがいるだろうし、うまくいくってわかっていたけど、唯一心配だったのは言葉の壁だね。でも、それも全く問題なかったから僕個人としては驚くことはなかったよ。

ジョナサン:初めての来日だけど、オー・マイ・ゴッド! 全てが美しいのよ。歴史ある伝統的な建築物のすぐ隣に近代的な建物が並んでいるんだもん。あとは、英語だとお母さんに教えてもらったフレーズだけで会話ができるんだけど、メタファー(隠喩)が日本語には訳すことができなくて皆を混乱させちゃったわ。

アントニ:日本に来ることも、アジアに来ることも初めてだったんだ。北米だとみんな新しい建物が好きで、一方ヨーロッパは歴史のあるものが大事にされている。僕がここに来てすごくいいなと思ったのは、日本はその両方がうまく融合されていることだね。最先端のテクノロジーも素晴らしいよね。お風呂の自動湯沸かし器とかね!

ジョナサン:トイレのウォシュレットもよ!

アントニ:そうそう、トイレ! 近代的な建物の中に神社やお寺といった歴史的建造物がちゃんときれいに保存されていることもいいよね。あと、騒音のレベルも。高速道路でクラクションを鳴らすことがなったりとかね。世界で一番うるさいはずのメルセデス・ベンツGクラスを3台見かけたんだけど、全く音がしなかったんだ! すごく感動したよ。どうなっているのか知りたいね。最後にもう一つ、お気に入りになった食べ物を言わせて! 2度ほど(寿司屋の)久兵衛で食事をする機会があったんだけど、薄くスライスされた大根に梅のペースト、大葉と白ゴマがのったものをお寿司の間に出してもらって、本当に素晴らしかったよ。何で思いつかなかったんだろうって悔しくなるくらい美味しかった。そのくらい食に対するこだわりや敬意をもって食事を出してくれるという経験は貴重だったよ。また、他の国のものをどんどん取り入れていくという発想力も素晴らしい。例えば、ピザなんかも日本がマスターしているよね。

ボビー:アントニが言ったけど、日本人の持つ"敬意"が素晴らしいんだ。人に対してもそうだけど、全てものに対してリスペクトしている。大都市である東京ですら、こんなに清潔なんだから! 汚染も騒音もない。新宿みたいな人がたくさんいるところだって、「これって本当に街中なの?」って思うくらい静かなんだ。

ジョナサン:自分のことをこんなにうるさいなんて感じたことなかったほど!

ボビー:そうなんだ。日本人の持つ他の人に対する敬意っていうのはアメリカでは欠けていることだね。

――日本では"結婚をしないと幸せになれない"という固定観念があり、例えば、ゲイの友人ですら男だから結婚しないと、と周りから言われるという現状があります。それに対し、ファブ5の皆さんはいつもハッピーですが、幸せの概念というのはどこにあるのですか?

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ジョナサン:僕は「セックス・アンド・ザ・シティ・シンドローム」って呼んでいるんだけど、"どんなことがあっても私たちの愛は不滅よ"っていうのを夢見て、そこに幸せを見つけようとするっていうのは間違っていると思う。まず、結婚よりも何よりも自分自身を愛することが大切なの。それに対して付いてくるものは全ておまけだと思って。『クィア・アイ』の中でも恋愛や結婚生活をサポートするっていうエピソードがあって、それを見ていて楽しいというのは理解できるんだけど、まずはとにかく自分を大事にして、自分自身との結婚式を計画して欲しいわ。最近、恋人と突然別れたんだけどそのあとはフィギュアスケートに打ち込んだわ。一日4時間スケートに没頭して、自分の生活を充実させたし、かわいいバッグを買ったりしたの。外に出て人助けもしたわね。あと、日本に来てたくさんのことを学んで、多くの人に会った。日常のぬるま湯から抜け出し、新しいことを学んで自分の生活をもっと充実したものにすれば大丈夫よ。

カラモ:今回、日本での撮影で4人のヒーローたちに会っているんだけど、彼らも同じような悩みを抱えていたよ。生きている中でダメだって周りから言われたり、他の人を優先し、自分の幸せはその次なんだっていうね。だけど、「そんな考えはしちゃいけないよ、自分自身の幸せが一番だよ」というのを4日間掛けて伝えることで、彼らが変わっていくのを目の当たりにしたんだ。自分を愛することの大切さに気付いてくれたんだ。だから、多くの人にスペシャルシーズンを見てもらって、自分のことを優先して自分のことを好きになって欲しいね。

――(来日していたのは2月だったため)アメリカでは珍しいので奇妙に思われたかもしれませんが、日本では街中でマスクをしている人がたくさんいます。もちろん、風邪予防のためにつけている人もいますが、中には自分に自信がなく顔を隠しているという人も実はいるんです。

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ジョナサン:あーそういうことだったのね。

――はい。そのように自信がなくてマスクに隠れてしまっている人たちにメッセージをお願いします。

ジョナサン:僕は治癒能力をあげたいから、マスクは付けないの。それは自信をつけるっていう意味でも言えるんじゃないかしら...っていう冗談はさておき、人って居心地の良い状態にずっといると成長しないのよ。きっとマスクで隠すことで居心地がいいと思っているんだろうけど、じゃあ何から隠れているの? 何が怖いの?って自問自答してみて。今の状態でいきなり外すことは難しいかもしれないから、週に2回はしないで出てみるとかね。少しずつ自分を解放していくのよ。自分を防御するためにつけているのはかっこいいとは言えないわよね。ちょっとずつでいいから自分を変えていったらどうかしら。

カラモ:僕からも言わせて貰うと、今回日本の人たちと接して気づいたのは、彼らの多くが人には見せたくない部分を抱えていることだった。それは傷ついたことが発端だったりする。誰かから自分のことを変だとか醜いと言われたりして。その傷が今度は恥に変わって、自分もそうだと思い込んでしまうんだ。今回、特に感じたのは、まずそう思い込んでしまったこと、そしてそれを隠さなきゃと思っていた自分を許してあげていいんだと伝えることが最初のステップだということ。その思い込みから自分を解放してあげていいんだと自分で自覚する必要がある。そこから今度は、自分が抱えている「恥」だったり、「自己否定」を無くす為には別のメッセージで置き換えないといけないということを知ることが大事なんだ。ジョナサンが言うような、自分を肯定するという小さなことから始めてみるのでもいいよね。

ジョナサン:僕はこれを「学習棄却」って呼んでるんだ。

カラモ:そう、学習棄却だ。自分が好きになれる部分に目を向けるんだ。そして人に揶揄されるんじゃないかと自信が持てないものを抱えていたとしても、自分のことを「美しい」と言ってくれる、自分を支えてくれる人たちを周りにおくこと。自信が持てないのは誰だって同じ。人から「変だ」と言われた経験は誰にだってあって、みんな日々自分に「大丈夫だ」って言い聞かせているんだ。ありのままの自分こそが完璧な姿であって、そんな自分を愛するところからまず始まるんだって。そうやって一歩一歩進むことによってマスクをつけて自分を隠している人たちでも、自信が持てるようになるんじゃないかな。

ボビー:どうしたら自信が持てるようになれるかっていうことに関して、日本の場合、さっきの幼い頃から自分を優先させるのではなく、周り人のことをまず考えて謙虚でなきゃいけないという育てられ方の話に戻るんじゃなかな。それはある程度までは素晴らしいことだと思う。でも、日本文化全般に言えることは、もう少しだけ自分のことを愛してあげてもいいんじゃないかとも思う。これまで日本の人たちと接してきて感じたことは、みんな常に他の人がどう思うかを気にしている。何度も言うけど、それはそれで素晴らしいことなんだよ。調和のとれた社会を作ることができるんだから。でも同時に、個人の中に抱え込んでしまうものもたくさん産んでしまう。そのことにもっとみんな気づかないといけないと思う。『ル・ポールのドラァグ・レース』をみんな見てるかわからないけど、ママ・ルーの言葉を借りるなら、「自分を愛せなくて、どうやって他の誰かを愛せるって言うの?」ってこと。本当に本当にその通りだから。だって自分を愛せなくて、自分を美しいと思えない人が、結婚相手や家族に対して愛情を伝えられるわけないでしょ? 自分にだってできないんだから。今回日本で出会った依頼人たちにもそういう人は何人かいた。どうしても自分を好きになれない依頼人が一人いてね。僕たちから見たら本当に素敵な人なのに、自分ではそう思えなくて、だから奥さんに対しても愛情を伝えることができなかった。でも今は自分の素晴らしさに気づくことができて、奥さんに対する態度も変わったのを目の当たりにして、本当に最高だった。ようやく自分のことを好きになれて、奥さんも彼の愛を感じることができるようになった。だから、そこが唯一日本の文化に欠けている部分だと思う。もっと自分のことを愛していいと思う。そこは変わらなきゃ駄目な部分。まあ、アメリカ人は自分たちのことを愛し過ぎだけどね。

ジョナサン:僕が気づいたのは、一般的に日本人が抱える問題とアメリカ人が抱える問題を区別してその文化的背景の違いばかりが取り上げられるけど、国が違っていても抱えている問題はそんなに差がないの。一見全然違うように見えて、一歩下がって社会学的観点から見てみると、日本文化もアメリカ文化も、南アフリカもロシアも、みんなそれぞれ抱えている問題はあるけれども、突き詰めてしまえば、みんな愛を求めているのよ。みんな受け入れられたいと思っている。他のことは単なるおまけでしかない。だから、例えば日本人はもっとこうした方がいいとか、アメリカ人はもっとこうしなきゃ駄目だって話になると、そういう漠然とした一般論にはうんざりしてしまうんだ。だって、みんなそれぞれ必死に悩んでいるんだから。ISISのような原理主義者たちを除けば、絶対的な正解を見つけた人なんていないんだから。

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Netflixオリジナルシリーズ『クィア・アイ in Japan』は独占配信中。

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Netflixオリジナルシリーズ『クィア・アイ in Japan!』